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短編小説|居場所を求めて

 魔王を倒せば平和が訪れると思っていた。
 少なくとも剣の腕一つを買われて勇者として国から送り出された俺としては、そうであって欲しかった。魔王を倒して国へ戻れば、新たな魔王へと仕立て上げられていた。
 禍の芽は早くに摘むべし、と感謝されるだろうと思った国から命を狙われるハメになった。国境を越えれば、追手は来なかった。単純に国を脅かしかねない危険分子の排除として追い出されたらしい。尽くした国に命を脅かされるとは思いもしなかった。
 それ以来、国を歩いて傭兵のような事をしながら、毎日酒に溺れている。強さを買われて護衛の仕事が舞い込むが、日に日に酒癖が悪くなる俺に、仕事が遠のいていくのは必然だった。
 とうとう酒代もなくなり、酒場の店主に追い出された。国を追われて以来世話になった店だが、金が払えないのでは客としても扱ってもらえない。
 酒で思考はどんどん沈んで停滞していく。おぼつかない足で街を歩く。家などもないので、その辺の路地で夜を明かすことも珍しくない。
 もう俺は誰にも必要とされないのだろうか。
 必要とされたから勇者になった。
 必要とされたから護衛の依頼も受けた。
 誰にも必要とされなければ、俺に居場所はどこにもないというのに。
「おい、勇者ともあろう男がこんな酒臭い路地で野宿か」
 生意気な言い草に思わず顔を上げる。目の前には少年がただ一人。この辺りでは見かけない褐色の肌だ。
「おい、勇者聞こえているのか。聞こえているなら返事をしろ」
「なんだ、ガキ」
「喋れる元気はあるな。よく聞け、おれはお前が倒した魔王の息子ディーリッヒ四十八世だ」
 魔王に息子がいたらしい。
「お前を雇ってやる。国を追い出された元勇者」
「おう、いいぞ」
「それともおれを殺すか、って、は? 即答するか、普通」
「俺は、俺を必要としてくれるヤツの所に行くだけだ」
「ならばついて来い。仇だろうがなんだろうが、魔王城の復興には貴様の力が必要だからな」
  誰でもいい。俺は誰かに必要とされたいのだから。それが仇敵の魔王の息子であったとしても。

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