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わざとふやかして食べるとは!

 香港は、私達日本人からしたら外国です。

香港だけでなく、「海外に住んでいる」というのは、とても早いサイクルで出会いと別れを繰り返す、ということです。

そこに永住する意志を持ってやって来るというより、多くは最初から仕事や留学などで数か月から数年という限られた時間の中でやって来る人だからです。

友人Cさんも日本人ファミリーで、ご主人の仕事の都合でやって来られました。小学校高学年の育ちざかりの息子さんが二人いて、仕事の都合と言っても現地採用だったのでCさんは家計のやりくりを本当によく頑張っておられました。

料理だけでなく、できる限りの物を手作りして、ご飯もお腹が膨れるメニューを考えて、いつも奮闘しておられました。納豆も大量の大豆を買い込んでは、自分でコタツに入れて発酵させ、キロ単位で作っておられました。

節約上手でいつも明るく元気でシャキシャキ話すCさんは、遊びもお金をかけずに遊ぶのが大得意で、そこらじゅうの山を知り尽くしていて、あちこち登り歩いていました。

並んで一緒に歩くと、私も歩くのは早いと言われる方ですが、重量級の私と違い、すらりと身軽なCさんは更に早くて、走っているようなスピードでスイスイ歩いて行きます。

いつもせかせかと、足早にたくさんのお店をハシゴして、安い店情報に長けた活動的なCさんですが、ある時、お家にお邪魔すると、

オシャレなカップにコーヒーを出してくれました。

そして、ローカルのスーパーで売ってるクッキーを手に戻ってきました。

130217上水唱題会1

「ハザカイさん、コレ食べた事ありますか?私のお気に入りなんですよね~」

見ると、ベルギーワッフル風のクッキーでした。

「これをティーカップの上に暫く置いておくと、ちょっとしんなりして出来立てのケーキみたいになって美味しいんですよね~」

と言うのです。

私はそれまで、パリパリの物はパリパリで食べるのが一番美味しくて、しけったら「あ~もう駄目だ」っていう感じでしたが、敢えて湿気らせていただくとは、と目からウロコが落ちました。

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コーヒーの湯気で、しんなり温かく柔らかくなったクッキーは、クッキーじゃなくて、もうワッフルでした。

ホントに美味しいだけでなく、温かいせいなのか、水分でふやけたせいなのか、クッキー一枚ですごい満足感。胃も心も満たされた気持ちになりました。

私なら軽く二、三枚はパリパリ行ってしまうところ、Cさんは何と上手に、「たった一枚」を楽しむんだろうと、普段活動的でいつも忙しそうなCさんが、一方で、こんな優雅で贅沢なひとときを過ごしていた事に感動を覚えました。

香港は、以前からイギリスの植民地になり、イギリス統治になった国の難民を受け入れさせられたり、中國の文化大革命や天安門事件などの煽りを受けて難民が押し寄せて来たり、とその度に「香港脱出ブーム」と呼ばれる移民ブームが起こってきました。

今、細かく言えば第7次移民ブーム、大きく分ければ第三次移民ブームが起こっていて、日本の友人達も次々と本帰国していきます。

今朝、また一つの友人家族が本帰国を決めたと連絡をもらいました。

送別会さえも出来ない今、私は帰ってしまったCさんや、たくさんの友達をコーヒーの湯気の中に思い出すのです。

秋のせいかな・・。



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