短編小説|恋するコーヒー
私の親友は甘い物が大好きである。スイーツには目がないし、最低でも一日に一個は甘い物を食べている。
そんな彼女が「コーヒーが飲めるようになりたい」と言い出した。好きになった男がコーヒー好きで飲めるようになりたいのだと言う。
私の職場であるカフェへ通い、毎日一杯のコーヒーとケーキを注文する。コーヒーはカフェオレに角砂糖を四つ程入れるところから始まった。ブラックで飲んで二口以上飲めなかったからだ。ミルクとコーヒーを入れてようやく飲めるようになった。
コーヒーを飲み続けて一年。彼女はようやく砂糖なしでも飲めるようになった。ウキウキと「明日デートに行くの」と言った翌日、大雨に濡れたまま彼女は店へやってきた。
フラれたのだという。一番お気に入りの服を着て、化粧もばっちりして、コーヒーも飲めるようになったのに、恋は実らなかった。服はびっしょり濡れているし、化粧も雨で幾分か落ちてしまっている。
「コーヒー、飲む?」
スタッフルームを貸して、ひとまず制服を着てもらっている。服は大急ぎで近くのコインランドリーに行って乾かしているところだ。
「飲む。ミルクとお砂糖たっぷり入れて」
「わかった。おいしいの作るから」
酸味も苦味も少ない、比較的飲みやすい豆を選んでコーヒーを淹れる。ミルクをたっぷりと、砂糖は五つ。これが一番、背伸びをしない彼女が好きな味だ。
「お待たせ。お気に召すといいな」
「君のコーヒーが美味しくない事なんてないよ」
こくり、と両手にカップを抱えながら少しずつ飲んでいく。「あまい、おいしい」と言葉をこぼしながら飲んでくれるので、味の心配はしなくて良かったようだ。
「わたしね、君のコーヒーが好きだよ。他では飲めないくらいには」
「いつでも淹れるよ。おいしいコーヒー」
たっぷりのミルクに、お砂糖もいれて。
いくらでも淹れるよ。君が好きな味はわかってるつもりだから。
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