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まず最初は、「東のエデン」から入るべきだと思う

皆さんは、「トレンディドラマ」という言葉を覚えているだろうか?
これは80~90年代のバブル期、フジテレビやTBSで放送されてたテレビドラマのことを指し、その代表的なところをざっと挙げるなら、

・男女7人夏物語(1986年)
・抱きしめたい!(1988年)
・同・級・生(1989年)
・東京ラブストーリー(1991年)
・101回目のプロポーズ(1991年)
・愛という名のもとに(1992年)
・あすなろ白書(1993年)
・ロングバケーション(1996年)

などが有名かと。

ようは、織田裕二やら木村拓哉やらを中心とした数名の男女グループの中でくっついたり別れたりするラブストーリーなんだが、その特徴としては舞台が常に東京で、あくまでも都会のカッコいい生活環境がベースになっているところである。
早い話が、登場人物はみんな「リア充」なんですよ。
原作としては、柴門ふみの漫画が多かったりして。
定説としては1996年の「ロングバケーション」あたりがその最後の形態で、なぜこれが終焉したのかというと、バブル景気が崩壊したからさ。
時代として、カッコいい都会のライフスタイルを描くことが妙に嘘っぽくなってきちゃったから。
主人公が8畳程度のワンルームマンションに住んじゃうと、そんなのはもう「トレンディドラマ」じゃないんですよ。
で、これの終焉とともに逆に台頭してきたものが「深夜アニメ」であって、96年は「新世紀エヴァンゲリオン」が放送されていた年でもある。
少なくとも96年時点では、木村拓哉と碇シンジという対極のキャラが人気を二分するという、まさに混沌の時代だったといえよう。

・木村拓哉⇒リア充の象徴
・碇シンジ⇒非リア充の象徴

当時の木村拓哉ファンは、碇シンジのような男を決して認めなかっただろう

付け加えると、「エヴァ」の放送開始が95年であり、これは地下鉄サリン事件が起きた年ともいえる。
そう、トレンディドラマの聖地・東京が、サリンで蹂躙されたんだよ。
あの時のテロリストたちは、ひょっとしてリア充を駆逐したかったのか?
まぁ何にせよ、トレンディドラマのお膝元だったフジテレビですら、05年から深夜アニメ枠「ノイタミナ」の放送を開始。
この時をもって、時代は完全にトレンディドラマから深夜アニメにバトンが渡ったと思う。
トレンディドラマの90年代から、深夜アニメの00年代へ。
リア充の90年代から、非リア充の00年代へ

ただし「ノイタミナ」は、初回放送作品が「ハチミツとクローバー」だったところを見るに、ちょっぴりトレンディドラマ的なものへの執着があったりして・・(笑)。

「ハチミツとクローバー」

うん、やっぱフジテレビって凄いわ。
彼らは時代の空気が変わろうが、決してリア充を否定しない。
なぜって、彼らにとってはリア充という層、もしくはリア充に憧れてる層というのは昔から馴染みのお得意様であり、最大顧客なんだから。
そう簡単に、顧客を切り捨てられるものじゃないさ。
その決意は、「ノイタミナ」初のアニメオリジナル企画「東のエデン」にて明確になったと思う。

「東のエデン」

「東のエデン」、これは実にフジテレビらしいアニメである。
バランス感覚が実に絶妙なんだ。
上の画像を見てお分かりのように、敢えてキャラデザインには「ハチミツとクローバー」の羽海野チカ先生を起用し、トレンディドラマ色を僅かながらも担保している。
上の回転木馬に乗ってる主人公カップルなんて、どう見てもリア充でしょ?
はい、うちのお得意様もこれならご満足いただけると思います、という感じがして面白い。
だけどこのアニメを見た人なら分かってると思うが、中身はかなり本格的なサイバーパンクなのよ。
なんせ世界線が、あの「攻殻機動隊」と繋がってるんだから。
「攻殻」といえばオタクコンテンツの最高峰ブランドであり、フジテレビの顧客にとってはかなりハードルが高いものである。
うん、だからこその羽海野チカ先生なんだよね。
これって、ピーマンが嫌いな子供にもピーマン食べさせようと、お母さんがそれを細かく微塵切りして子供の好きなハンバーグに練り込んだようなもんさ。
ようするに、
東のエデン=微塵切りピーマン入りのハンバーグ
ということ。

「東のエデン」のワンシーン

ほら、画だけを見ればトレンディドラマっぽく見えるでしょ?
主人公は木村拓哉に似てるし、ヒロインは松たか子に似てるし。
ただ、羽海野先生自身は押井守の熱烈なファンだったみたいで、だからこそこの仕事を引き受けたんだという。
厳密にいうと、押井守は「東のエデン」に関わってはいません。
関わったのは押井さんの弟子の神山健治であり、このへんのチョイスがまた絶妙にフジテレビのうまいところなんだ。
だってさ、本丸の押井さんがこれに関わった日には、上の画像のような男女のグループがみんなでニコニコしてる画なんて許すわけないじゃん?
フジテレビもそれを分かってるから、押井ファミリーの中でも話の通じそうな神山さんにコンタクトをとり、
月9を見るような人でも見られるような『攻殻機動隊』を作って
とオファーしたらしい。
かなりのムチャブリである。
局のマーケティングとしては
・ノイタミナ視聴層は60~70%が女性
・ミリタリー要素は避けられる傾向

というデータがあったらしく、そこを考慮すると「攻殻」なんて相性最悪である。
なのに、なぜ敢えてサイバーパンクにチャレンジを?
多分、フジテレビ的には危機感があったんじゃないか、と。
うちの顧客をオタク側へと啓蒙していかない限り、いずれ局は大きな時流に乗り遅れてしまうのでは?という危機感さ。
そう、昔はゴミとしか思ってなかったテレビ東京が、ここにきてフジテレビをじりじりと追い上げてきてたんだよね・・。

「東のエデン」のワンシーン

で、神山さんが作ったのが↑↑の画である。
こんな汚い部屋、90年代のフジテレビなら絶対放送はあり得ないわ~。
これまでフジテレビが頑張って提案してきたセレブ型のライフスタイルが、がらがらと音をたてて崩れた瞬間でもある。
上の画像手前の男性なんて凄いでしょ?
メタボ体型、いかにも散髪にいってなさそうな頭髪。
リアルやわ~。
でもこの男性、実はめっちゃ有能なのよ。
ついでにいうと、上の画像の小柄な女子(実はこの子もオタク)と若干いい関係だったりして、ちゃんとそっち系のフォローもされている。
うん、こういうバランス感覚、やっぱ神山健治は有能だな。
「月9を見るような人でも見られる『攻殻機動隊』」というリクエストにきっちり応えている。
正直サイバーパンク入門編として、あるいはオタク系アニメ入門編として、「東のエデン」を超える作品ってないんじゃないか?
全12話+映画2本という、お手頃な長さもいいし。
是非とも、リア充な人にも見てもらいたい作品である。

「境界の彼方」

仮に「東のエデン」がサイバーパンクの入門編だとして、もうひとつ押さえておくべきジャンルとして、伝奇ファンタジーという大きな鬼門がある。
いわゆる厨二ジャンル
その入門編ということになると、私なら「境界の彼方」を最もお薦めしたいと思う(これはノイタミナじゃないけどね)。
なぜって、これもトレンディドラマっぽい匂いを少し残してるからだよ。
上の画像を見て。
トレンディドラマさながらの、美男美女の4人組。
そりゃ制作が京アニだから、キャラの魅力は文句のつけようがない。
だけど中身は、意外とゴリゴリの伝奇である。
これも「微塵切りピーマン入りハンバーグ」系アニメだね。
というか、京アニ作品はいずれもが「微塵切りピーマン入りハンバーグ」である。
どれも口当たりがよく、本来なら苦手だったものでも食べられちゃう感じ。
ホント、ここは偉大な会社だよな~。
いっそ京アニのこと、お母さんって呼んじゃダメですか?


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