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今期最強のダークホースだった「ラーメン赤猫」

今回は、今期話題になってる人気アニメ、「ラーメン赤猫」について書いてみたい。
これは、思わぬダークホースだったよね。
原作は少年ジャンプ+の連載漫画らしく、当初は「インディーズ連載(担当編集がつかず、原稿料は閲覧数に応じた変動制っぽい)」という特殊な形態だったらしい。
そういうところから始めて、今こうしてアニメ化にまで漕ぎ着けられたんだから、いかに読者から熱く支持されてたかということだ。
猫がラーメン屋をやってる」というのはどう考えても「出オチ」感MAXであり、普通にギャグアニメだと思うだろ?
実際、昔に「猫ラーメン」という出オチ系のアニメがあったのよ。
これなんだけど↓↓

そこそこ人気あったみたいで、実写映画化までされてました↓↓

「ラーメン赤猫」も、発想のスタートラインは「猫ラーメン」だったんじゃないかな?
店の外装・内装とか、めっちゃ似てるし。
でも、「猫ラーメン」がシュール系のギャグアニメだったのに対し、明らかに「ラーメン赤猫」は「お仕事アニメ」である。
それこそ、P.A.WORKSが作っていてもおかしくないほどの内容。
とはいえ、猫だからねぇ・・。
まず、猫が二足歩行して言葉を喋るという設定がひとつのキモなんだけど、ここにきて「全ての猫が言葉を喋るわけじゃない」という世界観が明らかにされた。

「ラーメン赤猫」〔2024年)

<「ラーメン赤猫」の世界観>

・人に飼われてる愛玩用の猫は、普通の猫である。
・二足歩行し、言葉を喋る猫には「法的人格」が認められてるらしい。
・よって、人間の遺産を猫が相続・運用するケースもある。

おそらく「法的人格」を取得した猫は、ほとんど人間と同等の扱いなんだと思う。
こういう世界観となると、ついつい心配してしまうのが「差別」というやつだね。
人間は肌の色、髪の色が違うだけでイジメてしまう生き物であり、ましてや同じ霊長類ですらない猫が対象ともなると、当然「我々より愚かな劣等種」と見下す人たちは絶対出てくるんじゃないか、と。
ただ、それに対して佐々木さんはこう言うわけだ。

「心配ないよ。
どこでも、協力的な猫好きさんはいるから」

そうである。
猫に対しては見下す人もいる一方、「猫贔屓」という人たちも絶対いるんだよ。
そういう猫好きさんからすると、猫を差別する人間はまさしく憎悪の対象だろう。
実際、猫はカワイイ。
こういうカワイイ存在↓↓を、果たして差別なんて出来るのか?

これほど愛くるしいのをイジメるような野郎は、それこそ畜生にも劣る世の害悪さ。
決して周囲から支持されまい。
ただ、上の画を見てると、さすがにコイツらもちょっとあざとすぎるな~、とは思う(笑)。
猫にどこまでの自意識があるのかは不明だか、ひょっとして自分がカワイイことを自覚した上でこんな動きをしてるのでは?全て計算ずくの仕草では?と少し考えちゃうよね。

思えば、もともと猫は特殊な生き物である。
牛や馬や豚や鶏のように家畜にはならず、かといって犬のように猟犬、警察犬、盲導犬、救助犬というように人の役に立つ存在でもない。
つまり、食われるでなく、役立つでもなく、それでも人に依存して今日まで生きてこられたという特殊な立ち位置。
長い歴史の中で人類が猫の特殊性を許容した理由は、やはり猫がカワイイというだけのことさ。
カワイイ」、そこが彼らにとって、ひとつの生命線だよ。
犬の方は「自分、お役に立ちます」や「自分、忠誠心あります」という別の生命線を有してるからあれなんだけど、猫の方はただ愛されるぐらいしか能がない。
・・いやいや、愛されたいのならもっと媚びろや、犬みたく素直にじゃれてこいや、と思う人もいるだろうが、私が思うに、ああいうのは猫なりの戦略なんじゃないか、と。
彼らは「カワイイ」のプロフェッショナルだからこそ、決して「カワイイ」を安売りしないんだ。
そんなことしたら、ただ「カワイイ」が消費されるだけのことだから・・。
あいつら、ちゃんとそのへんを分かっているはず(きっとDNAレベルで)。

おそらく、「ツンデレ」を開発したのは猫の方が人類より先だったと思うよ。

さて、あまりにも脱線しすぎたので、話をそろそろ「ラーメン赤猫」に戻しましょう。

本作は「猫アニメ」であると同時に、前述の通り「お仕事アニメ」である。
もともと、これのストーリーは
前職がブラック企業で疲弊していたヒロイン・社珠子が、新しい職場の『ラーメン赤猫』で猫たちと働くことによって、再び勤労の喜びに目覚めていく
といったものになっていて、実はかなり真面目なプロットなんですよ。

社珠子

社さんは真面目で仕事もデキる人なんだけど、とてもおとなしい性格ゆえ、前職では周囲にコキ使われ、散々利用されてきた不幸な子だと思う。
その前職が広告代理店の下請けだったというから、ラーメン屋とか明らかに畑違いだし、彼女は取り立てて猫好きというわけでもない。
それでも、彼女はコツコツと真面目に仕事に取り組む。
たとえば、彼女のメインの仕事「猫のブラッシング」についても、ちゃんと彼女なりに研究して各猫に合わせたブラシの掛け方をするんだよね。
で、この作品で一番大事なポイントは、

そういった彼女の小さな努力を各猫が気付き、彼女のことをきちんと評価したことなんだ。

ハナちゃん

事実、ハナちゃんは最初社さんを名前で呼んでなかったのに、やがて名前で呼ぶようになり、そのことに気付いた社さんが内心感激するくだりがある。
そう、「お仕事アニメ」のいいところって、こういうところだよね。

あと、このハナちゃんは「赤猫」の接客担当なんだが、元は人気猫アイドルだった、という過去が明らかになる回がある。

その仕事に嫌気が差し、なかば失踪する形で飼い主(マネージャー)の元を離れてきた経緯っぽい。
で、第10話はその飼い主とハナちゃんが再会する回で、「もう一度芸能界で頑張ろう」という飼い主に対し、ハナちゃんはそれを断るんだよ。

①人気アイドル
②ラーメン屋の接客係


このふたつの職業を比較した時、世間一般は①の方を上位に捉えるよね?
収入も桁違いだろうし。
でも、ハナちゃんはきちんと②の仕事に誇りを持ってたんだ。
このハナちゃん自身の選択に、誰も文句はつけられまい。

で、これと似たようなニュアンスがあったのは、この人である↓↓

弁護士・御所川原さん

「赤猫」の担当弁護士・御所川原さん。
彼女は大の猫好きで、もし今の社さんがやってる仕事に就けるなら、弁護士の仕事を辞めてもいい、とまで言っている。

①弁護士
②ラーメン屋の雑用係

このふたつの職業を比較した時、世間一般は①の方を上位に捉えるよね?
収入も桁違いだろうし。
でも、御所川原さんは①を捨ててまで②の仕事に就きたいと思っている。
基本、御所川原さんはネタ要員で、このくだりもギャグっぽく扱われてたんだが、でもハナちゃんのくだりと合わせて考えてみると、意外と作品の本筋からズレてはいないのよ。
この作品の最重要の本筋は

「お仕事とは?」


である。
大事なのは、収入
あるいは、世間体としてのステイタス
この作品は、そのどっちでもない、と言っている。

大事なのは、その職場そのものが幸福であるかどうか。


私、それの象徴的光景がこれだと思うんだよね↓↓

お昼休憩のお昼寝タイム

肉球を枕にして眠る社さんが羨ましすぎる(笑)

社さんの上に乗って眠るハナちゃんもカワイイ。

近年の「働き方改革」ってやつも少し関係する話かもしれんが、最近は昔に比べて価値観が変わってきたと思う。
旧来型の価値観でいえば

①難易度の高い大学に入学/卒業
②大手企業に就職、もしくは難関国家試験合格(司法試験、医師試験等)
③就職後は、ひたすら出世に邁進


この①~③をクリアできた者が「勝ち組」にカテゴライズされ、それが真の「幸福」と考えられていた時代が確かにあったんだよ。
だから世のお父さんお母さんは子供にまず①をクリアさせる為、例外なく「勉強しなさい」と言ってきた。
たとえ子供が嫌がろうが、「これはあなたの為なのよ」「あなたの幸福の為なのよ」というのを連呼してきた。
おそらく、この価値観の前ではラーメン屋店員というのは完全に「負け組」だろう。
最も「勝ち組」から遠く、最も「幸福」から遠い生き方。

・・えぇっ、本気でそう捉えてるのか?   本気でラーメン屋は幸福じゃないと思ってるのか?

おそらく、この作品の根底に流れてるものは、そういう古い価値観に対するアンチテーゼである。
その主張は、確かに正しい。
でも、このての訴求を人間のキャラ使ってやると、一種の「イヤミ」みたいなものが出ちゃうのよ。
だから、「本来なら怠け者」という猫を使ってやったことはナイスアイデアだったと私は思う。

いや、あるいは猫自体が一種のメタファーかもしれないよね。


そう、これは単なる癒しアニメなんかじゃなく、案外深いものを含んでると思うぞ。
この作品を未見の方、是非ご覧になって下さい。


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