せんせい

まだ世界の広さを知らなかった4、5歳のわたしのせかいは疲れない程度に歩ける範囲
通っていた医院は先生ひとりと看護師兼受付の女の人ひとりだった
もしかしたら看護師さんと受付のおねえさんは別人だったかもしれないけれど
あの小さな医院内に三人もの大人が居るとは思えなかった
お医者さんはその先生ひとりだと確信していたあの頃
子ども相手でも決して営業スマイルしない看護師さん(と受付のおねえさん)

診察後にお薬と一緒にけろけろけろっぴや知らないサンリオキャラクターのシールをくれるおねえさんは表情をマスクに隠したままで
シロップの薬はねっとりした甘さのあとに苦さがのどに残って嫌いだったし
粉薬は舌に苦さを残していくからやっぱり嫌いだった
最近になってシロップの薬と同じようなものをみつけた
ほろよいのハピクルサワー
初めて呑んだときにびっくりした
きっとわたし以外の大人もびっくりしたんじゃないか

すこしおおきくなったわたしがテレビでその先生をみつけた
とんねるずの石橋貴明さんにそっくりだった先生
でもそれはこどもの曖昧な記憶とすこしだけ被る部分があったから
似ていると思ってしまっただけで
本当の先生の顔は思い出せない
今でもその医院の前を通るときは石橋貴明さんの顔がうかぶ

作品をまとめて本にしたいです。よろしくお願いします。