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日本アニメの歴史は、丸山正雄プロデュースの歴史でもある

今回は、アニメ界きっての名プロデューサー、丸山正雄について書いてみたい。
丸山正雄といってもピンとこない人はいると思う。
じゃ、これを見てくれ↓↓

そう、「SHIROBAKO」の丸川社長だ。
この丸川社長のモデルが、丸山氏だといわれている。
実際、丸山氏もカレーを作ってスタッフの皆に食わせてたりしたらしい。

こっちが本人

アニメ界のプロデューサーといえば鈴木敏夫の方が名は通ってるかもしれんが、個人的には丸山氏の方が力量は上じゃないかと思ってたりもする。
まず、この人は虫プロ出身なんだ。
最初のうちは手塚治虫先生の助手みたいなことをしてたらしいけど、やがて出崎統・杉野昭夫・りんたろう・川尻善昭らと経営危機の虫プロを辞め、マッドハウスという新会社を設立。
マッドハウスは皆さんもよくご存じだろう。
最近では「葬送のフリーレン」という大ヒット作を輩出したし。
というか、もともとの独立のキッカケは「あしたのジョー2」だったらしい。
これの1期目は丸山&出崎コンビで企画し、虫プロでアニメ化して大成功したんだが、続く2期目はオトナの事情で東京ムービーがやることに確定してしまい、それを聞いた丸山&出崎は虫プロを辞めてフリーになり、すぐさま東京ムービーに駆け付けて「あしたのジョー2」を作った、とのこと。
・・こういう話を聞くと、アニメ業界ってどんなとこやねん!と思ってしまうよね。
少なくとも、サラリーマン的常識が通用しない世界っぽい・・。

丸山正雄の出世作「あしたのジョー」

で、マッドハウスが実質稼働するのは「エースをねらえ!」からだろうか。
これの制作も東京ムービーとなってるものの、実際のところ監督・出崎統、脚本・丸山正雄、作画・杉野昭夫、ED作画・川尻善昭となっており、事実上マッドハウス制作といってもいいんじゃないか?
で、これが大ヒット。
早速、新興マッドハウスの名が業界に轟いたわけさ。
その後のマッドハウス・丸山正雄プロデューサーの仕事の概略は以下の通りである。

<りんたろう>

映画「銀河鉄道999」で名を上げたりんたろうは、その後もKADOKAWAとのタイアップで映画での活躍が目立った。
・幻魔大戦(1983年)
・カムイの剣(1985年)
・迷宮物語(1987年)
・X-エックス-(1996年)
・メトロポリス(2001年)

オムニバス「迷宮物語」は、大友克洋の監督デビュー作「工事中止命令」が含まれている

<川尻善昭>

日本初の北米進出映画「SF世紀レンズマン」で監督デビューした川尻善昭は、その後OVAを数多く北米市場でセールスして、海外から高い評価を得る監督となった。
・妖獣都市(1987年)OVA
・魔界都市-新宿-(1988年)OVA
・CYBER CITY OEDO808(1990年)OVA
・獣兵衛忍風帖(1993年)映画
・バンパイアハンターD(2001年)映画
・アニマトリックス(2003年)OVA

ハリウッド企画「アニマトリックス」には、マッドハウスから川尻氏と弟子の小池健が参加

<今敏>

丸山氏に誘われる形で監督としてデビューした今敏は、そのデビュー作「パーフェクトブルー」にて海外映画祭の賞を得ることに。
以降、主に映画で数々の名作を生み出していくこととなった。
・千年女優(2002年)映画
・東京ゴッドファーザーズ(2003年)映画
・妄想代理人(2004年)TVアニメ
・パプリカ(2006年)映画

「パーフェクトブルー」は、米映画「ブラックスワン」「インセプション」の元ネタとされている

<細田守>

丸山氏は名作「時をかける少女」のアニメ版リメイクを企画し、その監督として細田守を抜擢。
細田氏が手掛けた「おジャ魔女どれみ」の原田知世出演回「どれみと魔女をやめた魔女」(←必見!)を見て、「時をかける少女」の監督は細田氏だ、と思いついたらしい。
結果的に、映画は大成功した。
続けて細田のオリジナルで「サマーウォーズ」を制作。
これも大ヒットとなった。
ただし、この後は細田氏が自身の会社を立ち上げた為、「おおかみこどもの雨と雪」以降の細田作品は全てマッドハウスの手を離れている。

この作品がなければ、今の細田氏はなかっただろう

もともとマッドハウスの社内アニメーターも人材が充実しており、その出身者をざっと挙げると
・小池健(アニマトリックス、REDLINE、LUPIN THE ⅢRD)
・いしづかあつこ(ノーゲームノーライフ、宇宙より遠い場所)
・荒木哲郎(DEATH NOTE、進撃の巨人、甲鉄城のカバネリ)
・立川譲(デスビリヤード、モブサイコ100、BLUE GIANT)
などなど、かなり粒揃いだったんですよ。

で、丸山プロデューサーはその後、映画「この世界の片隅に」を企画して、これの制作の為に新会社MAPPAをわざわざ立ち上げたんですよ。
MAPPAは、皆さんもよくご存じだろう。
呪術廻戦」等で、いまや日本で最も凄い映像を作る会社のひとつとされている。
だけど元々はそういうコンセプトじゃなく、「この世界の片隅に」を何とか世に出そうとする為の会社だったらしい。
ああいう地味な映画だから、クラウドファンディングで資金を工面するなど色々苦労したっぽいよ。
まぁ、あれが丸山氏のプロデューサー業としての集大成だったかもしれないね。
その結果はご存じの通り、まさかの大成功ですわ。

名作「この世界の片隅に」

丸山正雄、ホント凄い人だよ。
70年代から現在に至るまで、ず~っと名作を出し続けている。
同じプロデューサーでも、鈴木敏夫氏の場合は「宮崎駿ありき」という少し偏りのある成功事例なのに対し、丸山氏はそうじゃない。
人材を見つけては引っ張ってきて、一緒に仕事して、リリースして、というのを地道に繰り返してきてるのよ。
「この世界の片隅に」の片渕須直にしても、マッドハウス時代にSTUDIO4℃から強引に引っ張ってきてるからね。
片淵氏には、ずっと昔から目をつけてたとのこと。
彼は、マッドハウスで「BLACK LAGOON」「マイマイ新子と千年の魔法」を手掛けた。
とにかく丸山氏は、「人を見抜く力」が尋常じゃない人らしい。
あと、人脈もまた凄い。
大体、設立してまだ十数年しか経ってないMAPPAが、もうここまで大きくなってるのが常識的におかしいでしょ?
これは丸山氏を慕って、人がたくさん集まってきたんだそうだ。
凄い話である。
そりゃ、「SHIROBAKO」でアニメキャラ化もされちゃうわな・・。

俗にいう「人たらし」なんだと思う

ある意味、日本アニメ史=丸山正雄の歩み、なんだよね。
とはいえ、プロデューサーとしての興行成績は鈴木敏夫氏に遠く及ばない。
具体的な数値では、鈴木氏が
・千と千尋の神隠し⇒317億円
・もののけ姫⇒202億円
・ハウルの動く城⇒196億円

なのに対し、丸山氏は
・この世界の片隅に⇒27億
・サマーウォーズ⇒17億円
・幻魔大戦⇒11億円

あたりがMAXで、他は赤字になったものも多い。
事実、今敏作品などは全てが赤字だったそうだ・・。
そうはいっても晩年にきて「この世界の片隅に」のヒットを飛ばし、どこか彼のプロデューサー人生が報われた感がある。
実は丸山氏、MAPPA以外にも「スタジオM2」という新会社を作っていて、そこで昨年、Netflix作品「PLUTO」を制作した。
「PLUTO」は虫プロ出身・丸山氏の原点である手塚治虫先生の原作アニメ化であり、同時に「YAWARA」「マスターキートン」「MONSTER」など、常に浦沢直樹作品のアニメ化を手掛けてきた丸山氏の集大成といえる気がする。
なんかさ、プロデューサー人生の総仕上げにかかってきたね。
一昨年には生前葬も済ませたらしい。
おそらく、丸山氏は生涯にあとせいぜい1作品を手掛けられるか否かというところであり、聞けばMAPPAは子会社として片渕須直の映画を作る為だけの「コントレール」という新会社を作ったようで、その片渕氏新作のタイトルは「つるばみ色のなぎ子たち」とのこと。
ひょっとしたら、これが丸山氏が関与する正真正銘最後のアニメかも・・。

「つるばみ色のなぎ子たち」は、清少納言モチーフの作品だそうだ


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