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800字100日チャレンジ

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「800字程度の短編小説を100日間続けてみよう!」というチャレンジで書いた短編小説をまとめています。
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記事一覧

短編小説|居場所を求めて

短編小説|居場所を求めて

 魔王を倒せば平和が訪れると思っていた。
 少なくとも剣の腕一つを買われて勇者として国から送り出された俺としては、そうであって欲しかった。魔王を倒して国へ戻れば、新たな魔王へと仕立て上げられていた。
 禍の芽は早くに摘むべし、と感謝されるだろうと思った国から命を狙われるハメになった。国境を越えれば、追手は来なかった。単純に国を脅かしかねない危険分子の排除として追い出されたらしい。尽くした国に命を脅

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短編小説|神の寵愛を受けて

短編小説|神の寵愛を受けて

 一目惚れだった。
 ふくふくと愛情深く育てられた子供は美味しそうなほど、愛らしい。求肥のように柔らかそうな頬を赤く染めてニコリと笑われたら、ひとたまりもない。神をも魅了した子供はあどけなく家族と笑い合っている。
 その笑顔を自分にも向けてほしい、と化物と恐れられて神に祀りあげられた蛇に初めて芽生えた感情だった。

 子供を攫うのはやめたほうがいい、と烏は言う。
 子供を生贄にするのはやめたほうが

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短編小説|初恋の終わり

短編小説|初恋の終わり

 その日、僕らは非日常へと招かれた。
 僕と親友は学校からの帰り道を歩いていた時、突然光った足元に吸い込まれた。気がつけば周りには剣を持った大人達が取り囲まれ、僕らは見知らぬ建物の中にいた。それはフィクションだと思っていた異世界への召喚だった。
 この国の王子は、僕の事を『聖者』と呼んだ。魔王を浄化する為に、選ばれたのだと。
 対して、親友の事をまるで初めからいなかったかのように扱う。彼の事は僕が

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短編小説|神の子

短編小説|神の子

 白い髪と金の目を持つ子供を、この村では『神の子』として崇めていた。
 村に大きなる富を呼び、住人が健やかに暮らすため、『神の子』として祀られた僕は、小さな小屋で暮らしている。日に三度の決まった食事を与えられ、眠る場所と雨風を凌ぐ屋根のある小屋での暮らしは、僕の思考を低下させた。存在したはずの両親の顔は記憶にもなく、僕を管理する大人に従順に従うばかりだった。そうしなければ、僕は生きていけないから。

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短編小説|眠れない夜に

短編小説|眠れない夜に

 夜中に起きたら、ルームメイトの鹿原が眠っていた。
 思わず何かの間違いか夢じゃないかと思ってもう一度瞼を閉じたが、腕から伝わる温もりが現実だと告げていた。
 全寮制の我が校は、二人で一部屋を使う決まりになっている。そして、その一部屋には二段ベットが各部屋に割り当てられていた。鹿原とは入学以来最低限の話をするだけで、ひと月を過ぎた今でもあまり会話らしい物をした事がない。
 ベッドの上下を決める時も

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短編小説|贈り物

短編小説|贈り物

 誕生日に電気ケトルを貰った。
 あっという間に湯が沸くたいへん便利なヤツだ。驚きなのはスピードだけではない。設定に応じた温度で湯が沸くちょっとグレードの高いヤツである。
 とはいえ、このとても便利なアイテムを使いこなせているかというと、全く使いこなせていなかったりする。宝の持ち腐れである。
 コーヒーや緑茶、紅茶など淹れる物によって適した温度にすると美味しいらしい。ケトルをプレゼントしてくれた友

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短編小説|余命延長

短編小説|余命延長

 ねぇ、気づいてるかしら。
 あなた、死神に憑かれてるのよ。もうすぐあなたの体は死期を迎える。そうしたら、ワタシがあなたの魂をお迎えするの。
 私利私欲のために私腹を肥やす王様なんて見捨てて、自分の生に正直に自由に生きたらいいのに。 人間ってめんどくさい生き物なのね。
 騎士って役職もそう。死ぬために行くような職業をわざわざ選ばなくてもいいのに。
「俺の命はあとどれくらいだろうか」
 自分の余命が

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短編小説|火に焚べる

短編小説|火に焚べる

 某日、おれが敬愛して止まない先生が、この世を去った。享年四十三歳だった。
 夜も眠らない日が続くような執筆が続いたからだろうか。わからない。あまりにも唐突で、現実を受け入れる事すら困難だった。
 家族のいない先生の葬式は、おれが取り仕切って行った。上司の心配りで仕事負担を減らしてもらったのが幸いした。気持ちの整理をつけながら式を整えて、先生を見送る。火葬場の小さな窓から見える炎を眺めながら、走馬

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短編小説|ピアスホール

短編小説|ピアスホール

 同僚の耳には、左右合わせて八個のピアスの穴があいている。普段は長めの黒髪で耳を隠しているのでさほど目につかない。ただ、ふいに髪の隙間から覗く複数の穴に目を奪われてしまう。
 彼曰く、「若気の至り」らしい。今でこそ八個まで減っているが、もっと穴があいていたらしい。耳以外にもあけていたとか。ストレスが溜まる度に穴を増やしていたとか、そんな話を聞いた事がある。
 就活をきっかけに徐々にピアスの数を減ら

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短編小説|ラッキーアイス

短編小説|ラッキーアイス

「アイスキャンディで当たりが出たら、」
 アイツはあの後なんて言ってたんだったか。
 昔、駄菓子屋で近所の子とケンカをした事がある。きっかけは今ではくだらくだらなくて、昔の俺には真剣に怒れてしまう事。
 お小遣いを握りしめて大好きなお菓子を買おうとしたら、最後の一つを取り合いになった。翌日また買えば良いのに、その時はどうしてもそれが食べたかった。お互いに一歩も譲らないケンカになったので、駄菓子屋の

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短編小説|ドーナツから始まる友達作り

短編小説|ドーナツから始まる友達作り

 帰りにドーナツを食べに行こう、と誘うだけなのにどうしてこうも言えないのか。
 クラスメイトの泡丈さんを誘おうとして、かれこれ一ヶ月程言えずにいる。それもこれもクラスの中で一番コミュ力が高い男子の誘いをバッサリ断ったのをら見たからだろうか。いや、単純に私が意気地なしなんだけど。
 泡丈さんと友達だったら、一緒に帰る時のノリで誘えたかもしれない。私と泡丈さんは友達ではないし、ドーナツを食べに行って親

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短編小説|恋するコーヒー

短編小説|恋するコーヒー

 私の親友は甘い物が大好きである。スイーツには目がないし、最低でも一日に一個は甘い物を食べている。
 そんな彼女が「コーヒーが飲めるようになりたい」と言い出した。好きになった男がコーヒー好きで飲めるようになりたいのだと言う。
 私の職場であるカフェへ通い、毎日一杯のコーヒーとケーキを注文する。コーヒーはカフェオレに角砂糖を四つ程入れるところから始まった。ブラックで飲んで二口以上飲めなかったからだ。

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短編小説|灰と共に

短編小説|灰と共に

 長いスランプと眠らない日々を乗り越えた原稿がようやく本になった。
 担当している編集部の男から「飲みましょう」と言われ、献本を受け取った足で飲み屋へ向かった。ちょうど別件の原稿を終えた脱稿ハイの状態だ。普段なら断る話を、気分が良いまま頷いた。
 唐突に頭が冷静になったのは、片手で数えられる数字を超えた後。俺はこんな所で何を飲んだくれているんだ、とアルコールで溶け始めた頭が急速に冷えていく。
「せ

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短編小説|塵になった貴方を探して

短編小説|塵になった貴方を探して

 海岸から砂を持ち帰っては、顕微鏡で眺めている。とうの昔に塵になって死んだ恋人がいるかもしれない、と希望を捨てきれずに。
 恋人は千年を生きた吸血鬼だった。時々、女性から注射器一本分程度の血をもらうくらいの少食で、血を飲まない時はミルクを飲むか、トマトを擦り潰して飲んでいた。吸血以外で人を誑かした事はないし、僕という恋人ができてからは特に他人を襲わなくなった。
 無害な吸血鬼だと僕は思っていた。

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