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海外では【今敏>庵野秀明】という評価らしい

今回は、今敏監督について書いてみたい。
2010年に46歳という若さで亡くなった今監督だが、ホントに惜しい人を日本アニメ界は失ってしまったと思う。
確か彼が世間一般で有名になったのは、2011年にアカデミー賞を獲ったダーレン・アロノフスキー監督が、受賞作品「ブラックスワン」は今監督の「パーフェクトブルー」のオマージュであることを公言してからだと思うよ。
それまで「パーフェクトブルー」を知らなかった人も、それを機にみんなが見るようになった。
実は、私もそのクチでね。
つまり今監督作品を熱心に見るようになったのは、彼が亡くなってからだということ。
もともと、海外(特に欧米)では今監督は宮崎駿あたりと並べて崇められるカリスマだったみたい。
あるいは早逝したことも、一層彼のカリスマを高めてるのかもしれない。

これは狂気を描いたサスペンス不朽の名作だが、制作費はたった9000万だったという

さて、今回私が取り上げたいのは「パプリカ」、そして「妄想代理人」である。
なぜ2作品かというと、このふたつは密接に繋がってるからだよ。
本命は「パプリカ」である。
これは2006年に公開になった作品だけど、今さん的には「パーフェクトブルー」の次に「パプリカ」をやるつもりだったんだそうだ。
なんか会社の倒産やら何やらで、その当時の計画はご破算になったらしい。
でも、だんだん今監督の名前が売れてくると、遂に念願の「パプリカ」制作が再決定。
結果としてこの作品は国内外で大成功し、米ニューズウィーク誌が選出した「歴代映画ベスト100」に、日本のアニメから唯一本作がランクインしたという。
また、クリストファー・ノーラン監督の「インセプション」は本作に着想を得たともいわれている。
ここまでくると、もはや世界のSATOSHI・KONだね。

世界的に大ヒットした「インセプション」
そういやこれ、渡辺謙がおいしい役だったね

この「パプリカ」の2年前、彼は生涯唯一のテレビアニメ「妄想代理人」という作品をWOWOW用に作っている。
これもまた、なかなかの名作。
「パプリカ」は夢、「妄想代理人」は妄想、どっちも潜在意識の産物が現実世界に浸食してくる話で、着想の根っこは同一である。
だから、もし時間に余裕があるなら、この2作品をセットでの視聴をお薦めしたい。
より一層、今監督のイメージが伝わってくるから。

「妄想代理人」は、いうなれば「口裂け女」や「ひきこさん」や「トイレの花子さん」等の都市伝説に近い「少年バット」という存在が、次々に通り魔として現実に人を襲うというサスペンスである。
といっても、「犯人は誰か?」というミステリーではない。
なぜって、「少年バット」は実在する人物じゃなくて、ヒロインの狂言によって生み出された架空キャラなんだから。
え?
架空のキャラが実際に人を襲うわけないじゃん、と思うところだろうけど、なぜか次々に被害者が出てくる。
それに一番驚いたのは、最初に襲われたと嘘をついたヒロインだろう。
こういうの、「口裂け女」でも「ひきこさん」でも「最初に嘘をついた人」というのが日本国内に必ず実在してたわけで、その人は日本全国に蔓延した自分の狂言をどんな気持ちで聞いてたんだろう、と思うよね。
マスコミに「私が一番最初に言い出した者ですけど」と名乗りを上げる人物がいなかったところを見るに、「さすがにこれヤバい・・」と思って当人は素知らぬフリをしたんだと思う。
「妄想代理人」の場合、ヒロインが妄想癖のあるキャラ設定っぽく、確信犯的狂言というよりは無意識的なニュアンスがある。
とはいえ、こういう嘘をついてる自覚がない方がむしろタチ悪いというか、もはや心療内科の領域。
で、こういうのが後にどんどん出てくるのよ。
それら被害者は自作自演でありつつ、各々が本当に自分は「少年バット」に襲われたと信じてるわけで、これは無意識が自意識を凌駕してしまったんだと思う。
そして、この無意識がユングいうところの「集合的無意識」とシンクロすることで、やがて「少年バット」は全ての大衆の無意識に刷り込まれた巨大な怪物となっていった。
ここまでくると、もはや妄想が現世に受肉したといっていいだろう。

最初はただの少年の姿だった「少年バット」が・・
集合的無意識とシンクロして巨大化、モンスター化していった

そして、このシステムを「夢」という別のフィールドに落とし込んだのが「パプリカ」である。

「夢」といえば、アニメファンならまず思い浮かぶのが押井守監督作品の「ビューティフルドリーマー」だろう。
かつて、押井さん原作で今さん作画の漫画を連載してたこともあるらしく、このふたりは思考がやや似てるような気がする。

さて、主人公は上の絵の女性・パプリカで、実は↓↓の女性の第二人格という設定。

第一人格の千葉敦子

ようするに、千葉さんは多重人格障害なんだろうね。
「妄想代理人」にも、そういう女性が出てきてたっけ。
昼間はお堅い大学研究室の助手、夜は淫らな風俗嬢。
第一人格と第二人格が「ホンモノは私よ」といって喧嘩してたんだけど、「パプリカ」でも同じようなシーンが挿入されていた。
ただ、驚いたのは作品の終盤で千葉さんとパプリカが同じ空間で共存してたシーンさ。

理論上、ふたりが並び立つことはないはずなんだが・・

なぜ、千葉さんとパプリカは現実世界に並び立つことができたのか?
これは「妄想代理人」でも同じことがいえて、もともとは妄想の産物であるはずの「少年バット」が街で暴走し、現実に都市が広範囲で半壊してるわけよ。
妄想なら、現実世界の物体を破壊できるわけないじゃん?
といいたいところだが、今監督の考え方は「妄想代理人」なら妄想と現実の境界線、「パプリカ」なら夢と現実の境界線、そういうものが壊れたということ。
それにより、ふたつの世界がひとつの世界に融合された、というロジックだね。
この考え方は、昔からよくいう「胡蝶の夢」というやつで、そもそも我々がいうところの「現実世界」って本当に現実なの?
これもまた夢の中だという可能性はないの?
ということなんだ。
うん、現実を現実であるということの証明は難しいよ。
映画「マトリックス」なんかがそうだが、今までずっと現実と思ってたことが実は現実じゃなかった、なんてオチも100%ないとは言い切れん。
そして、もしここが現実じゃなく夢だというなら、別の夢と融合してここにあっちの奴を受肉させることもできなくはない、という気がしない?
いやいや、私が本気でそう思ってるわけじゃなくて、今さんの作品の世界観はそういう思考で成立してるってことさ。

「パプリカ」では、夢の中にいた怪物が現実世界に顕在化した

それにしても「パプリカ」見て思ったこととして、主演の林原めぐみさんはやっぱりいいよね~。
正直、声質でいえば「妄想代理人」ヒロインの能登麻美子さんの方が圧倒的に可愛いんだけど、林原さんの場合は発声がいいのかな?
なぜか刺さるんだ。
最近90年代の「スレイヤーズ」とか見てるんだけど、林原さんの魔法詠唱の巧さは、イマドキの中堅声優さんたちですらいまだ追いつけていない領域かもしれない。
このところ、彼女が明らかに仕事をセーブしてるのは本当に残念。

左から、今敏監督、原作者の筒井康隆、林原めぐみ、古谷徹

まぁとにかく、今敏監督作品を見たことないという人は是非一度見てくれ。
ちょっと怖さもある一方で、私は「妄想代理人」見て少し泣いたからね。
ちゃんと感動もある。
ちなみに、「パプリカ」はハリウッドで実写化プロジェクトが動いてるそうだ。
さて、今さんの映像美を実写で再現できるのかな?

「パプリカ」 シュールな画だよなぁ・・
みんな笑顔のOP映像は何か不気味で怖かった「妄想代理人」

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