マガジンのカバー画像

小説

9
小説です
運営しているクリエイター

記事一覧

土くれを踏むだけ

 土くれを踏みつけて、思ったよりも軽く弾けるような、まるで空気の抜けるような感触で意表を突かれる。水分という余裕を失った塊の瓦解が思いがけず衝撃だったので、少しだけ足を止める。そして、もう一度踏み込んでみる。すでに散開した砂埃たちは土くれだった頃よりもむしろ頑丈に反発する。いや、散開したというのが間違った表現だったのかもしれない。こいつらはもっと大きな、地球という土くれに同化したのだ。そして地球ほ

もっとみる

「裸足」がテーマの文章を書く裸足の人

 パソコンの前に座り込んだとき真っ先に思い浮かぶ言葉が「寒い」、そんな季節に文章を書こうというのが間違いなんだ。

 アスファルトが夏の日差しでちりちりに熱いところを裸足で歩く。飛び出た小石の尖ったのだとしても、熱さと判別つかない。白線を踏んで進むことは子どものお遊び以上に足裏を救う意味を持つ、裸足のときに限るけど。

 とにかく速さが求められるときに、足が降り立つ先に何が落ちてるか気にしている暇

もっとみる

インターネットが壊れた

 インターネットが壊れた。

 ルーターのランプが赤点滅することってない。もうこれは壊れてるに決まってる。ケーブルが壁の奥に消えたその先が全部吹き飛んで、インターネットとはもう会えないのだ。

 陰湿なインターネットはその陰湿さ故に僕と仲良しだった。僕は誰のことも傷つけたくない割に、皮膚にカッターナイフが生えそろっている。ほとんどインターネットみたいなもんだ。

 タッチパネルに向かって指を押し付

もっとみる

140字小説みたいなやつ その2

 風が吹いている。風、気温によって態度を変える奴。気温が高いときほどありがたくなる。気温が低いほど刃物になる。こないだはいよいよ切り付けてきたので、皆が肌を出さなくなった。耳なし芳一はなぜか耳だけぬかったが、皆はその教訓をしっかり活かしている。

 ももたろさん、ももたろさん。お腰につけた、きびだんご。ひとつ、わたしにくださいな。ふむふむ、たしかにきびだんご風に装っていますが、わたしの目はごまかせ

もっとみる

別に風邪を引いてはないけど、別に小説でもないけど

 まとまった文章が書ける体調ではない。

 なんか頭がぼーっとするの。彼女が言うので仕方なし、おでこに手を当ててみる。

「うおん、たしかにちょいとあちいな」「でしょう」

「これはやはりお熱でしょうかね」「おそらく」

 合意形成のそののち、ぴったり貼り付いてめちゃくちゃに冷えるシートがおでこのど真ん中に座り込む。

「ぬわあ、熱が奪われる」「大人しくしろい」

 暴れる彼女を寝かしつけ、すやす

もっとみる

140字小説みたいなやつ

 なんとなく物足りない気分で貧乏ゆすりが激しいので、これで電力を生み出せないかと考えた。いくぶんかの試行錯誤の後、発電装置が完成した。なんとも満ち足りた気持ちだ。貧乏ゆすりも収まったし。

 変なにおいがすると母に伝えたら、きっとキンモクセイの香りだと教えてくれた。確かのこの木から匂うので、そうかこの木がキンモクセイなのかと納得しかけて、そこに吊り下がった人の死体が目に入った。

 朝焼けがまぶし

もっとみる

【小説】悩める剣士

 例によって某所のお題を受けて書いたものです。

「お命頂戴する」

 差し出された手があまりにも醜くごつごつとした紫肌のものだったので、そういえば私は何をと醒めたわけである。

 そこからは一瞬のことで、頭より身体が先に動いて腰の剣を抜き取り振るう。私の腰を起点として、ひとつまばたきをする間にざっと四閃は輝いて、遅れて命尽きる鮮血の雨が降る。

 相手がいくら私を警戒していたところで防ぎようのな

もっとみる

【小説】立ち食いそば

 某所でお題をいただいて書いたものです。短いよ!

「ねえ、じいさん」
「なんだよ」
 そばを啜りながら男は店主に話しかける。
「ここさ、なんでこんなに客いないのよ」
「あぁん?」
 店主が凄むので、男は少し肩をすくめて続ける。
「だってよ、ここ一応立ち食いそば屋だろ? 立ち食いの店って、忙しいサラリーマンにささっと食ってもらって儲けるって聞いたぜ。それなのにこの店、全然客いねえじゃん」
 話しな

もっとみる

【小説】ある人の感想

 死の話なので、読むときはあったかくしたほうがいいです。

 すいません、ちょっとだけ、話聞いてもらってもいいですか。

 あの、見てわかると思うんですけど、今、お腹に刺してて、あの、包丁です、包丁。

 はい。包丁を刺しました。自分です。自分で。事故じゃないですよ。ちゃんと、準備しましたから。

 刺すって決めたときに、想像したんです。自分に刺すなら、どんな包丁がいいかなって。

 具体的には思

もっとみる