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おそらくアニメの映像表現としては、これが暫定世界王者

昨年、巨匠・宮崎駿の最新作「君たちはどう生きるか」が米アカデミー賞でオスカーを受賞したことは皆さんもご存じの通り。
ただその一方で、その受賞に現地でブーイングが入った、という報道も耳にしたはずだ。
そのブーイングというのが、
「なぜ、オスカーが『アクロスザスパイダーバース』じゃないんだ?」
というものだったらしい。
実際、前評判としては「アクロスザスパイダーバース」の方が大本命だったという話もある。
まぁそんなわけで、今回、私はこの「スパイダーバース」第2作というのを見てみました。
で、率直に驚いたよ!

これって、オスカー逃したことに納得しない人が一部で出たってのも、そりゃ十分すぎるほど頷けるぐらいの大傑作じゃん?

「スパイダーマン:アクロスザスパイダーバース」(2023年)

そもそもこのシリーズ、1作目となる前作からして良かったんだよね。
実写があれほどヒットしてるのに、わざわざアニメでやる必要ある?」と思わせておいて、これが実写シリーズとは全然違うコンセプトを打ち出してきやがった。
もともと宇宙は1つではなく、実は無数に宇宙は存在する(マルチバース)わけで、その各々のバースに各々スパイダーマンがいるんだよ、というのがこのアニメシリーズが打ち出してきた新機軸。

前作に出てきた、各バースのスパイダーマン

これ、面白かったよねぇ。
特に我々日本のアニメファンとしては、アニメっぽいバースから来たというペニーパーカーが超ツボでしたよ↓↓

だけど2作目を見て、「前作は単に伏線を撒いてただけだったんだな・・」ということに初めて気付く構造。
そう、このシリーズの構造そのものは2作目になってから初めて明かされるのよ。
伏線の考察などが大好きなオタク気質には、タマらん系のやつだね。
その伏線の量の多さたるや、おそらく全部を拾い切るのは不可能な気がするなぁ。
めっちゃ頭を使う系というか、もともとマルチバースなんてSF的題材だから厄介だし、小さな子供とかこれを見て、ちゃんと理解できるのか心配になるほど。
とにかく、情報量が多い!

これ、アニオタ的には「エウレカセブン ハイエボリューション」シリーズをイメージすれば話が早いと思う。
「スパイダーマン」にせよ「エウレカ」にせよ、どっちもメディアミックスをやりすぎて「Aで死んだ奴がBでは生きてる」みたいな矛盾があっちこっちに露見してたんだよね。
で、それらをひとつにまとめるには、「マルチバース」という考え方に集約するしかないわけよ。

・Aのバース⇒死んでる
・Bのバース⇒生きてる
バースが複数あるのだから、生きてることと死んでることは矛盾しない

「エウレカセブン」も、複数のバースのエウレカがいる、というまとめ方をしていた

で、この「スパイダーバース」シリーズに関していうなら、マルチバースの物語への組み込み方が、「エウレカ」の時よりも遥かに緻密だったわ。
そもそも、各バースの均衡を維持する為に、わざわざ中央管理局っぽい組織「スパイダーソサエティ」まで準備されてるんだからね。

一体何人おるんや?というほどスパイダーマンがいる「スパイダーソサエティ」

で、この「マルチバース」というのは「ひとつのビッグバンから生じた複数の泡のようなもの」という考え方らしくて、つまり各バースは起源を同一にする兄弟みたいなものなんだろう。
DNAはほぼ同じだから結構似てるけど、しかし各々が各々の個性を獲得している。
とはいえ、なぜかここに量子力学でいうところの「波動関数の収縮」っぽい概念が組み込まれてるんだよね。
各バースとも、「運命」とでもいうべき共通の事象が起きるようプログラムされてるっぽいんだ。
それが、「カノンイベント(正史の出来事)」と名付けられてたやつさ。
そして、そのカノンイベントのキモとなるのが「スパイダーマンとなる人物と近縁の者が死ぬこと」だったりするわけよ(確かに、今までの同シリーズでそうならなかった例はなかった)。
もし、そのカノンイベントの発生を妨害すれば、次元の崩壊のようなことが起きるのでは?とされている。
あくまで仮説っぽいけど・・。

主人公マイルスと、その両親

で、主人公・マイルスのいるバースでは、今後にマイルスの父の死がカノンイベントとなる予定っぽい。
当然マイルスとしてはそれを阻止したいところだけど、でもマルチバースを管理するスパイダーソサエティとしては、カノンイベントの発生を完遂させなければ(つまりマイルスの父が死ななければ)、バースが消滅してしまう危機があると見ている。

で、その顛末として

マイルスvsスパイダーソサエティ


という、まさかのスパイダーマン同士の抗争に発展してしまうわけだ。
凄いストーリー展開だね~。

で、私が非常に興味深かったのが、この作品における監督さんの存在である。

「アクロスザスパイダーバース」監督

・ホアキンドスサントス
・ケンプパワーズ
・ジャスティンKトンプソン

なぜか、3人もいるんですね。
じゃ、「総監督」は?と思うけど、どうやらそれはプロデューサー兼脚本の
フィルロード&クリストファーミラーが務めてるっぽいニュアンス。

じゃ、前作はどうだったのかというと、

「スパイダーバース」監督

・ボブペルシケッティ
・ピーターラムジー
・ロドニーロスマン

そうか、前作から監督総入れ替えになってるのか。
それでもシリーズとして一定の統一感を維持できてるのは、アメリカだと「映画とは、プロデューサーのもの」とする文化土壌のなせる業だろう。
日本とは、制作の文化が少し違う。
思えば日本だと、作画のアニメーターさんたちがいて、その上に作画監督がいて、その上に総作画監督がいて、さらにその上に監督がいて、何段階もの手が入って初めてひとつの統一性ある作品に仕上がるんだが、じゃアメリカの現場はどんな感じになってるんだろう?
まぁ、そもそもがあっちはフル3DCGだし、そこからして違うんだろうけどさ。
ただ、「アクロスザスパイダーバース」を見てると、各々の3人の監督が「ここがワシの見せ場やねん!」と、お互い譲らないぶつかり合いをしてるようにも見えたんだよね。
それが140分という長尺の理由にも思えたし、あと、とにかく最初から画面の情報密度がやたらに濃くて、その濃さがず~っと途切れることなく、結局は最後の最後まで続いちゃうのよ。
前菜、スープ、メイン、デザートといったグラデーションがあまりなくて、ひたすらメイン⇒メイン⇒メインという感じだったなぁ。
それが本作の良さともいえようが、人によってはかなり疲れるかもしれない。
多分、これ見てると体重1kgほど落ちると思う。
私、見終わった後はガリガリだったもん。
その濃いシーン連鎖の一例として、スパイダーマンvsスパイダーマン軍団のくだりを少しだけ見てもらおう。

ホントにスゲーよなぁ・・。
日本でもWITSTUDIOMAPPAがこのへん大得意の分野だろうが、やっぱり米ソニーピクチャーズアニメーションにここまで本気出されると、まだ日本は勝てないな、と率直に思いました。
多分、これは3DCGアニメのひとつの到達点だと思う。
今後、日本アニメはこれを指標とし、これを超えていくことを目標とすべきだね。

まぁ、ひとつ本作に文句つけるなら、楽しみにしてたペニーパーカーがほぼ出てこなかったこと。
ラストに、ちらっと小さく登場しただけだった・・。
だけど、そのペニーの不在を補って余りある、めっちゃかわいい新キャラが登場したのは嬉しい。
それが、この子なんです↓↓

このスパイダーマン(ピーターBパーカー)の頭にぶら下がってる、幼女のことね。
この子はメィディパーカーといって、ピーターの娘さんなんです。
小さいけどスパイダーマン的能力はもう備えてるようで、今後の活躍に期待できそう。
こういうキャラを準備してくるあたり、ホント抜かりないわ~。

まぁとにかく、面白さでいうと本作は前作を上回ってるかと。
未見の方は、是非ご覧ください。
3部作らしいので、次作で完結。
「3部作は2作目が一番面白い」というのもあるらしく、思えば「エウレカ ハイエボ」シリーズも2作目が一番面白かった気がする。
「スターウォーズ」も、2作目「帝国の逆襲」が一番好きだな。
ヒキの強さでいうと、本作はかなり「帝国の逆襲」に近い。
名作だと思うぞ。


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