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短編小説|ドーナツから始まる友達作り

 帰りにドーナツを食べに行こう、と誘うだけなのにどうしてこうも言えないのか。
 クラスメイトの泡丈さんを誘おうとして、かれこれ一ヶ月程言えずにいる。それもこれもクラスの中で一番コミュ力が高い男子の誘いをバッサリ断ったのをら見たからだろうか。いや、単純に私が意気地なしなんだけど。
 泡丈さんと友達だったら、一緒に帰る時のノリで誘えたかもしれない。私と泡丈さんは友達ではないし、ドーナツを食べに行って親睦を深めたいくらいだ。
 別に誘えないなら無理に誘わなくていい、と私の中で悪い心が囁いてくる。一緒に行かなくても困らないけど、私は泡丈さんと仲良くなりたいし、一緒にドーナツを食べたいので頑張るしかないのだ。
「あ、あの、泡丈さん」
「どうしたの、真山さん」
 今日は大進歩。泡丈さんに話し掛ける事ができた。話し掛ける事ばかり考えててどうやって切り出すか何も考えてなかった。
「あ、あの、その、ドーナツとか好き?」
 ストレートすぎる。ほとんど話し掛けた事がないクラスメイトからこんな突飛な質問されたら絶対困る。
「ええ、好きよ。真山さんも好き?」
「え? あ、うん! その、よかったら」
 クーポンを口実に一緒に行けたりしないかな。そう思って一人で行った時に貰ったクーポンを取り出す。
「い、一緒にドーナツ、食べに行かない?」
 言った。言ったぞ、私。頭の中はもうお祭り状態だ。この言葉を言えただけでも花丸貰えるのでは。
「もちろん、一緒に行きましょ」
「やっぱり無理だよねぇ……。え?」
「ほら、ドーナツ食べに行くんでしょ?」
 幻聴じゃなかった。泡丈さんは鞄を肩にかけて、もう片方の手で私の手を取る。
「私も真山さんと食べに行きたかったの。真山さんから誘ってもらえなさそうだったら、もう私から声掛けちゃおうと思ってて」
「へ? もしかして知ってたの?」
「ふふ、ナイショ。早く食べに行きましょ」

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