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アニメでは、なぜ美少女たちが闘うのか?「ガルフォース」

いまどきは男の主人公でなく、女の主人公が闘うアニメが多いよね。
まあ、脆弱に見える女子が屈強な男子を吹っ飛ばすのは確かに痛快であり、エンタメの基本線ではある。
とはいえ、昔はそうでもなかったんだよ。
昔の王道パターンは、ヒロインが敵にさらわれて人質にされ、それを主人公(男)が助けにいくというのがひとつのパターンだった。
でも、いつの頃からだろう。
そういうベタな展開は少なくなり、むしろヒロインも積極的に闘うようになってきた。
こういうの、女性人権的なあれかな?
いまどき男に守られるだけが女じゃありません的な、男女平等的な思想からして、敢えてヒロインを強く描く必要があるのかも。

「ストライクウィッチーズ」

上のは「ストライクウィッチーズ」で、このての美少女+ミリタリーという企画も最近は非常に多い。
他にも「ガールズ&パンツァー」や「艦これ」など、なぜかこれらは男子がほとんど出てこず、女子ばっかりで戦ってるんだよね。
ひとつは、絵的にその方が華やかで見映えがいいというのもある。
こうして美少女ばかりの編成にすれば、必ず視聴者側に「推し」が出てくるというのもあるし。
こういうの、ルーツを辿ればやっぱり「セーラームーン」かな?
と私は思ってたんだが、いやいや、それよりもっと古いルーツを見つけたのよ。
それが、「ガルフォース」である。

「ガルフォース」

「ガルフォース」、知ってる?
テレビアニメでなくOVAだから知る人ぞ知るかもしれんが、これは1986年、すなわちOVA黎明期の大ヒット作である。
美少女バトルアニメの先駆けでもあり、「セーラームーン」よりずっと古いんだよね。
ロリキャラ、眼鏡キャラ、ドジっ子キャラ等を揃えており、ある意味萌えの先駆けともいえるかもしれん。
だけど、いまどきのユル~い萌えアニメとは全然違うのよ。
逆に、めっちゃ真面目な作りになってて、作画も脚本も想像以上にしっかりしている。
正直、私も最初は絵のイメージから少しナメた目で見てたんだけど、途中で「思てたんと違う!これガチなやつや!」と気付き、正座してもう一回最初から見直したからね。
これ、実は壮大なサーガなのよ。

①ガルフォース宇宙章 全3話
②レアガルフォース 全1話
③ガルフォース地球章 全3話
④ガルフォース新世紀編 全2話
⑤ガルフォース ザレボリューション 全4話

という構成で、時系列でいうと①の数千年後が②と③で、その数百年後が④ということになっている。
⑤だけは①のリメイク(?)みたいなやつだから別として、一応①~④は話が全部繋がっている大河ドラマなんだ。
正直④と⑤はあまりお薦めしないが、少なくとも①~③は素晴らしい出来である。
数あるOVAの中でも、クオリティがトップクラスなのは間違いないと思う。
私、迂闊にも少し泣いたからね・・。

ヒト型女種族ソルノイド
液状生命体種族パラノイド

基本、「ガルフォース」は戦争の物語である。
①は上の画のソルノイドvsパラノイドという戦争になっていて、主人公らはソルノイド陣営の兵士たちなのね。
実はこのソルノイドって、女だけの単一生殖種族である。
これ、なかなか画期的な設定だよ。
アニメでは、なぜ美少女たちが闘うのか?
という当初の疑問に対して、これ以上ないほど明確な答えを示してくれてるわけで。
だって設定上で男がいないんだし、女が闘うより他はないじゃないか、ってね。
なるほど、今に至る美少女バトルアニメの歴史は、この「女が闘うより他はない」という設定上のニーズから全てが始まったのか・・。
ちなみに、敵のパラノイドも単一生殖種族なんだよね。
なんか、エイリアンみたいな見た目だけど。
そう、この作品って、映画「エイリアン」の影響をモロに受けてるのよ。
いかにも「エイリアン」オマージュっぽい宇宙船内のシーンもあった。
ああ、そうか。
思えばハリウッドでも、「闘うヒロイン」の先駆けがシガニーウィーバー(「エイリアン」の主人公)だったっけ・・。

パワードスーツを着用し、エイリアンと闘うシガニーウィーバー

いまどきの若い人はシガニーウィーバーといっても分からんかもしれんが、彼女が日本のサブカルに与えた影響はめっちゃデカかったと思うよ。
・女性なのに、闘うとめっちゃ強い
・パワードスーツを着用したバトルのパイオニア

という2つの意味で、かなりエポックメイキング的な女優である。
彼女が出てくるまで、そんな女優はいなかったもんな。
後にはアンジェリーナジョリーとかミラジョボビッチとか強そうなのが結構出てきたけど、それらの先駆けはやはりシガニーウィーバーである。
そう、OVA黎明期はまさに「エイリアン2」公開時期とカブっており、その影響をアニメ作家たちがモロに受け、皆こぞって「闘うヒロイン」像を描くようになったんだよ。

シガニーウィーバー

ただ悲しいかな、彼女はちょっとビジュアルがオッサンでねぇ・・。
アニメではオッサン成分をカットし、美少女キャラに変更。
とにかく、80年代という時代は
日本のアニメ<<ハリウッド映画
であり、みんな大体はハリウッド映画からネタをパクってきてたんだ。
「エイリアン」はもとより、「スターウォーズ」「ブレードランナー」「ダーティーハリー」などの影響も大きかったと思う。
だけど、一体いつからだろうね。
いつの間にか、ハリウッドのクリエイター側が
日本のアニメ>>ハリウッド映画
と捉えるようにさえなってきてるらしく、たとえば「攻殻」実写化で押井守がハリウッド行った際、向こうの人たち、めっちゃ緊張してたらしいよ。
時代は、変わるものである・・。

「ガルフォース」宇宙章

「ガルフォース」の話に戻ろう。
確か、「エイリアン」でシガニーウィーバーはエイリアンの赤ちゃんを胎内に宿してしまう展開になってたが、実は「ガルフォース」も似たような展開になるんだよね。
こっちはもっと陰謀めいたものだったけど、やがてその生まれた子供が物語最大のカギとなっていく。
ひとつネタバレすると、どうやらその子供(ソルノイドとパラノイドの混血種)が我々地球人の祖先、ということになるみたいなんだわ・・(笑)。
で、物語が宇宙章から地球章に受け継がれていくわけよ。
そして、この地球章の話もなかなかよく出来ていて、ひと言でいえば【歴史は繰り返す】ということ。
これを見てようやく、宇宙章の敵キャラ・パラノイドが一体何者だったのかが分かる、という仕組みである。
うまい脚本だったな~。
宇宙章はスペースオペラ、地球章はミリタリー。
テイストは違うけど、どっちも甲乙つけがたいほどに面白い。
いまどきの美少女バトルアニメも、このぐらい脚本を緻密に練ってくれたら嬉しいんだけど。

結構凄い艦隊戦の作画
銀河を消滅させられるほどの最終兵器

よく考えたら、このOVAが作られてた頃は、まさに米ソ冷戦真っ盛りだったんだよね。
そういう時代の空気感、作品によく反映されてたと思う。
上の画の最終兵器。
これこそ米ソ冷戦における核ミサイルボタンみたいなもんで、それを押せば世界が滅ぶことも分かっちゃいるが、でもメンツとして、向こうが押せばこっちも押さざるを得ない、という人間の業。
で結局、両陣営とも押しちゃうわけよ。
戦争⇒世界滅亡⇒再生⇒戦争⇒世界滅亡⇒再生
「ガルフォース」のサーガは、ひたすらそのループである。
人類は、いつも過ちを犯す」というのが描かれると同時に、「輪廻転生」が常に描かれ、キャラたちが滅ぶと次の再生した新人類からまたそっくりなキャラが出てくる、という仕組みなんだ。

「宇宙章」
「地球章」
宇宙章とは時代も異なる別人だが、見た目はほぼ同じで見分けがつかない

ある意味で「ガンダム」と同じ、救いのないループシステム。
一度戦争が終わって平和が訪れたとして、その平和は次の戦争への助走期間にすぎない。
というか、ちゃんと戦争を終わらせる為、人類は滅亡しなくてはならない。
結構シビアな物語だけど、意外と本質を突いてるような気がする。
そう、これは美少女アニメのくせに、妙に深いんだ。
皆さんも、見る時はナメてかからないように。
かなり、ちゃんとしたSFですよ?


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