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今さらながら、宮崎駿の作家性を考えてみよう

今回は、宮崎駿について書いてみたい。
この語り尽くされた巨匠に対して今さら何を?と思うかもしれないけど、私としては今さらながらもその作家性について書いてみたいのよ。

思えば、彼の作品には原作がないオリジナル企画が多い。
しかし、その構想のネタ元について、巨匠はあまり多くを語ってくれない人である。
それでも例外的に公言してくれたのが、フランスの漫画家メビウスが描いた「アルザック」。
これが「風の谷のナウシカ」のネタ元であることを、巨匠は珍しくも認めてくれたわけね。
じゃ、その「アルザック」が一体どういうものか、その一部をご覧下さい。

なるほど。
これは「ナウシカ」のみならず、「天空の城ラピュタ」っぽさも感じるなぁ・・。
ちなみに、メビウスのファンは日本の漫画家に結構多いらしく、大友克洋松本大洋といった大御所たちもまたファンを公言している。
一方、メビウスの側も日本のサブカルには造詣が深いらしく、「ナウシカ」をオマージュして、自分の娘には「ノウシカ」と名付けたらしい(笑)。
なかなか、いい関係だね。

で、この「アルザック」と別件だけど、宮崎さんは80年代初頭、手塚治虫先生と共同で「ROWLF」というアメコミをアニメ化するプロジェクトに動いていたらしい。
「ROWLF」、全く聞いたことのない作品である。
その画から推測する限り、ダークファンタジー?

「ROWLF」(作リチャードコーベン)

なんか、グロそうな話だなぁ・・。
結局、著作権の関係とやらでこのアニメ化の話はご破算となり、
しようがない。自分のオリジナルでやるしかない
ということで、この「ROWLF」の中に出てくるお姫様をモチーフにし、自ら物語を考案していったそうだ。
それが、「風使いの娘ヤラ」、および「土竜とクシャナ」らしい。

このへんの世界観は、明らかに「アルザック」の影響下だね。
やがて、この構想が「ナウシカ」としてひとつにまとめられて、82年より漫画として「アニメージュ」連載となる。

そうそう、漫画といえば彼は大学時代、「砂漠の民」という作品を描いてたんだってさ。

この漫画、なぜか「赤旗」で連載されてたらしい。
「赤旗」って・・(笑)。
なんか、宮崎さんは「砂漠の民」にせよ「ROWLF」にせよ「アルザック」にせよ、みんな共通してエスニックの嗜好がやたら強い。
さらに、おそらくそういう系統の延長線上にあると思われるのが、83年に発刊された「シュナの旅」。

これまた、バリバリのエスニックである。
これら全部をひっくるめて、1984年、遂に「風の谷のナウシカ」が映画になって公開されたわけよ。
・・しかし、一体何なんだろうね?
このエスニック偏重。
聞けば、この時期の宮崎さんはル・グウィンの「ゲド戦記」にハマっていたらしく、本音はこれのアニメ化を一番やりたかったそうだ。

あと、同時期に彼は「戦国魔城」という和のテイストの企画もイラスト化している。

「戦国魔城」

こっちは、後の「もののけ姫」の構想に繋がってるのかな?
一応、これもまた「ゲド戦記」から派生してるんだろう。
05年、宮崎さんは「ゲド戦記」著者ル・グウィンとの会談の場にて、こう言ったそうだ。

「本はいつも枕元に置いてある。
片時も放したことはない。
悩んだ時、困った時、何度読み返したことか。
告白するが、自分の作ってきた作品は、『ナウシカ』から『ハウル』に至るまで、全て『ゲド戦記』の影響を受けている」

ほぉ、そこまで言い切ったか。

「ゲド戦記」(2006年)

そう言った割に、「ゲド戦記」アニメ化は息子の宮崎吾郎が監督し、これがジブリ屈指の駄作として話題を呼んだよね。
なぜ自分で監督しないのか?とル・グウィンからも聞かれたらしいが、それには
もう自分は、齢をとりすぎた・・
と答えたらしい。
これってようするに、これまでの作品の中で既に「ゲド戦記」のエッセンスは絞りつくしちゃったんですよ・・という意味じゃないだろうか。
自分には、もうこれ以上絞るのは無理、と。
少なくとも06年時点で、宮崎さんは既定路線が枯れていたということだと思う。
事実、これ以降の彼は
・崖の上のポニョ
・風立ちぬ
・君たちはどう生きるか

という3つの作品を監督してるが、いずれもが従来のエスニック臭が完全に消えた作風となっている。
そうか。
「砂漠の民」から始まって脈々と続いてきた彼の作家性は、一旦06年をもって、ひと区切りとなっていたんだね。

宮崎駿が作成していた自筆の設定メモ

さて、少し視点を変えてみよう。
今度は宮崎駿の創作スタイルについて。
実は宮崎さんを直接よく知る人ほど、彼の「設定」の緻密さに舌を巻くという。
彼が若手アニメーターにする説教も、多くが

「考えて描け!もっと想像しろ!」


ということらしく、そのシチュエーション、登場人物の心境、全て理解した上で描くことを要求してくるという。
これって、あれだよな?
実写映画というところの、役者さんの仕事の範疇じゃん。
そうか、アニメはビジュアル面の役者がいないから(声優はいるけど)、そっちはアニメーターが「演技」を担当せざるを得ない、ってことね。
ジブリのアニメーターって、メンドくさそう・・。
ただ宮崎さんも、若い頃はこんなややこしいこと言う人ではなかったらしいぞ。
じゃ、何で今みたいにややこしいオッサンになってしまったのか?
どうやら、高畑勲の影響が大きいらしい。
高畑さんという人は、若い頃からとにかく「理論武装」が常にパーフェクトな演出家だったらしいのね。
登場人物のちょっとした仕草ひとつとっても、背景にある草花ひとつとっても、彼の作品だと全部そこには何らかの「意味」がある。
全てがロジックで裏打ちされている。

高畑さんは、ロジックによるアニメ構築の第一人者である

こういう高畑さんのアニメ作りを間近でずっと見てきた宮崎さんは、
うわ~、カッコいい~
と思っていたんだろう。
なんせ、高畑さんは60年代で既に国際映画祭の監督賞を受賞してたほどの天才で、宮崎さんにとっての「格上」。
そりゃ当然意識もするわけで、彼が高畑流の「考えて描く」を徹底的に実践してきたことは想像に難くない。
そこから、今に至る「設定の鬼」みたいなオッサンになっちゃったんだろうね。
思えば、もともと宮崎さんは「赤旗」に連載漫画描いてたほどの人である。
こういう新左翼は、大体が「理論武装」に走りがちなのさ。
そういうタイプが「設定の鬼」になった以上、もはや手を付けられないよね。

「ON YOUR MARK」(1995年)

で、そんな宮崎さんの「設定の鬼」っぷりが最も如実に出たのがこれ、「ON YOUR MARK」。
これはCHAGE&ASKAの同名タイトル曲のMVで、本来こんな仕事はしないんだろうが、「もののけ姫」で創作に行き詰ってる巨匠を見かねた鈴木敏夫プロデューサーが、「気分転換にどうですか?」と持ってきた仕事らしい。
でさ、これがもう、ヘンテコなアニメなんだよ。
あまりにヘンテコだからか、わざわざ「ジブリ実験劇場」というタイトルを付けられる始末。
MVだから当然セリフがなく、必然的に映像だけで全て解釈しなきゃならんのだが、その映像というのがまた不穏な暗示テンコ盛りのおかしなやつなんだよね。
お陰で、全く音楽が耳に入ってこない・・(笑)。

トンネル内のサインがもうヤバい・・
トンネル抜けたら、明らかに「放射能」を示すヤバい看板出てるし・・
助けた少女とここでお別れ
飛んでいった少女に手を振るふたり
画面はズームアウトするが、車は脇道にそれ、やがて動きが止まった・・

こんなバッドエンドなMV、今まで見たことないよ(笑)。
これ、一体何なの?
ASKAさんの未来を暗示してるの?
なぜか知らんが、この「ON YOUR MARK」を作ると巨匠はスッキリしたのか、今までのスランプが嘘のように「もののけ姫」制作がはかどっていったらしい。
つまり、「ON YOUR MARK」は巨匠の「溜め込んでいた毒素」みたいなものだったんだろう。
これはこれで価値のあるものだと思うので、未視聴の方はぜひご覧になってください。

「フウムーン」(1980年)

さて、最後に「思想」という点での宮崎駿について。
彼は学生時代、手塚治虫の漫画を熱心に読んでいたらしい。
特に好きだったのが「初期SF3部作」というやつで
・ロストワールド(1948年)
・メトロポリス(1949年)
・来るべき未来(1951年)

という3作品。
「メトロポリス」は、りんたろう監督・大友克洋脚本で映画化されてるから皆さんもご存じだろうけど、意外と知られていないのが「来るべき未来」のアニメ化作品、「フウムーン」である。
これは、日テレ「24時間テレビ」内スペシャル企画のアニメだね。
内容は、終末論的なやつ。
かなり露骨にメッセージ性の強い作品となってて、それこそ巨匠が見たら「こんなクソみたいなアニメに仕上げやがって!」と怒りそうな気もするが、そのメッセージ自体は「ナウシカ」にも通じる宮崎駿イズムそのまんまのものである。
まぁ、暇があったらでいいので見といてください。

・・以上が、私なりの宮崎駿の作家性検証でした。
ちなみに、私が一番好きな宮崎作品は、「風の谷のナウシカ」です。


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