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短編小説|ラッキーアイス

「アイスキャンディで当たりが出たら、」
 アイツはあの後なんて言ってたんだったか。
 昔、駄菓子屋で近所の子とケンカをした事がある。きっかけは今ではくだらくだらなくて、昔の俺には真剣に怒れてしまう事。
 お小遣いを握りしめて大好きなお菓子を買おうとしたら、最後の一つを取り合いになった。翌日また買えば良いのに、その時はどうしてもそれが食べたかった。お互いに一歩も譲らないケンカになったので、駄菓子屋のおばちゃんがアイスキャンディをくれた。当たり棒が出た方に、アイスの交換の代わりにそのお菓子をくれるという。
 二人でそのアイスキャンディを無我夢中で食べた。当たりが出たのはどっちだったか。なぜかそこは朧気だった。
「なあ、子供の時にアイスの当たり棒どっちが出せるかやった奴あっただろ。あれって、結局どっちが勝ったんだっけ?」
 こういうのは当時を知る奴に聞くのが一番だ、と聞いたら呆れたような顔をされた。
「その勝負たくさんやったじゃない。私の十二勝八敗十五引き分けで」
「よく細かい数字覚えてるな。いや、そうじゃなくて、一番最初にやったやつ、たぶん」
「あれは……あれは、そう、私の勝ちよ」
「ほんとか?」
「十年も前の事、そんなに覚えてないわよ」
 勝敗と引き分けの数まで覚えておいて、そこを覚えてないなんて事あるだろうか。いや、俺もケンカの原因は覚えてる癖にその勝敗は忘れたのだから大概である。
 あの時のケンカした子とはすっかり十年来の付き合いの幼馴染であり、互いに指輪をするような関係でもある。当初はあまりにも男勝りで、彼女の事を同性の男友達だと思っていたものだ。勝ち気が強いのは変わらないが、あの頃に比べたら色々と成長したように思う。
「そうだ思い出した!」
「な、何をよ」
「ん? いや、秘密」
 菓子とは別で当たりが出たら、「友達になって」と当時の彼女にお願いされたのだった。
 

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