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10万光年愛人トーナメント

 屈強な草色の上半身を持つ、αケンタウリ星系人のイボツヌァが繰り出した4本足の回足蹴りが須臾子の側頭部に炸裂した!
 須臾子の視界は大きく傾き、リング上に大の字に倒れた。
『ダウン!唯一の地球人がここで敗退か!?』
「1!2!3!…」
「須臾子立て!それでも俺を倒した女か!?」
 実況の耳障りな合成音声もレフェリーのカウントも観客席にいるゴリラ…ではなくティタノマキア星人のゴライアスが飛ばす檄も、まるで水中にいるかのように遠い。
 (何でこんな事になったんだっけ?)
 須臾子はリングを照らすスポットライトを焦点の定まらない目で眺めながら記憶の糸を辿る。
 
 レメディオスの穏やかな声が囁く。
「須臾子、君はまだ自分の可能性に気づいていない」
 辿りすぎた。もっと最近―

 地球上で星系間ジョウント技術が開発され、異なる星系の知的生命と初めて交流が生まれてから8世紀。地球はフロンティアラインを広げ、命懸けの冒険をしながら通商や資源採取で莫大な富を築いた者もいた。その最たる地球人がレメディオス・ロスだった。
そして彼は訪れる星々、そこで遭遇した様々な種族と親交を持った。主に性的な意味で。
 継代が早い種族では彼は大地母神と交わった神格的存在となっているらしい。
 そんな精力旺盛な彼も病魔には勝てなかった。享年53歳。
 天涯孤独であった彼の莫大な遺産の行方に銀河中が注目し、代理人による遺言発表は星系間中継された。
「遺産相続対象はロス氏と直接的な内縁関係にあった52名のうち1名。ロス氏の定めた方法により選出される。それは―」

 (クレイジーだよね…遺産相続者をトーナメント戦で決めるなんて…)
 須臾子は揺れる視界を制して上体を起こす。
「6!7!…」
「須臾子!立て!」
(ゴライアスみたいなゴリラまで…節操なさすぎ…)
 須臾子はふらつきながら膝をつく。
(凡庸な私の何が好きだったの?)
「8!9!…」
 迷いを振りはらうように、須臾子は力強く立ち上がった!

【続く】


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