「GANTZ」と「進撃の巨人」に生じた差とは?
今回は、「GANTZ」について書いてみたい。
これは2000年~2013年に週刊ヤングジャンプで連載されていた奥浩哉先生の漫画で、2004年にアニメ化、2011年に実写化、そして2016年3DCGアニメ化されている。
原作の累計発行部数は2000万部を超えてるというから、大ヒット作といっていいだろう。
とはいえ、全て完結した今だからこそ言えることだけど、この作品は終盤にいくにつれて明らかに盛り下がっていったよな・・と。
そのへんが、「進撃の巨人」と比較すると印象がだいぶ違う。
<GANTZ>
・連載2000年~2013年(13年間の連載)
・コミック全37巻
・TVアニメ化、実写映画化、3DCGアニメ化
・発行部数2400万部
<進撃の巨人>
・連載2009年~2021年(12年間の連載)
・コミック全34巻
・TVアニメ化、実写映画化、アニメ映画化
・発行部数1億4000万部
どっちの作品もグロくて、プロットも謎のバケモノと闘っていくところまでは大体が同じである。
しかし、このふたつの作品において後半以降は物語の深みに差がつき、気が付けば発行部数でも大きな開きが出るようになっていた。
私はそれを見て、率直に「GANTZって後半失敗したな・・」と思ってたんだが、でも奥先生の次作「いぬやしき」見て、ようやくひとつ気付いたのよ。
あぁ、ようするに「GANTZ」は、奥先生が描きたかったモノと我々が見たいモノに途中からズレが生じてたんだな、と。
我々は、この作品を当初「SF」と捉えてしまったもんだから
・GANTZとは一体何なのか?
・セカイの仕組みはどうなってるのか?
という「設定」の方にばかり関心がいってたんだよね。
・・いや、そういうのを「進撃の巨人」に求めるなら全然OKなんだ。
諌山創先生は、ある意味「設定」を物語の最重要項目にしてるから。
だけど、「GANTZ」や「いぬやしき」は、そうじゃない。
それらにおいて「設定」はあくまで読者を物語に導入するツールにすぎず、奥先生が本当に描きたかったものは「人間」と「現代社会」の方である。
事実、後に作られた「いぬやしき」とか、設定の詳細はもうほとんど度外視じゃん?
一方の「GANTZ」は、その仕組みが判明していく後半になるにつれ、当時の読者の反応が
「え?宇宙人?・・設定、なんかざっくりしててショボくね?」
と冷ややかになっていったんだけど。
私を含めて多くの読者が、当時はまだそういうところがあまり重要ではないということに気付けなかったんだ。
しかし「GANTZ」の全体の世界観が分かった今、敢えて原作通りには設定を明確にせず、ふわっとした形ながらも一応完結をさせた、アニメ化・実写化作品の評価をやり直す必要があるな、と私は思ったんだよね。
①2004年TVアニメ化「GANZ」(監督・板野一郎)
②2011年実写映画「GANTZ」(監督・佐藤信介)
③2016年3DCGアニメ化「GANTZ:O」(総監督・さとうけいいち)
この3つのうち、率直に「スゲー!」とドギモを抜かれたのは③である。
さとうけいいちといえば、「鴉karasu」「タイガー&バニー」「アシュラ」「いぬやしき」「神撃のバハムート」などで日本トップクラスの3DCG技術を見せてくれたCGクリエイターである。
「GANTZ:O」も、マジ凄かった~!
この作品は、十分にハリウッドと互角に張れる内容だったと思う。
いちいち細かい説明をせず、とにかく原作の「大阪編」の戦闘のみを抜粋。
物語の開始早々、主人公・玄野が死ぬという潔さ(笑)。
うん、こういうアニメ化も一応ありだと思うよ。
3DCGも、セルルックでなくフォトルックゆえ好き嫌いは分かれるだろうが、私はフォトルックにしてバケモノを敢えてリアルに描写したという点を評価したい。
そして②の実写版。
これは前後編になってて、2作計の興行収入が60億を超えたというんだから大ヒットといっていいだろう。
さすが、ジャニーズ二宮+松山ケンイチのW主演効果。
数あるアニメ実写化映画の中でも「るろうに剣心」「DETHNOTE」と並び、これは成功した事例として多くの人に記憶されてるかと。
ただし映画オリジナル展開が多く、またオチも映画独自のものになってて、でもそれが意外と悪くないんだよ。
むしろ原作のオチより、こっちの方が私はしっくりきたけど?
ただひとつ難をいうなら、二宮くんがマトモすぎて主人公・玄野の醜悪さがあまり浮かび上がってこなかったこと。
その点、①の玄野の醜悪っぷりは凄かった!
正直、見ててこれほど不快になるアニメもあるまい。
こんな不快なアニメを一体誰が作ったのかと思いきや、庵野秀明の師匠こと板野一郎だったわ(笑)。
板野さんは、断じて追尾ミサイル「板野サーカス」だけが売りというわけではない。
基本、この人はエログロの色が強いんだよね。
彼の過去作品のうち、「エンゼルコップ」や「バイオレンスジャック」などはグロさがマジでエゲツなかったよ・・。
彼は「人間の業」を描く一環として、そこに孕む狂気や醜悪さを描くことを特に得意としている作家だ。
そういう意味では、「GANTZ」はいい素材だったんだろう。
奥先生と板野一郎の作家性はかなり近いものがあるともいえて、ある意味で原作のキモさを最も忠実に表現できていたのは①なのかもしれない。
原作13年間の連載の中で、①はまだ連載4年目のうちにアニメ化しちゃったもんだから、当然オチはアニメオリジナルのものとなっている。
ここが意味不明なので、おそらくアニメとしては一般的に低評価となってるんじゃない?
だけど、私はこれもありだと思うのよ。
物語が地下鉄駅ホームから始まり、最後もまた地下鉄駅ホームで終わる、というプロット。
おそらく板野さんは地下鉄シーンをこの作品の最重要ポイントと解釈してたんだろうし、私もその解釈は間違ってないと思う。
きっと奥先生も、ここを描きたいが為に「GANTZ」を作ったんじゃない?
・地下鉄ホームから落ちたホームレスを助けようともせず、ただ傍観してる群衆
・玄野たちが危機に陥っても助けようともせず、むしろ死を期待して写メを撮る群衆
・玄野らが列車に轢かれ、切断されて飛散した玄野の首を決定的瞬間として写メで撮影する女子高生
このへんの細かい描写が、本当にエグい・・。
ホームにいる人々自身は気付いてないものの、線路側からのアングルで彼らを見上げると、それはもう異常な集団である。
あぁ、人間とはこれほど醜悪な生き物なのか、と。
このシーンは、視聴者に問いかけてるんだよ。
あなたはこの状況で、ホームレスを助けますか?
それとも、自分は関係ないとして傍観する方の立場になりますか?
多分、ほとんどの人が傍観者に回るだろうね。
「誰か駅員呼びに行けよ」と声を上げる人もいるんだが、なぜその人は自分で呼びに行かないんだろう?
これだけたくさん人数がいれば、自分じゃなくても誰かが動くだろうという判断。
そういう判断をホームにいる全員がしたもんだから、結局、最後まで駅員は来なかった・・。
奥先生は、そういうモノを描きたくてしようがない作家なんだろう。
「当事者意識の欠落した一般人」、これは作中によく出てくるサイコパスに匹敵するほど危険で怖い存在である。
まぁ、作品の面白さでいうと
③>②>>>>>>>>①
なので、敢えて①をお薦めしようという気もないんだが、でもこれ、言われてるほどの駄作でもないよ。
「GANTZ」の解釈として、むしろ最も正解なのかもしれないし・・。
ちなみに、③のさとうけいいちさんは奥先生の次作「いぬやしき」をアニメ化し、②の佐藤信介さんも実写版「いぬやしき」を撮っている。
両作品ともよくできていて、これは普通にお薦めできる。
特にさとうさんはアニメと特撮の両方をこなせる人で、今後アニメ界浮沈のカギを握るキーマンのひとりかも。
経歴は、元お笑い芸人らしいけどね(笑)。
さとう監督作品の中で、私が特にお薦めしたいのは「アシュラ」だな。
人肉食を扱っていてグロいものだけど、テーマとしては
高潔に死ぬか?醜悪に生きるか?
という実に奥深いアニメであり、これは「GANTZ」にも通じるものがある。
ぜひ一度、ご覧になってください。