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三年目

33
2021年の詩まとめ
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#散文

すこし足りない、

すこし足りない、

電子レンジで温めなかった惣菜のからあげ
気の抜けた三ツ矢サイダー
削ってすぐに折れた2Bの鉛筆
あと一歩のところで点滅する信号
TLが更新されない平日昼間のTwitter
ピントが合っていなかった夕日の写真
冷たくなっていく理科室の机
夕日がなめらかに滲む黒板
日誌に記される誰かの今日
グランドからきこえる野球部の掛け声
リズムよく響く卓球のラリー
職員室から溢れる珈琲の香り
下駄箱にきれいに揃え

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未満

未満

お母さんみたいなお母さんになりたい、と小学生のときに言っていた友達。その子は絵がすごく上手で自由帳に漫画を描いていて人気者だった。将来は漫画家になるの、と言っていたのに急にお母さんになりたいなんて言いだすから、それは将来の夢なの?と当時も納得できずにいた。先生や友達は、えらいねとかすごいねとか言っていたけれど。なにがえらいのか分からない、少子化の日本で子孫を残すから?女として普通の正しい道を選んだ

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明るい終わり

明るい終わり

昼間のシャッター商店街はなんだか居心地がよくて、すこしだけゆっくりと歩いて通過する、時間がわたしを急かさない、そこにあった記憶だけが堆積していて、眩しい昼間の太陽さえも懐かしくみえる、世界終末ごっこ、わたしたちはたくさんの勘違いを共有して繋がっているの、その勘違いが絆とか愛とかになって、ほんものになっていくの、だから謝らないで、嘘つきの君をすきになったとき、じぶんのこともすこしだけ許せた気がして、

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autumn

autumn

真夜中の雨、きらきらしてるから、サンダルひっかけて浴びにいっても良いとおもえたんだよ、だれにも読まれない日記、遺書みたい、世界から消えたい度に鉛筆で綴ったコピー用紙一枚分の遺書はすべて燃えるごみになりました、わたしは2Bの芯と一緒にゆっくりと確実にすり減って死んでゆく、日記帳はすべて燃やして焼き芋をつくりましょう、夕焼け眺めながらきみと食べたい、秋は寂しい季節だねって、みんなそう思っているから正し

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ほんもの

ほんもの

きみは居心地が良いひとって言うと、それは相手が我慢してるからだよって誰かが刺してくるし、みんな違ってみんないい党は主張が強すぎてそれが正義だって受け入れないと刺してくるしみんな自分が自分がって相手を刺して刺されてわけがわからない、ほんもの なんて誰も知らないくせに、ほんものを求めたり貶したり、にせもののわたしたちはいつまでも、ほんもの未満に恋してる、相手にばかり穏やかさを求めてるけれど、君のその言

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0831

0831

美術室の隣の音楽室
重い扉を引けば天井が高く臙脂色に囲まれた空間
すべての教室にある机や椅子たちは
違和感として存在していて
五線譜黒板にらくがきすること
なんだか躊躇われて
いつだって綺麗で長いチョークが並んでる
夜中に絵画の音楽家たちが奏でるピアノ聴きたくて
忍び込んだ8月31日

夏

アスファルトに濃い影ができる夏

生きてるんだなぁって実感してしまう夏

眩しい笑顔をむけてくる君はいつだって消えてしまいそうで
向日葵畑がこわくなる夏

熱中症の一歩手前で君の幻をみた夏

蜩の鳴く帰り道は世界にひとりぼっちになった気分で

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カボチャの馬車にのって王子様に会いにきたシンデレラは午前0時に帰らなくてはいけないけど、わたしたちは午前0時に待ち合わせましょう、日付がかわるその瞬間、一日のすべてがリセットされて清くなります、まっさらになったわたしと君で、はじまりをはじめましょう、闇に浮かぶ三日月の滑らかなカーブで寝てみたい、輝く星たちはけっしてわたしたちを邪魔することない透明な光、二人が指差した星を繋いで秘密の星座をつくりまし

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せんせい

まだ世界の広さを知らなかった4、5歳のわたしのせかいは疲れない程度に歩ける範囲
通っていた医院は先生ひとりと看護師兼受付の女の人ひとりだった
もしかしたら看護師さんと受付のおねえさんは別人だったかもしれないけれど
あの小さな医院内に三人もの大人が居るとは思えなかった
お医者さんはその先生ひとりだと確信していたあの頃
子ども相手でも決して営業スマイルしない看護師さん(と受付のおねえさん)

診察後に

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とくとく

とくとく

こんなにも表面は冷たいのに
わたしにもあなたにも
燃えるような血が流れているということ
ぎゅっ、と
手を握りしめたら感じる
鼓動に眩暈がして
きょうも生きていることを突きつけられる冬の寒空