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短編小説|神の子

 白い髪と金の目を持つ子供を、この村では『神の子』として崇めていた。
 村に大きなる富を呼び、住人が健やかに暮らすため、『神の子』として祀られた僕は、小さな小屋で暮らしている。日に三度の決まった食事を与えられ、眠る場所と雨風を凌ぐ屋根のある小屋での暮らしは、僕の思考を低下させた。存在したはずの両親の顔は記憶にもなく、僕を管理する大人に従順に従うばかりだった。そうしなければ、僕は生きていけないから。
「それって楽しいの?」
 どこから入ったのか、村の少年らしき子供が部屋にいた。外に出ようという彼に首を横に振り続けて、出掛けない理由を伝えたら、つまらなさそうに言われた。
 僕だってつまらない。寂しい。けれど、子供の力では生きていけない事を知っている。
「ちょっと散歩しようぜ」
 彼は床の板を数枚外すと、半ば強引に僕の手を引いて外へ連れ出した。
 楽し世界だった。全てが輝いて見えて、雨や土の色々な匂いがする。灰色でカビ臭いあの小屋に戻りたくないと願ってしまうほど。それから数度、大人に内緒で外へ出掛けた。彼と遊び、知らない物を知る事はあまりにも刺激的で楽しかったのだ。
 自分が本来、それを望んではならないと忘れるほどに。
 外へ出掛けた所を大人に見つかった僕らは、二度と外へ出る事が叶わなかった。僕の両足には手枷が嵌められて、僕を連れ出した彼はこの小屋で僕の世話をする奴隷となった。これでも仕置きと称した暴力の上に、彼の命を奪おうとした大人をどうにか言い包めた妥協案だ。
 彼はもう僕の名前を呼ばない。『神の御子様』と呼んで、胡乱な目で僕の世話をする。
 僕らはこの小屋から出る事を許されない。
 けれど、馬鹿な子供ではいられない。人間は成長する。知恵を蓄え、体力をつけ、牙を研ぐ。僕らを縛る大人へ叛逆するその時を待つ。
 この小屋を出たその時、僕はまた彼と野山を駆け回りたい。

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