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短編小説|余命延長

 ねぇ、気づいてるかしら。
 あなた、死神に憑かれてるのよ。もうすぐあなたの体は死期を迎える。そうしたら、ワタシがあなたの魂をお迎えするの。
 私利私欲のために私腹を肥やす王様なんて見捨てて、自分の生に正直に自由に生きたらいいのに。 人間ってめんどくさい生き物なのね。
 騎士って役職もそう。死ぬために行くような職業をわざわざ選ばなくてもいいのに。
「俺の命はあとどれくらいだろうか」
 自分の余命があまりない事には、自覚があるみたい。ワタシの事は気づかないのに。
 一番最初にあなたの魂を迎えに行った時は、野生の勘で切りかかってきたというのに。今ではもう、ワタシの姿なんて見えてない。
 あの時は、はっきりとワタシを捉えて目を見て今みたいに尋ねてきた。死神と話をしようだなんて彼も変わった人間だ。
「俺の寿命はいつだ」
「あなたの命なんて、長くてもこの戦場までよ」
「そうか、ならばよい。俺はこの戦で死ぬと決めているからな」
 潔い男だ。普通ならもっと生きたいと生を望んで、どうにもならないと絶望するのに。
 その日以降は、ワタシの姿なんて見えていないようだった。どれだけ呼びかけても反応もしないので、すでに彼の認識の外なのだろう。
 敵国の兵士が彼へと斬りかかる。寸でのところで避けたものの、剣が、槍が、弓が、次々と彼の身に襲いかかる。これで今まで生きているのだから、大した物である。大した猛者であった彼も、多勢に無勢ではなす術がなかった。彼の死と引き換えに、国は戦いに勝利し戦線を維持したのだった。
 骸となった彼の体はもう動かない。あるのは魂だけである。
「ばか、よ。酷い死に方してるのに、そんなに笑って」
 何本もの槍と剣と矢を針山のようにその身に受けて、彼は地に膝を落とす事なく壁のように立っていた。
「ようやくあなたの魂を回収できるわ」
 本当は彼に会った晩が、彼の寿命だった。どう言う訳か、彼に見つかったあの晩に寿命が僅かに延びてしまったようだが。
 魂は廻る。次の命ではあなたの行いが報われますように。ただの魂を回収するだけの死神が祈るにはあまりにも傲慢だが。

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