幻の押井守版「ルパン三世」企画が、その後、妙な形でOVA化
今回は、「ルパン三世」について少し書いてみたい。
それもメジャーなやつでなく、あまり陽の当たってないマイナー作品を少し取り上げてみたい。
まずマイナーといえば、ボツ企画となった幻の押井守監督版「ルパン三世」の話題から入らねばなるまい。
これは、もともと東宝が宮崎駿に「カリオストロの城」に次ぐ劇場版第3弾
を依頼したところから話は始まる。
ところが宮崎監督はそれを辞退し、「僕の代わりに、押井守にやらせてみては?」と押井さんを推薦したらしいのよ。
この経緯、なぜ宮崎さんが押井守を指名したのかについて、実は後になって巨匠自身がこういう証言をしている。
「(オファーがあった)その時、たまたま隣に(押井守が)いたから」
まぁ、ぶっちゃけると、巨匠は「ルパン三世」があまり好きじゃないらしいのよ。
でも「好きじゃない」と聞いて、私はとても腑に落ちたんだよね。
だってさ、今改めて「カリオストロの城」見ても、そりゃ作品としては最高だが、でもその一方で、原作「ルパン三世」に対するリスペクトが限りなくゼロに等しいと思わないか?
それは、彼がTVシリーズ2期で手掛けた155話「さらば愛しきルパンよ」を見ても同様のことを感じる。
この回は偽物ルパン一味がむしろ主役で、本物のルパンが登場したのは僅か2~3分。
でもって「カリオストロ」にせよ「さらば愛しき」にせよ、宮崎版ルパンは一切泥棒っぽいことをしてないんだよね・・。
ひょっとして巨匠は、ダークヒーローがお好きじゃない?
じゃ、好きでもないのに何故「カリオストロ」やTV2期のオファーを受けたのかというと、そりゃ大塚康生さんが宮崎さんの師匠みたいな人だからさ。それこそ東映動画時代にお世話になった、大先輩の顔を立てたんだろうよ。
で、劇場版第3弾の話も「できません」のひと言で済ますわけにもいかず、当時宮崎邸に居候してほぼ内弟子状態にあった押井さんを自分の身代わりに推薦した、というのが率直なところかと。
このへんに興味ある方は、是非こちらをどうぞ↓↓
で、問題は、なぜ押井版「ルパン三世」企画がボツになったか、である。
それは、もう企画書の段階でプロデューサーが「これ、あかんやつや・・」と直感したらしいんだ。
<押井版「ルパン三世」企画書概要>
・モノを盗むのではなく、「概念」を盗むという作品になる。
・モチーフは、概念的なモノ、現実と虚構の狭間のアイテム「天使の化石」となる。
・ルパン三世が「天使の化石」を盗もうとするが、それは虚構であり、その実物はプルトニウムだった。
・そのプルトニウムが爆発し、東京が壊滅するシーンがクライマックス。
・というのは、虚構だった。
・というか、盗みにきたルパン三世そのものが虚構だった。
この企画をボツにしたプロデューサー、あなたは素晴らしい英断をしました(笑)
ていうかさ、こんな映画、ヒットするわけないじゃん?
ところが、このボツ企画はアニメ業界においてやがて伝説となり、一部から「映画は無理でも、OVAとかなら企画通るんじゃね?」という声が出てきたみたい。
多分それは、押井さんの全く関与しないところでの話なんだろうけど。
で、2008年、「ルパン三世40周年記念作品」と称して、トムスエンタテインメント(旧東京ムービー)がホントにこの企画をOVA化しちゃったのよ。
そのOVAというのが、これです↓↓
「ルパン三世 GREEN vs RED」
これ、見たことある人は少ないんじゃないかな?
地上波テレビでは放送してないと思うし、おそらく配信プラットフォームもほぼ取り扱ってないと思う。
TSUTAYAとかはあるかな?
一応ニコニコ動画でダイジェスト版がアップされてるのと、あと動画検索をすると、確か中国のbilibiliが無料動画をアップしてくれてたと思うよ。
まぁ、無理に「見て下さい」とお薦めする気もないけど、「ルパン三世」がめっちゃ好き、という人は見ておいて下さい。
これこそ、完全に「ルパン三世ファン」向けのコアな企画だから。
少なくとも私が知る限りで、
これは「ルパン三世」史上MAXの最難解作品だね。
元々お茶の間向けじゃないから、分かりやすく作ってはいない。
というか、当初の押井企画からして支離滅裂だったし、ましてやそれを押井さんヌキで作ろうもんなら、そりゃワケ分かんない作品にもなるって。
案の定、かなり読解が難しいものになって、お陰で今でもマニアたちはこの作品の「正しい解釈」を色々考察をしてるっぽいよ。
・・あ、ちなみにだけど、さすがに例の「天使の化石」は出てきませんからね(笑)。
お宝はプルトニウムでした、というオチはまんま転用されてるけど。
さて、この作品の最もユニークなところは、実に色々なタイプのルパン三世が出てくる点である。
というと、まるで「スパイダーバース」におけるスパイダーマンみたいだね。
でも、まさにそんな感じ。
ただ「スパイダーバース」は多元宇宙という解釈でそれを説明してたけど、このルパンの場合は「そもそも『ルパン三世』は個人でなく、概念」という強引なロジックになっていて、どっちかというと「全てがホンモノであり、全てがニセモノ」という、ちょっと解釈しづらい形なのさ。
たとえば、TV版でも1期~6期ではその期によって全く顔が違うし、ましてや「カリオストロ」なんてのはもっと違う。
何故こんなにも見た目が違うのかというと、それはみんな各々別人だという捉え方。
ちなみに、本作では「カリオストロ」ルパンが偽物ルパンの中の1人として登場し、
「まぁ、一般的には(ルパンといえば)俺のこと指すわけじゃん?
つーか、人気あるわけじゃん?」
と言い、すると周りのルパンから
「お前なんか、結局何も盗んでねーじゃん!」
とツッコまれたりもしてるんだわ(笑)。
上の画の人物は、本作主人公のヤスオ。
表の職業がラーメン屋「グリーン軒」店員、裏稼業がスリという男である。
で、ある日ラーメン屋で客が「緑のジャケット」を置き忘れて帰り、その日からヤスオはその緑ジャケットを着用するようになる。
また、ある日裏稼業で通行人から財布をすったところ、それが財布じゃなく「ワルサーP38」だったことに気付く。
・・なぜか、彼は何者かの手によってどんどん「ルパン三世」に仕立てられていくわけよ。
ネタバレすると、その仕掛け人というのはこの老人↓↓
どうやら、この老人こそが初代ルパン三世、すなわちホンモノっぽいんだよね。
ならば、この赤ジャケットのルパン↑↑は「二代目」なのか、あるいは初代(「紅屋」のご主人)の変装なのか、そのへんは人によって解釈が分かれているようだ。
私としても、そこは何とも言えん。
そもそも、「ホンモノ」って何?
「GREEN vs RED」の作中では
「周りがそれを決める」(不二子談)
と説明していた。
しかし、2022年のWEBアニメ「LUPIN ZERO」の中では
それは血統、すなわち
アルセーヌルパンの孫=ホンモノのルパン三世
と明確なものだった。
上の画は、「LUPIN ZERO」で描かれた学生時代のルパンと次元です。
ふたりは、なんと同じ学校のクラスメイトだったみたい(笑)。
どうも「ルパン三世」はライセンスの管理がユルいのか、ホント好き放題に設定を盛られてるわ。
確か、「EPISODE 0:ファーストコンタクト」や「峰不二子という女」だとルパンと次元は敵対する関係として出会ってたはずなんだけど・・。
まぁ、「これらも全部ニセモノです」と言われちゃ、もうどうしようもないんだけどさ。
で、「GREEN vs RED」では最終的に緑ジャケットvs赤ジャケット直接対決となり、「どっちがホンモノか決めようぜ」という展開になる・・。
少なくとも「初代」は「アルセーヌルパンの孫」という血統から始まったんだろうが、どうやら彼自身に実子はいないみたいで、以降は
「先代が見込んだ者にジャケット+ワルサーP38を渡す」
「候補者が複数の場合、決闘で1名に絞り込む」
という流れなのかい?
ただ、それをもってホンモノといえるかはまた別の話だろうし、あとは次元や不二子らが認めるということ、あと銭形のとっつあんは絶対的な目利きのようで、彼に認められたらホンモノということでいいんだろう。
歌舞伎や落語の襲名みたいなものか?
で、当然といえば当然かもしれんが、一部では
「こんな設定認めん!」
「ルパンの前職がラーメン屋とか有り得ん!」
と怒りの声すらあるみたいで、まぁ、私としても無理にこれを公式と捉える必要もないと思うけど。
とはいえ、あまりにも「GREEN vs RED」は陽の当らない場所で埋もれてる気がするし、もう少しぐらいは陽を当ててもいい作品じゃないかなぁ、と。
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