短編小説|神の寵愛を受けて
一目惚れだった。
ふくふくと愛情深く育てられた子供は美味しそうなほど、愛らしい。求肥のように柔らかそうな頬を赤く染めてニコリと笑われたら、ひとたまりもない。神をも魅了した子供はあどけなく家族と笑い合っている。
その笑顔を自分にも向けてほしい、と化物と恐れられて神に祀りあげられた蛇に初めて芽生えた感情だった。
子供を攫うのはやめたほうがいい、と烏は言う。
子供を生贄にするのはやめたほうがいい、と狐は言う。
いずれにしろ、力づくというのは、どれも人間から恐れられる事になり、望まずとも新たな人間を差し出してくるという。ましてや、惚れた相手には惚れてもらえずに怯えられるのだと。
それならば直談判しかなかろう。
しかし、狼にそれは止められた。子供のうちでは番になるより先に、親になるのだと。
彼らの言葉に苛立ちを隠せなかったが、いずれも彼らの経験に基づいた助言なのでありがたく受け取る事にした。
烏も狐も娶って十数年は怯えられたという。あの手この手で、相手の警戒心を解き、ようやく思いを通じ合わせたのだとか惚気られた覚えがある。狼は未だに番になる事もできずに、子供の成長を見守るように惚れた相手と暮らしている。もはや情愛などない親の気分だとも愚痴をこぼしていたのを聞いた事がある。
諦めて子供が成長する時を待つ事にした。
ただし、子の両親には予め伝える事にした。
「子供が成人を迎える年、嫁に迎え入れる」
神の言葉に首を横には振らないだろう。狐や烏には「やめておけ」と散々言われたが、いきなり訪れて子供を寄越せと言うよりは心算ができるだろう。
蛇の姿でいきなり現れては子供にも警戒されるだろうと、人間の姿をとって様子を見に行く。
健やかに育つように食べ物を与え、成長していく過程は見ていて飽きない。今はまだ幼い子供ではあるが、この子が成長する姿が今からたいへん楽しみである。
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