映画が、まだ2本立てで上映されてた時代のアニメ
昔は、映画って「2本立て」の上映が主流だったんですよ。
いわゆる「大作」と称されるものだけが単独の上映であり、それ以外は大体が2本セットのパッケージ上映。
お目当ての映画はその2本のうちの片方で、もう片方は特に見たくないものなんだが、それでもセットゆえ当然見ることになるわけです。
こういうの、今思うと意外と貴重な機会だったよな、と。
「見たくないものを、敢えて見せられる」
今の時代って、こういう強制的な機会が減ったと思わない?
だからみんな、自分が見たいものだけを見てる。
興味ないジャンルは、とことん見ない。
私は、こういうのって各人の視野を恐ろしく狭めてるんじゃないかと思ってね。
今までロクに見たこともないジャンルを、「あ、そういうの嫌いですから」と見る前から拒絶する、食わず嫌いなだけの偏食派がどれほど多いことか。
正直、もったいないなぁ、と思うよ。
とはいうものの、別に2本立ての復活を希望してるわけでもないんだわ。
たまに、「いかがなものか」という組み合わせもあったからねぇ。
その最も有名な例が、上の画に示した「となりのトトロ」+「火垂るの墓」という2本立てだろう。
名作+名作なのは間違いないにせよ、しかし食い合わせがよくない。
いうなれば、これって
胃腸薬と下剤を一緒に服用させてるようなもんじゃないか?
ちなみに、上映の際は「トトロ」が先攻、「火垂る」が後攻だったらしい。
その順番だと、間違いなく「トトロ」の印象が消えちゃうよね?
それどころか、「火垂る」の印象が「トトロ」の印象を上書きしてしまい、「トトロ」は怖い映画だった、という錯覚を引き起こした可能性すらあるんだ。
これはジブリ痛恨のミスだった、といっていいだろう。
これまでの「ナウシカ」、「ラピュタ」は各々単独上映だったというのに、なぜ「トトロ」「火垂る」を併映にしてしまったのか?
一説によると、「ラピュタ」の興行的失敗(興収11億)を反省し、敢えて「保険」の意味から併映に踏み切った、とのこと。
じゃ、この併映によって興収はどうだったのかというと
トトロ/火垂る興収・・11億7000万
(ラピュタ興収・・11億6000万)
はい、ほとんど「ラピュタ」と変わらなかったんですよ。
これらの作品が名作認定されるのは、ビデオ化されて以降の話ですね・・。
じゃ、この2本立て↑↑は知ってますか?
これはジブリ側が、「耳をすませば」の監督は無名だという不安から保険をかけ、敢えて宮崎駿の「OnYourMark」を併映にしたんだね。
うん、「OnYourMark」は厳密にいうと映画じゃなくMVだし、これは意外と悪くないサービスだったんじゃないだろうか。
少なくとも、「耳をすませば」の邪魔をするようなものでは断じてなかった。
そして、「猫の恩返し」も監督が無名ということで、これもまた保険の為に「ギブリーズ」を併映にしたんだね。
皆さんは「ギブリーズ」、見たことある?
見たことない人は、是非ネットで「ギブリーズ エピソード2」で動画検索をしてみて。
きっと無料動画が見つかるはず。
私が見る限り、これこそ「理想的な併映作品」。
内容がいかにも「前菜」で、決してメインディッシュの邪魔をせず、薄味でいて、ちゃんと美味しい。
これの監督は百瀬義行さんで、彼は「高畑勲の右腕」と称された人物。
なるほど、高畑テイストがしっかりあるわ~。
地味におススメ。
さて、前置きはこのぐらいにして、そろそろ本題の方に。
今回私がご紹介したいのはジブリじゃなくて、実は東映アニメーションの方なのさ。
皆さんは、「東映まんがまつり」って知ってる?
私はこういうの見に行ったことないんだが、上の画を見ての通り、2本立てどころか3~4本立てというパッケージで、結構カオスな内容だと思わない?
ターゲットを全く絞り込めてないし、「ドラゴンボール」や特撮ヒーローのような男児向けコンテンツの中に、なぜか魔法少女系の女児向けコンテンツをポツンと混ぜちゃってる。
これはさすがにあかんやろ、と思う。
ただでさえ集中力のないコドモが、興味のない作品(たとえば男児にとっての魔法少女モノとか)の時間帯におとなしく見てるわけないじゃん?
この企画を立てた人、かなりコドモのことをナメてると思うわ~。
ちなみに、上の画のやつは80年代終盤のものであって、その後、東映さんも多少は考えたのか、90年代前半には「ドラゴンボール」を主軸にして、そのカップリングのパートナーに「ドクタースランプ」を敢えて復活させたんだよね。
なるほど、鳥山明ブランドでコーディネイトしたということか・・。
ところで私、「ドクタースランプ」って大好きなのよ。
アラレちゃんは「うる星やつら」ラムちゃんと並び、日本における「萌え」のパイオニアだと思ってるし。
これのTVアニメは当時平均視聴率22.7%で、これは今なおジャンプ系アニメの歴代1位なんだ。
ちなみに「ドクタースランプ」の映画は10作ほどあるんだが、そのほとんどは「東映まんがまつり」用の短編(30分程度)である。
ただし、例外的に1作品だけ90分の長編が作られており、それが
「Dr.SLUMP ほよよ!宇宙大冒険」
というやつなんだ。
なお、これの併映はシブがき隊「ボーイズ&ガールズ」(監督森田芳光)。
シブがき隊と「ドクタースランプ」って、どう考えてもキツイ組み合わせだよね(笑)。
ファン層は、絶対カブってないし。
ああ、そういや、うる星やつら「ビューティフルドリーマー」の併映もまた吉川晃司「すかんぴんウォーク」(監督大森一樹)だったわけで、どうやら<アニメ+男性アイドル>というのは当時のトレンドだったっぽい。
・・まぁ、いいか。
話を「ほよよ!宇宙大冒険」に戻そう。
実はこの作品、あまり知られてないことだが、あの谷口悟朗さんが大絶賛してるのよ。
<谷口悟朗談>
「実は、この作品が公開された1982年というのは『機動戦士ガンダムⅢ』だったり、『イデオン接触篇』『発動篇』だったり、有名なアニメ作品が公開された年なんです。
いや、確かにどれも劇場まで見に行ってるんですよ。
他にも幾つかある。
でも、どれも『Dr.SLUMP』ほどの強烈な インパクトはなかった。
この年の個人的なベストは、『Dr.SLUMP』 なんです。
間違いなく(笑)」
谷口さんにここまで言わせてるだけのことはあって、確かにこの作品、結構凄いですよ。
時代が「スターウォーズ」等でスペースオペラブームということもあって、「ドクタースランプ」もいよいよ宇宙進出しちゃったわけさ。
よって、この作品は「銀河鉄道999」のりんたろうさんが協力してます。
上の画を見ての通り、「ドクタースランプ」っぽくない画風でしょ?
東映アニメーション、めちゃくちゃ作画に気合いが入ってるのよ。
まるでサンライズのような、安彦良和のような画である。
こういうロボットのデザインとか、めっちゃ秀逸だと思うんだけど?
いやホント、この作品はメカデザインを見てるだけでも楽しめるよ。
で、ここまで東映アニメーションが気合いを入れて作ったこの作品、結局は興行収入がどうだったのかというと、約7億でしたわ。
微妙だよね・・。
というか、シブがき隊の映画の併映をもってして7億だなんて、シブがき隊の集客力は一体どないなっとんねん?
こいつら、当時人気あったんとちゃうんか?
これをもって「ドクタースランプ」は長編を撤退し、これ以降はおとなしく「東映まんがまつり」に短編を提供する形で、地道に東映を支えていくことになったのね。
いや、「ドクタースランプ」の「まんがまつり」貢献度はかなり高かったと思うぞ?
というのも前述の通り、「まんがまつり」における最も難しいポイントは、男児への訴求、女児への訴求というバランスの問題なのさ。
男児への訴求がすぎると女児が離れるし、またその逆もしかり。
で、その点において最も優秀だったのが、実は「ドクタースランプ」だったのよ。
アラレちゃんは、男児からも女児からもバランスよく愛される、極めて稀有なキャラクターだったといえよう。
事実、そのへんが証明されることになったのは、90年代に入ってからのことである。
1994年、「ドラゴンボール」+「ドクタースランプ」という黄金のタッグが機能し、「まんがまつり」ごときでは絶対に歯が立たないとされてた劇場版「ドラえもん」(東宝)の牙城を、遂に打ち破ったんだ!
<1994年日本映画興行収入TOP5>
【1位】平成狸合戦ぽんぽこ⇒26.3億
【2位】ゴジラvsメカゴジラ⇒18.7億
【3位】男はつらいよ⇒15.7億
【4位】東映アニメフェア(旧称まんがまつり)⇒14.5億
【5位】劇場版ドラえもん⇒13.5億
※東映アニメフェアは、ドラゴンボール+スラムダンク+ドクタースランプ3本立て
でもさ、東映ってホントにアホなのよ。
この快挙を「ドラゴンボールとスラムダンクのお陰」と中学生並みの分析をし、翌年から「ドクタースランプ」を「マーマレードボーイ」に差し替えたんだから。
何度同じ過ちを繰り返すんや・・。
あのね、「ドラゴンボール」と少女漫画は食い合わせが悪いっちゅーの!
結果的に95年の東映アニメフェアは前年より興収を2億落とし、またしても「ドラえもん」の下位に甘んじることになったのよ。
以降の東映アニメフェアは右肩下がりになり、やがて消滅・・。
アラレちゃんをナメるから、結局こういうことになるんや!
皆さんも、是非アラレちゃんを再評価してあげてね。
まずは、「ほよよ宇宙大冒険」を一度見てほしい。
ネットでタイトルを検索すれば、すぐに無料動画が見つかるはずだよ。
アラレちゃん&ガッちゃんを一緒に愛でようぜ!
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