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なぜ、岡崎京子の漫画はアニメ化されないんだろう?

え~っ?今さらこの作品をアニメ化すんの?
・・と感じるケースがたまにあるわけで、最近では「ジョゼと虎と魚たち」がまさにそれだった。
正直、うまくいくわけないじゃん・・と思ったわけよ。
この原作は田辺聖子の小説であり、カテゴリーとしては純文学に該当する。
純文学のアニメ化なんて、今までうまくいった試しがないじゃないか。
ましてや、これは2003年に実写化をされているやつだ。
でもって、その実写映画は名作としての評価を得てるんだよ。
主演が妻夫木聡と池脇千鶴。
このふたりが役者としての確固たる地位を築いたのは、この映画での演技を認められたからだといっていいだろう。
それほどの作品が既にあるのに、敢えて今さらアニメ化?
それも、制作会社がBONESだという。
これが京アニやP.A.WORKSならまだしも、どちらかというとBONESの得意な分野はアクション・バトルであって、少なくともこういう文学性が高いものではないだろうに・・。

・・と思いつつも結局は見たんだが、その感想として、これが意外なことに悪くはなかった。
というのも、原作および実写版と設定やストーリー展開が大きく違うのよ。
実写映画にはあった文学性はかなり薄められ、代わりに少女漫画的な純愛のテイストを強めた感じ?
よくいえば、実写映画よりも格段に分かりやすい内容になっている。
原作のセクシャルな要素もカットされ、綺麗な話に改変された感じ。
まあ、賛否両論あるだろうな~。
当然、実写映画のファンからは大バッシングだろうけど、私はアニメという媒体の特性からして、この改変は正解だったと思う。
そもそもアニメは、生々しい表現には適さない媒体だし。
だって、しょせんは「絵」なんだから。
だけど、アニメにはアニメでしかできない表現ってものも実はあるわけで、たとえば、これなんかそうだね↓↓

こんな幻想的表現は、アニメならではでしょ。
海、魚、というモチーフをより強調する為のアニメ的演出。
障害者で歩けないヒロイン・ジョゼは、いわば人魚である。
原作者はそのメタファーを作品タイトルに込めてるんだろうが、そこは実写よりむしろアニメの方が強調できてた感じ。
ただ、話が少し綺麗すぎるんだよね。
実写版の妻夫木聡はどちらかというと俗っぽいキャラだったのに、アニメ版の主人公はめちゃカッコよく美化されてるし。
あと、実写版の上野樹里は女のドス黒い嫌な部分を孕んだキャラだったのに、アニメ版では主人公の為に敢えて汚れ役を引き受けるような純愛キャラとして美化されていた。
総じて、アニメ版はリアルで生々しい要素を極力排除し、あくまでも美しい純愛ファンタジーに仕上げたっぽい。

特に、ラストの締めくくり方は対照的である。
実写版は、ほろ苦いビターエンド。
アニメ版は、後味のいいハッピーエンド。
どっちがよくて、どっちが悪いというわけじゃないさ。
ちなみに原作は、ビターともハッピーともつかない微妙な終わり方。
やはり短編小説ゆえ、映画化する原作としては元々情報量が不足気味なのよ。
何にせよ、これは主人公・恒夫のキャラ設定によるエンディングの差違なんだ。
実写版の恒夫は俗っぽくて人間臭いキャラゆえ、最後ジョゼから「逃げた」という妙にリアルなオチには十分納得である。
一方、アニメ版の恒夫はひとつの目標に向かって日々頑張る奴なので、最後までジョゼにしっかり寄り添うオチには十分納得である。
両作品とも、ちゃんとツジツマは合ってるんだよ。

実写版の妻夫木聡はスキューバダイビングなんてしないし、池脇千鶴も絵なんて描かない
そもそも、アニメ版の最大のターニングポイントだった「交通事故」が実写版にはない

さて、この作品を見たアニメファンの感想は正直どうなんだろう?
やっぱり同じ小説でも、純文学はラノベに比べてキャッチーさに欠けるよね。
登場人物は魔法を使うわけでもなく、魔物や幽霊が出てくるわけでもない。
ヒロインのジョゼがツンデレで可愛いなと思うぐらいで、あとは退屈なラブストーリーだと感じたんじゃないだろうか。
そう、アニメに純文学はもともと相性悪いんだよ。
アニメっぽく盛り上げるには、設定をかなりイジる必要がある。
しかし、それの酷い例をひとつ挙げさせてもらうなら、冲方丁が太宰治の「人間失格」をアニメ的なアレンジで脚本書いたら、なぜかこんな感じになってしまったんだわ↓↓

これが「人間失格HUMANLOST」の主人公
そして、これが主人公の変身形態
そして、これがヒロイン

サイバーパンク的な味付けをしたら、ほとんど原作の原型が残らなかったというオチ(笑)。
太宰先生、さすがにこれを見たらキレるんじゃないか?
酷い映画なので、まだ見てない人は見ないで下さい。
時間の無駄です。
こういうのに比べたら、アニメ「ジョゼ」なんてめっちゃ良作だよ・・。

これは、実写映画の「ドライブマイカー」。
言わずと知れた、村上春樹の小説の映画化である。
今まで村上作品は何度か実写映画化されてるけど、アニメ化は一度もないんだよね。
やっぱ、村上春樹が許してくれないんだろうか?
誰か一度チャレンジしてもらいたい気もするんだが・・。
映画界とすれば「文学は実写の方でやるから、アニメは漫画とラノベでもやっとけ」といったところだろう。
それは分かるとして、実は漫画ですら、アニメでなく実写でしか映像化してないという作家がいるわけよ。
その作家とは、あの岡崎京子のことなんだけど。

2012年「へルタースケルター」
2018年「リバーズエッジ」
2019年「チワワちゃん」
2020年「ジオラマボーイパノラマガール」

こうして続々と岡崎作品は実写映画化されてるのに、アニメ化の計画は全く話を聞かない。
漫画なのにアニメが実写の後手に回ってるって、どゆこと?
岡崎先生のご意向?
しかし、岡崎先生は96年に交通事故に遭って以降、実質リタイアしてるというのに、今なおこうして作品がどんどん映画化されてるってのは偉大だよなぁ。
彼女の作品は漫画でありつつも純文学に近くて、そっち系の分野ではいまだ彼女が最高峰といわれている。
そのテイストからしてアニメ化が困難なのは理解できなくもないけど、誰か一度チャレンジしてほしいんだよね。
いまだコアな岡崎信者は多く、作れば見る人は絶対多いと思うから。

問題は、この独特の空気感をアニメで表現できるかだよね・・

あと、岡崎先生と同系統としては忘れちゃいけない、魚喃キリコ。
この人も休筆期間長い人なのに、いまだ人気あるよね。
そして岡崎先生と同じく、作品は実写化しても、なぜかアニメ化はしないというタイプだ。

2002年「blue」
2006年「ストロベリーショートケイクス」
2017年「南瓜とマヨネーズ」

邦画ファンの方々ならよくご存じだろうけど、岡崎先生や魚喃先生原作の映画化は名作揃いである。
やはり彼女らの文学的作風は、邦画と親和性高いんだろうか?
いやいや、アニメ業界も簡単に諦めるなって。
私、「ジョゼと虎と魚たち」のアニメ見て、こういうのもやればイケるな、と確信したよ?
多分、今のアニメーターの水準なら、たとえ岡崎京子や魚喃キリコだろうと十分にイケると思う。
このへんのファン層の人たちは、既存アニメファンと少し違う系統の人たちである。
ならば市場の間口を広げる意味でも、そこに切り込むのは非常に価値のあるチャレンジだと思うぞ?
是非、チャレンジしてみてほしい。


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