見出し画像

【ファジサポ日記】111.エッセンシャル思考〜第17節 ベガルタ仙台 vs ファジアーノ岡山 マッチレビュー 〜

大事なことを見極め、時間とエネルギーを効果的に配分し、最大限のパフォーマンスを発揮する。

グレッグ・マキューン著『エッセンシャル思考』の一節である。

FPに故障離脱者が多発しているファジアーノ岡山は、折り返しも見えてきたJ2第2クール終盤戦を必要最低限の戦力で戦い続けている。

しかし、その戦いぶりは「必要最低限」からムダを極力削ぎ落とした上での「効果最大化」へと変貌を遂げかけている。今節の仙台戦はまさにそんな戦いぶりであったと思う。

振り返ります。

1.試合結果&メンバー

目下4連勝中の3位仙台相手に接戦も予想されましたが、仙台に先制を許しながらも逆転。今シーズン最多得点を上げる予想を覆す大勝となりました。岡山は記念すべきユアスタ初勝利、順位を4位に上げました。
勝点は30に到達、1試合平均勝点は1.76まで回復しています。
筆者は過去のデータから、J1昇格戦線に生き残るためには折り返し段階で少なくとも1.5~1.6の平均勝点は必要と考えており、その点は現時点でクリア出来ました。前半戦の残り2試合(千葉戦、鹿児島戦)での上積みが期待されます。

J2第17節 仙台-岡山 メンバー

続きましてメンバーです。
岡山はLWBに出場停止明けの(17)末吉塁が戻った基本隊形3-4-2-1です。前節(17)末吉の穴を埋める活躍をした高卒ルーキー(55)藤井葉大はベンチ外となりましたが、チームには帯同、試合前のアップにも参加していました。
チームを離れたFW(9)グレイソンのユニフォームもしっかりと岡山ベンチに「帯同」していました。

仙台は今季お馴染みの4-4-2です。最近は2トップを(7)中島元彦、(11)郷家友太と中盤の組み立てにも加われるタイプで組んでいます。
森山佳郎監督の下、全体的に若返りした印象が強いメンバーです。
中継では最近3試合を3バックのチームと対戦していた点や、暑さ対策として今季冴えをみせるショートカウンターのみならず、ボールを握るサッカーにも着手している点についても触れられていました。

2.レビュー

J2第17節 仙台-岡山 時間帯別攻勢・守勢分布図

岡山は判定面で不利を受ける流れから先制を許しましたが、その直後を冷静に戦えた点にチームとしての大きな成長の跡を感じました。
その後、RSH(39)早川隼平の移籍後初ゴールが生まれます。
全体的に仙台にボールを握られながらも、前半のうちにいくつか決定機をつくれていた岡山は後半の立ち上がりにLSH(19)岩渕弘人のゴールで勝ち越しに成功。追いつきたい仙台の攻勢を受けますが、冷静な守備からショートカウンターを繰り出すと更に追加点を重ねることに成功しました。
特筆すべきは、後半3本のシュート全てがゴールとなった効率の良さであったといえます。

(1)仙台のねらいと岡山の柔軟な対応

今シーズンの仙台の強みは相手の出方をみながら、相手の弱点をシンプルに精度高く突いてくる点にあります。
この試合も岡山両WBが攻め上がったところでボールを奪うと、シンプルに岡山両WBの裏、3CBの脇に配球、両SHを走らせていました。
特に俊足RSH(27)オナイウ情滋に対応するのは、後方へのスピードに弱点を持つ岡山LCB(5)柳育崇ということもあり、序盤の岡山はこの右サイドを特に狙われていました。徐々に(5)柳(育)は警戒し、自陣で若干引き気味のポジションを取り、仙台のカウンターに準備していました。
一方、岡山は前節甲府戦で完全にチームとしての活用法が確立されたCF(99)ルカオがピッチやや右寄りからボールを受け前進。この試合でも「偽CF」、サイドアタッカー的な動きをみせます。

両チームともに相手陣内でのプレス、プレスバックによる再奪取にも冴えをみせました。岡山では6分、仙台陣内30mライン右寄りで(99)ルカオから流れたボールを拾った仙台CH(6)松井蓮之から岡山RWB(88)柳貴博が再奪取、(39)早川とのワンツーからボックスに向かって進入、ボックス内のLST(19)岩渕弘人へパスした一連の崩しは、(19)岩渕が倒された後の(39)早川のシュートも含めて、仮にゴールが決まっていれば満点であったといえます。

仙台CB(5)菅田真啓の(19)岩渕に対する両手を使った後方からのプッシングは高い確率でファール、DOGSOの可能性もあったと考えられますが、判定はまさかのノーファールでした。この直後の仙台の攻撃で岡山のハンドがしっかり取られPKとなった点と比べると、DAZN中継解説田村直也さんの言葉をお借りしても、先立圭吾主審の判定は公平性を欠いたと言わざるを得ないと考えます。

筆者のフォロワーさんからいただきました見解によりますと、先立主審から(19)岩渕・(5)菅田の間に(27)オナイウと(88)柳(貴)がいわゆる「串刺し」の状態で入っており、おそらく先立主審は(19)岩渕に対する不当なコンタクトを見逃しているというものでした。
先立主審の立ち位置自体は悪いものではなく、偶然が重なった岡山としては不運な判定であったという見解でした。
非常に説得力があり、妥当な見解と感じました。
試合後の(18)田上のコメントの一部からも、先立主審が「見えていなかった」ことを示唆するものがあり、おそらく岡山側にも何らかのコミュニケーションがあったものと推察されます。

何でもそうかと思いますが、大事なことは出来なかった理由を解明して終わりにすることではありません。串刺しは理解できましたが、あれぐらいは取ってもらわないと困るというのもサポーターのみならず、選手ら現場の声ではないかと思います。はっきり述べますならVARは必要です。
一方で、先立主審には更なる判定の向上をお願いしたいところです。

岡山から成長を感じましたのは(17)末吉が与えたPKも含めた判定後の選手・ベンチの振る舞いです。
主審にしっかりアピールをしているのですが、昨シーズンにみられたような執拗な抗議は行わず、見落としを主審にしっかり気づかせる様子が手ぶりや身振りから伝わってきました。
この試合は、戦前に予想されました仙台の守備の堅さを踏まえましても、1点勝負になると岡山は踏んでいるようでした。この点から非常に痛い失点であったのは事実なのですが、前半の早い時間帯であったこと、序盤から攻撃のねらいを出せれていたせいもあったのか、選手の振る舞いからは落ち着きがみてとれました。

また、この前の時間帯について失点の場面も含めて、サイドからクロスを何度か上げられていたことから、岡山は同点に追いつこうと躍起にならず、両WBを下げて甲府戦同様に5-4-1、または5-3-2の守備ブロックを形成、まずは仙台の両SHのプレースペースを埋めて、守りから改めて試合の自分たちのリズムを取り戻そうとしていたのです。

不測の事態が起きた時に、自分たちが勝利するための最も合理的で効果的な方法を実行していた岡山の姿がそこにありました。まさに「エッセンシャル思考」なのです。

(2)前線3枚連携の自信

構えて守る岡山に対して、仙台は岡山最終ライン5枚の脇をねらいながらも、中盤3枚の脇のスペースも突きながらワンタッチで繋ぐなど多彩な攻撃をみせます。一方で、岡山も前線3枚、特に(99)ルカオがそのフィジカルを活かした自分なりのボールコントロールでボールを収めていたのは大きな収穫で、周辺を走る(19)岩渕や(39)早川、そして(88)柳(貴)にも度々チャンスが生まれていました。

そんな流れの中で生まれた岡山の同点ゴールでしたが、仙台最終ラインからのアバウトなフィードをCH(7)竹内諒がカット、左サイドタッチラインで残し、後方をを駆け上がっきた(17)末吉へ。右サイドからカウンターを仕掛けたい仙台が、ここに人数をかけて囲い込みにくるところをサポートに入った(19)岩渕がボールを引き取ります。
ここまではWBをSTがサポートするよくある形なのですが、この後の(19)岩渕の運びにアイデアがあったと思います。
仙台は(19)岩渕の前方縦のコースを消します。(19)岩渕の右前方には(99)ルカオがパスを受ける態勢を整えていました。
おそらく、仙台の守備陣も(19)岩渕が(99)ルカオに当ててワンツーで抜ける、また(99)ルカオがそのまま反転するイメージは持っていたかもしれません。仙台守備陣の動きはかなり(99)ルカオに集められていたように見えました。
しかし、(19)岩渕はその(99)ルカオを囮にしてボックス手前中央付近までドリブルで進出、この時点で既に仙台の虚を突いていたように思います。

J2第17節 前半岡山の同点ゴールをアシストした(19)岩渕の動き
破線は(99)ルカオにボールを預けたと仮定した時の攻撃
波線は実際のボールの運び

そしてこの(39)早川の動きも特筆です。どうやら最初は(19)岩渕のプレースペースを広げるためにバックステップを踏んでいたようなのですが、これが仙台DFを右に振る効果があったと思います。パスが利き足に入った瞬間からシュートに切り換え、見事なコントロールショットを披露します。

前節甲府戦と比べても明らかにコンディションが上がっていますし、周囲との連携もアップしています。そしてこのゴールシーンからもわかりますように(39)早川はプレーの切り替えが非常に速いです。
期待どおりに魅せてくれたゴールでした。

残念ながらモーレスレベロトーナメントのU-19日本代表には選出されませんでしたが、言ってみれば彼の能力の高さは年代別代表では認められている部分はあり、不足している点はプレー実績の上積みかと思います。
今回の代表不選出が代表チームの主体的な意思なのか、岡山側からの要望があったのか、その真相はわかりませんが、少なくとも、このまま途切れることなく岡山でプレーを続けていくことは決して本人にとってマイナスではないと考えます。

前線3枚、(39)早川、(99)ルカオ、(19)岩渕の連携にはこの先も大きな期待を持てそうです。

(3)「攻撃的」藤田息吹 他

同点となって以降は、岡山、仙台共に決定機をつくる好ゲームになっていたと思います。再び試合は1点を争う接戦になりそうでした。

後半開始早々の岡山の勝ち越しゴールは、決して特別な戦術的特長によってもたらされたものではなく、後半開始最初の15分というチームとして得点を奪うために圧力を強めていく時間帯にシンプルに圧を強めた結果であったと思います。
逆に仙台は入りが消極的であったかというと筆者はそうは見ていなくて、おそらく改めてカウンターからリズムをつくろうと岡山を自陣に引き込む意図があったのではないかと推測します。
ゴールそのものは(88)柳(貴)からのクロスがボックス内で流れたことによるものですが、この時岡山は前線3枚のみではなく、CH(24)藤田息吹までもがボックス内に入っていたのです。中に多くの人数を割いたことによって、外の(19)岩渕がフリーになったという構図でした。

今や岡山に欠かせないボランチ(24)藤田息吹ですが、ダブルボランチを(41)田部井涼や(44)仙波大志と組む時は、ボランチの縦関係でどちらかというと下がり目のポジションをキープしこぼれ球を拾っていました。しかし、この試合では縦関係の下がり目を(7)竹内涼が務めたことで、(24)藤田(息)が普段よりも高い位置での攻撃に関与、岡山の新たな攻撃アクセントになっていました。

この場面のみではなく、4点目の起点となったRSH(27)木村太哉への縦パスなど、今まで岡山ではベールに包まれていた攻撃的センスを如何なく発揮した(24)藤田(息)でした。

順番が前後しますが、少々この4点目にも触れたいと思います。

おそらく多くのサポーターが感じたのは、なぜ右ウィングの(88)柳(貴)がゴール左サイド側にいたのか?という点ですが、これはシンプルにファーにスペースがあったからだと思います。
元来、今シーズンの岡山はキャンプから両WBが積極的にフィニッシュにも絡んでいく形を模索していました。
そういう意味ではチームのねらいどおりの動きなのですが、ゴール前が密集していたことから、ファーには浮き球のクロスが来るという予測があったのかもしれません。浮き球が来た場合、左の(17)末吉だと高さ不足になる、ならば高さで優位に立てる自分が決める、ここまでもし考えていたのであれば大したものですよね。

この試合、3点目を決めた(27)木村のゴール前の動きにも(99)ルカオからのマイナスのクロスを予感させるフェイクが入っていました。

この試合の岡山の4得点には、これまで岡山にあまり見られなかった各選手の一歩進んだ積極性や工夫が溢れていたのです。
では、この創意工夫がどこから生まれたのか?

それがエース(9)グレイソンの離脱にあったのではないでしょうか?

(9)グレイソンの無念を背負って戦う、(9)グレイソンをJ1に連れていく、そのチームメイトの決意を具現化するうえで、(9)グレイソンの攻撃力をチーム全体でカバーする。選手一人一人が自身の攻撃力を一段階アップさせる。この試合の岡山の各選手のプレーからは、そんな覚悟がみてとれたのでした。

3.まとめ

この試合の戦況を改めて振り返りますと、後半早々にビハインドとなった仙台が躍起になって攻めてしまい、岡山のカウンターの餌食になってしまった点は大差がついた大きな要因であったかもしれません。
もし、仙台が前半の岡山と同様に失点後に改めて守備から入り直していたら、МF(24)名願斗哉ら切り札も控えていたことから、この試合の結果は異なったものになっていたのかもしれません。
前後半通じて終始安定しなかった主審の判定に上手く適応した岡山のしたたかさも光りましたが、この試合の岡山はプレーの選択、局面での判断が全てにおいて効率的でシンプルであったと思います。
チームの苦境、そして(9)グレイソンへの想いがチームをひとつにし、シンプルな思考を共有しているようにみえるのです。

次節は昨シーズン苦杯を舐めた千葉が相手ですが、エッセンシャル思考とも呼べる効果的な試合運び、プレー選択を続けていれば決して怖がる必要はないと思います。堂々としたフクアリでの戦いに期待します。

今回もお読みいただき、ありがとうございました!

※敬称略

【自己紹介】雉球応援人(きじたまおうえんびと)

地元のサッカー好き社会保険労務士日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。

この記事が参加している募集



この記事が参加している募集

#サッカーを語ろう

11,160件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?