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出崎統が魅せる、オトコの理想形「スペースコブラ」

今回は、「コブラシリーズについて書いてみたい。
これは言わずと知れた、寺沢武一先生の代表作である。

「スペースコブラ」(1982年)

この「コブラ」シリーズは

①コブラ スペースアドベンチャー(1981年)劇場版
②スペースコブラ(1982年)テレビアニメ
③COBRA THE ANIMATOIN ザ・サイコガン(2008年)OVA
④COBRA THE ANIMATOIN タイムドライブ(2009年)OVA
⑤COBRA THE ANIMATOIN(2010年)テレビアニメ

という順で発表されている。
私がお薦めしたいのは、②だ。
「80年代のアニメは、作画がアレだろ?」と思うだろうけど、そこは心配しなくていい。
①と②は、あの伝説の出崎統+杉野昭夫コンビが手掛けてて、他の80年代アニメとは一線を画す仕上がりである。
もちろん③~⑤はいまどきの作画が綺麗で、確かに悪くない。
だけどアニメって、「味」が大事だと思うのよ。
「味」という点では、やはり①~②に軍配を上げざるを得ない。
ちなみに、①と②では主演声優が違う。
①が松崎しげる
②が野沢那智
松崎しげるって、歌手だよね?

何で彼がチョイスされたのか謎だが、初代コブラが松崎さんというのは事実である。
ちなみに、野沢那智さんは②、③、④を務めていて、⑤だけが内田直哉さんが務めている(野沢さんが癌の闘病の為)。
内田さんは本職が俳優で、声優としてはアニメより洋画の吹替メインの人。
しかし洋画吹替ならば、野沢那智さんの方がレジェンド級である。
アランドロンとか、アルパチーノとか。
さすがに野沢さんほどの大物になるとアニメはあまり頻繁にやってくれず、このコブラと「エースをねらえ」の宗方仁ぐらいしかマトモにやってないんじゃない?
そういう意味じゃ、「コブラ」はレジェンド声優・野沢那智の名演を聴ける貴重な作品である。
出崎統+杉野昭夫+野沢那智
3つのレジェンドの化学反応を見れるのは、②の「スペースコブラ」だけ。

でさ、「スペースコブラ」はOP曲がまたいいんだよ。
ルパン三世」でお馴染み、大野雄二さんのジャズっぽさを基調にした音楽が心地いい。
そう、これを制作してるのは「ルパン三世」の東京ムービー
寺沢武一先生はコブラ役に山田康夫さんを希望してたらしく、どこか先生のイメージの中でもルパンとコブラは似た部分があったのかも。
オンナ好きで軽妙でユーモアがあり、一方で頭がキレるタイプ。
70~80年代におけるヒーロー像のひとつである。

「007」ジェームズボンド

ジェームズボンドも今はダニエルクレイグになって軽妙さが消え、すっかりシリアスなテイストになってしまったが、昔は毎回「ボンドガール」相手にチャラい男でしたよ。
コブラもまさにそんなタイプで、レディ(cv榊原良子)という「正妻」がいつつも、たびたび新たなヒロインを迎える「ボンドガール」システム。
いわば「007」スペースオペラ版といったところか。
「新ヒロインを迎えるたびに、レディってどういう心境なんだろう?」とは思うけど・・。
榊原良子といえば「ナウシカ」クシャナ、「Zガンダム」ハマーンカーン、「パトレイバー」南雲隊長が有名だけど、この「コブラ」レディもまた彼女のキャリアの中で最高のもののひとつである。

コブラのパートナー・レディ
この造形美、やはり寺沢先生は天才だと思う

ところで、コブラが闘う相手というのは常に「ギルド」である。
でもさ、いまどきの異世界アニメを見てる人は、「ギルド」に悪いイメージなんてないでしょ?
そう、異世界ファンタジーのギルドとスペースオペラのギルドは似て非なるものなんだわ。
スペースオペラの古典が仮にSF小説「砂の惑星」(1965年発刊)だとして、そこに出てくるギルドは宇宙皇帝ですら逆らうことのできない、一大勢力として描かれてるわけで。

映画「砂の惑星」(1984年)で描かれた皇帝とギルドの会談シーン
(手前が皇帝で、奥の水槽の中のクリーチャーがギルドの偉い人)

多分、「コブラ」のギルドもこのイメージから創作されてるんだろうね。
「砂の惑星」だと、ギルドの連中は「スパイス」という薬物の影響で肉体がクリーチャー化してる設定で、変異したことから様々な特殊能力を持ってたりもする。
「コブラ」においても、ギルドの奴らは大体がバケモノ。

クリスタルボーイ
サンドラ
サラマンダー

このへんがアメコミっぽいというか、いかにもマーベルとかに出てきそうなディランである。
このノリについていけない人は、やはり一定数いるだろうね・・。
作風はハードボイルドでオトナ仕様なのに、悪役の造形が妙に子供っぽいというアンバランス。
いや、こういうのがアメコミの王道ですよ。
アベンンジャーズ」っぽいノリ。
いわれてみりゃ、コブラってロバートダウニーjrっぽいキャラだよな?

ロバートダウニーjr
「アイアンマン」の赤コスチュームって、コブラ+レディという気がしないか?

寺沢先生の描くヒーローは一匹狼タイプというのが常で、「コブラ」以外だと「MidnightEyeゴクウ」が有名じゃないかと。
スペースオペラの「コブラ」に対し、サイバーパンクの「ゴクウ」。
これはウィザード級ハッカーである私立探偵が主人公のクライムアクションで、アニメはOVAが2本出てるよ。
「コブラ」の監督が出崎統なのに対し、「ゴクウ」の監督は川尻善昭ゆえ、よりハードボイルド色が強い。
ヒロインは毎回死ぬのがお約束なパターン。
やっぱ、川尻作品はハズレがないよなぁ・・。
これも「コブラ」同様、超オススメです。

「MidnightEyeゴクウ」(1989年)

80年代で早くもサイバーパンクを描いていた先進的な寺沢先生だけのことはあって、漫画にCGを導入した世界で最初の人でもあったらしいね。
ただ残念なことだが、彼は90年代に脳腫瘍で倒れてしまう・・。
脳の一部を切除したことで創作活動はもう絶望かと思いきや、先生はコブラ並みのタフガイだったみたいで、半身不随になりつつも現場に復帰。
OVA「COBRA THE ANIMATOIN」では監督・脚本・絵コンテまでも務めたという。
そして、TV版「COBRA THE ANIMATOIN」放送終了とともに息を引き取られたそうだ。
凄い人だわ~。
めっちゃ、ややこしい人だったみたいだけどね(笑)。
少年ジャンプ編集部としても普通に原稿上げてくれないから、寺沢先生だけ編集長預かりの特別扱いだったとも聞く。
ただし、上がってくる原稿は芸術品レベルの仕上がりで、他の漫画家さんとは次元が違うクオリティだったそうだ。

寺沢武一先生

で、先生自ら携わった「COBRA THE ANIMATOIN」も確かにいいんだけど、でも私としてはやっぱり「スペースコブラ」だなぁ。
70~80年代の東京ムービーのアニメって、なんかいいのよ。
「ルパン三世」でも、最近のやつ以上に1~2期の評価が高いし。
この時代はハードボイルドが普通に時代の主流でもあったから、その空気感が作品にうまいこと反映された感じ?

松田優作の「探偵物語」
松田優作の「遊戯」シリーズ

この時代のハードボイルドって、主人公がやや三枚目というか、オチャメである。
松田優作が、その典型。
私が思うに、コブラの原型はこの時代の松田優作じゃないかな、と。
それは、「カウボーイビバップ」のスパイクもまたそうなんだけどさ。
ただ松田優作のカッコよさって、男子には理解されやすいんだけど、女子には意外と理解されにくいものである。
あるいは、「コブラ」もそうかも。

で、こういう男子にしか分からないダンディズムの演出に、最も長けているのが出崎統である。
あと、大野雄二の音楽も欠かせないね。
うん、「コブラ」なんて女子は見なくていいと思う。
出てくる女性キャラがなぜか皆ビキニアーマーという世界観、どう考えても女子には抵抗ありそうだもん。
ただし、オトコノコは見ろ!と言いたい。
やはりコブラこそが、我々が目指すべきオトコの理想形だと思うから。


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