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チャーチワード氏の花嫁蒐集

 チャーチワード氏が蒐集品に何より求めるのは珍奇さだ。
 ダマスカス鋼のバターナイフ、人皮装丁の魔術書、黒い睡蓮、始皇帝のサングラス、アボリジニ戦士の護衛等々。蒐集品の文化的価値、時にはその真贋すら氏にとっては二の次、珍奇さこそ最も心惹く要素だった。
 そんな氏が世にも珍しい花嫁を迎えたという報を聞き、ロンドンの蒐集家が集う会員制クラブの紳士達は色めきだった。
「氏は花嫁を選ぶため北米、ギリシア、エジプト、さらには日本まで行ったらしいな」
「世界中の新聞に花嫁募集の広告を出したんだと。三千エーカーの土地を持つ公爵、類い稀な花嫁を求む、と」
「聞いたかね?今夜その選ばれた花嫁を連れてくるそうだ」
「ここは部外者お断りだろ?特に女は」
「良いじゃないか。ここは『蒐集品』を見せびらかすクラブだ」
 彼等は軽薄に笑い合った。
 その直後、誰かが勢いよく部屋の扉を開いて転がり込んできた。
「はあぁッ!バターナイフとサングラスが無ければ即死だった!」
 噂のチャーチワード氏だ。小太りの体を震わせ喘ぎ、コートは獣に引き裂かれたかのようにズタズタで、あちこち焦げているかと思えば妙な粘液まで滴っている。
「暴漢にでもあったのかね?アボリジニの護衛は?」
「逃げた!しかも奴は日焼けしたフランス人だった!詐欺師め!まあいい、命拾いしたぞ。諸君らもだ」
 氏の物言いに紳士達は顔を見合わせた。
「何があったんだ?花嫁は?」
「ついさっき離婚した。うむ、まあ説明してやろう。誰かスコッチと葉巻を。長い話になる」
 氏は暖炉脇のソファに身を沈め、口髭から粘液を垂らしたまま語り始めた─

 私の花嫁募集には実に多くの応募が来た。長い旅になるがその中から選りすぐった数人に直接会いに行くことにしたんだ。
 最初の候補者は北米、辺鄙な港町に住む目が大きくユニークな顔の女性だった。古から続く由緒正しい一族の末裔というのが気に入ったんだがね、まさかあんな目に遭うとは─

【続く】

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