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【ファジサポ日記】104.コンセプトを取り戻せ~第11節 ファジアーノ岡山 vs ロアッソ熊本 マッチレビュー~

久々のホームゲーム、久々の勝利を収めることができ嬉しかったのですが、喜び爆発というよりはホッとしたというのが正直な心境です。
第2クール最初のゲームでチームは5戦ぶりの勝利、11試合で勝点22ですから、再びJ2自動昇格ラインの目安となる1試合平均勝点2に戻すことが出来ました。
最近の流れからも、この試合で敗れると立て直しに少々時間が掛かるのかなと思っていました。
先週の秋田とは真逆な特化ぶりが目立つ熊本が相手でしたが、チームは熊本の攻勢を受けながらも冷静に試合を運び、結果のみならず内容面でも「自分たちのサッカー」を表現出来ていたと思います。
ここから再び連戦となりますが、この試合でチームが取り戻したモノを中心に確認しながら、この試合を振り返りたいと思います。

1.試合結果&メンバー

前半での得点は第5節水戸戦(グレイソンのPK)以来となりました。前半のみでの2得点は今シーズン初となります。一方、守備面は2試合連続の無失点、これでクリーンシートは計7試合となり、今節再びリーグ最少失点へと返り咲きました。多くを語らない試合前の熊本、大木監督が岡山の印象を一言「手堅い」と述べていましたが、まさにそのとおりの試合結果となりました。

J2第11節 岡山-熊本 メンバー

続いてメンバーです。負傷者の状況も気になる岡山ですが、CHに(6)輪笠祐士が戻ってきました。ベンチ入りしていた前節秋田戦では出番がありませんでしたので、今シーズン初出場となります。
もちろん相方CH(24)藤田息吹とも初コンビとなります。
一方、秋田戦で途中出場を果たしたLST(19)岩渕弘人が6試合ぶりのスタメン、(8)ガブリエル・シャビエルが右に回りました。

熊本のベンチには、今シーズン4得点(3PK)と気を吐く弱冠16歳のCF(28)神代(くましろ)慶人、前節で今シーズン初得点を決めた18歳CF(29)道脇豊が控えます。

2.レビュー

J2第11節 岡山-熊本 時間帯別攻勢・守勢分布図

現地で観戦していまして、こんなことをポストしてしまうぐらい、熊本からの被支配感(前半の支配率:岡山37%)が強かったのですが、「時間帯別攻勢・守勢分布図」にまとめますと30mラインでの攻防では岡山も引けをとっていなかったことがわかります。
熊本からの支配を許容しながら、岡山が自分たちのスタイルを表現していった一戦でもあったのです。

(1)相手コートでの戦いの再確認

岡山の勝利が途絶えた第8節大分戦以降の流れをおさらいしますと、「決定力不足」や「セットプレーでの失点」がもたらす「過剰な失点への怖れ」、そして「過剰な守備マインドの高まり」が岡山の「攻撃マインド」を委縮させていたといえます。
おそらくそうしたチームの課題に選手も気づいており、前節秋田戦後のCB(18)田上大地の「次は勝つ」発言は自分たちの良さを取り戻すという意味をも内包していたのかもしれません。

Football LABさんの独自指標AGI(=攻撃時に相手ゴールに近づけたかを表す)でも、岡山は秋田に次ぐ2位をマークしています。相手コートで保持する時間が長いかどうかはともかく、岡山はここまでチームコンセプトはある程度体現できており、行うべきはやはり自分たちのサッカーの再確認であったといえます。

2分LWB(17)末吉塁がボランチ(6)輪笠のサポートを受けて前進、内側のレーンを取り、相手陣内に入ると素早くCF(9)グレイソンに当て、(9)グレイソンと近距離を保つ(19)岩渕とのパス交換から迎えた決定機はまさに岡山の形のひとつであり、ポストに阻まれたシュートに若干決定力不足の不安を感じながらも「岡山の形」でチャンスをつくれた点は選手の大きな自信になったのではないでしょうか。

2分抜け出した(9)グレイソンの強烈なシュートは左ポストを叩く

岡山が相手コートでの戦いを進めるにあたって前提となるのが(9)グレイソンのポストプレーの成否なのですが、この試合の前半では(9)グレイソンの負担軽減、マーク分散を図って、GK(49)スベンド・ブローダーセンからのロングボールを(8)シャビエルが受けるシーンが目立ちました。(8)シャビエルは熊本のライン間でロングボールを受け、その高い技術によりダイレクトで前線に送っていましたが、これが意外にも機能していたと思います。

前半で退いてしまいましたが、(8)シャビエルは前線からのプレスも持ち前の機動力でソツなくこなしており、攻撃面で決定的なプレーに絡むことはなかったものの、いわゆる「おとり役」や守備面での貢献が目立った点は嬉しい誤算であったと思います。

試合前のポストですが、筆者は岡山のスタイルを実行する上で必要となってくるのが、①(6)輪笠と(24)藤田、つまりボランチの縦関係と②(9)グレイソンを追い越す動きであると考えていました。
次はこの2点についてみてみます。

(2)前へ!前へ!輪笠祐士

岡山と熊本を比較した時、個々の脚元の技術、そしてそれに基づくパスワークは熊本の方が巧いと言わざるを得ません。
よって熊本の方がボールを持てますし、ボールを自由に動かせる時間はどうしても長くなります。この想定された状況に対して、岡山はしっかりとしたミドルブロックを構えて出来るだけ高い位置でボールを奪う準備をします。
更にそのミドルブロックに穴を空けるリスクを抱えながらも、ボランチの一角(6)輪笠を前方からのプレスに参加させるのです。
22分過ぎ、木山監督から(6)輪笠に前に出るよう指示が出た直後のシーンを振り返ります。

J2第11節 岡山-熊本 22分岡山の守備

熊本自陣からのビルドアップです。
岡山前線からのプレッシャーに対して、熊本は下りてきたCH(21)豊田歩からの前進を図ります。
ここで(6)輪笠は(24)藤田との並列関係を崩して前へ出て(21)豊田にプレス、(21)豊田は右サイドにドリブルし(6)輪笠を剥がそうとしますが、(6)輪笠は(21)豊田をしっかり追走、前進を許しません。結局、ボールはRWB(9)大本祐槻のサポートによりGK(1)田代琉我に戻され、(1)田代に岡山陣内へ蹴らせることに成功します。

前へ出た(6)輪笠の裏のスペースには熊本CF(7)竹本雄飛が受けに下りますが、ここは岡山RCB(15)本山遥がしっかりマークしていました。

(6)輪笠を前へ出すことで、岡山はチームとして中央を空けるリスクを冒しながらも、前から熊本ボールを制限する守備を優先したのです。もちろん熊本は巧いので前線からのプレスで獲り切れる可能性自体は低かったかもしれません。
しかし、前からプレスを掛けることで熊本ボールをサイドに誘導することは出来ていました。熊本ボールを中央経由ではなく外回りにしていたことは、鋭い熊本の攻撃を少しでも遅らせる効果はあったと思います。

30分(19)岩渕のアシストから(6)輪笠の先制ゴールが決まる。ボランチの彼がこのスペースに走り込んでいたことに価値があった。この場面については後ほど。

この試合ではサイド誘導後のWB同士の勝負についても若干岡山側が後手であったと思います。
しかし、岡山の両WBが熊本の両WBに剥がされても、その後ろの両CBが熊本の前進を強力に迎撃出来ていました。特にRCB(4)阿部海大は、背中を向けてボールを隠す熊本のボールホルダーに対して上手く体を入れながら奪還に成功していたと思います。
熊本の攻撃が比較的右サイド(9)大本の突破に集中していたのは、熊本が左でつくって岡山を引きつけて、右のスペースを利用するという能動的な要素もあったと思いますが、岡山が(4)阿部の奮闘により熊本左サイドからの攻略を難しくしていた面もあったからだと考えます。
試合後、熊本の大木監督が右サイド(9)大本からの攻撃について問われると、「両サイド」で同じような攻撃をやりたかったとの趣旨を話していました。岡山の守備は熊本の攻撃をある程度制限出来ていたといえるのです。

(17)末吉と熊本(9)大本のマッチアップ
右サイドから中に切り込んだ(9)大本のシュートは(49)ブローダーセンがセーブ

さて、話を(6)輪笠に戻しますとこの守備面での前進気勢の意識が先制点、移籍後初ゴールに繋がったと思うのです。

まず自陣(24)藤田からの鋭い縦パスに(8)シャビエルが鋭く反応、熊本のタイトなマンマークを剥がし、ワンタッチで(88)柳(貴)へ。(88)柳(貴)も背後からのプレッシャー受けながら、(9)グレイソンへとワンタッチで繋ぎます。ドリブルで前進する(9)グレイソンがサイドに流れることで熊本CB(24)江崎巧朗を引き出すことに成功、手薄になる熊本ボックス右側で(9)グレイソンからのクロスを(19)岩渕が受けて粘る間に中央のスペースに(6)輪笠がよく走り込みました。
(24)藤田が縦パスをつけた段階では横並びの位置にいた(6)輪笠が一気にボックス内まで走り込んだ、これは一重にこの試合における(6)輪笠の前進気勢が好影響を及ぼしたものと思います。
「速く」攻める、岡山のコンセプトの一つを体現出来ていたゴールといえます。

後半、右サイドに流れる(9)グレイソンの動き。
熊本(24)江崎をサイドに引っ張り出す効果があった。
クロスも丁寧、新たな一面を見せた。

(3)お待たせしました岩渕弘人

(6)輪笠の先制点をアシストした(19)岩渕の落ち着きも特筆です。
まず、この場面も自陣のこぼれ球を(24)藤田が前へと繋いだことがきっかけとなりました。(9)グレイソンに渡りそうになった瞬間から(19)岩渕が(9)グレイソンの脇を猛ダッシュで駆けていきます。
これも岡山が開幕当初からねらいとしていた攻撃の形でした。

先制後の15分はエンジンが掛かった熊本の攻勢が続きますが、鋭いシュートブロックなど岡山の最後をやらさない守備と熊本の決定力不足により、岡山はリードをキープします。

そんな熊本の反撃ムードを断つゴールでした。

開幕当初(19)岩渕にはこの(9)グレイソンを追い抜く形で、いくつもの決定機が訪れます。ボックス内への進入のスピード、クオリティは高かったものの、アウェイいわき戦のような気負いもあったのか、決定機逸が続いていました。しかし、ボランチ脇のスペースを埋める守備も含めて欠かせないピースになっていた(19)岩渕が離脱してから、岡山はSTの人選に悩み始め、それがそのまま最近の勝点の伸び悩みに繋がっていたような気もします。(19)岩渕が昨シーズンいわきでゴールを量産していた時期の感覚を取り戻すきっかけになりそうという点でも大きな意義を持つ追加点であったと思います。

抜け出し独走する(19)岩渕
考える時間も長かったはずだが、確実に決めたことは今後のゴール量産への布石となるか。

(4)コンセプトを失わなかった後半

少々心配であったのが(8)シャビエルの前半のみでの交代です。
先制点のシーンで(24)藤田からの楔のパスを受けた際、後方から強く当たられており、この際に負傷したのかもしれませんが、その後もプレーを続けていたことから、大事をとった、また2点リードという試合展開を考慮しての交代であったのではないかと推測しています。

この2点リードで迎えた後半の入りも46分のように(6)輪笠の縦パスからチャンスを生むなど、岡山は積極的に3点目を獲りにいく姿勢をみせました。この姿勢は良かったと思います。
おそらく最初から構えて守りますと、この試合の熊本のデキではなかなか攻勢に転じられませんでしたし、守備の時間も長くなっていたと思います。

(8)シャビエルから代わって入ったRST(27)木村太哉は運動量と積極的なプレスバック、ドリブルでの持ち運びと(8)シャビエルとは異なる個性でチームに貢献しますが、57分の決定機を決め切れていれば、おそらくその後チームには4点目、5点目と大勝のチャンスも生まれ、もっと楽に勝てていたかもしれません。こうした決定力向上は、今後、清水や長崎に追いつくためにも克服必須の課題となることでしょう。

この決定機逸から試合の流れは変わり、熊本はこの直前に投入していたMF(17)藤井晧也、FW(29)道脇豊といった若い力を中心に再び攻勢に転じます。
66~70分の5分間はまさに我慢のしどころでしたが、68分(49)ブローダーセンの「セーブ後の戻りセーブ」など岡山はゴール前を堅く閉ざして熊本にゴールを許しません。

至近距離からのシュートをセーブする(49)ブローダーセン
この後の戻りセーブは更に凄かった

最近3試合で8得点の熊本を無失点に抑えられた要因には、当然こうした岡山の「最後をやらさない」守備の堅さがあった訳ですが、ここまで述べてきましたように、①前からの守備を怠らなかったこと、②両サイドのCB、特に右の(4)阿部の所で熊本の攻撃をストップ出来たこと、そして岡山の自陣からの攻撃の際、闇雲に前線に蹴るのではなく、狭い局面に臆することなく岡山が繋ぐことにより自分たちの時間をつくっていたことが挙げられます。そして①③の要素において、(24)藤田と(6)輪笠が効果的に縦関係になれていたことを改めて強調したいと思います。

3.まとめ

さてこの熊本戦は岡山にとっては勝利という結果に加えて、自分たちのスタイルを取り戻したという意味で非常に意義深い戦いであったと思えます。
この第2クール、相手が強化されることは間違いないのですが、能動的にボールと人を動かしてくる対戦相手が多く、岡山としては戦いやすい面が出てくると筆者は予想しています。そういう意味では次節清水戦も楽しみなのですが、決定力に関しては間違いなく熊本より上の筈です。
この試合でやられなかった局面を清水は決めてきます。
岡山としては、やらさないことも大事ですが、いかに決め切るかがポイントになると思います。
チーム状況を踏まえますとここからの連戦がきついのは間違いないと思いますが、逆にホームゲームも多いGWです。良い雰囲気づくりという点では、サポーターとしてチームに貢献出来そうです。

今回もお読みいただきありがとうございました!

※敬称略

6と24 縦関係になるタイミングを含めて、相性の良さを感じた組み合わせであった。
攻撃面でも積極性を取り戻していた(88)柳貴博
課題はクロスの精度か

【自己紹介】雉球応援人(きじたまおうえんびと)

地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。
今年こそ歓喜の場を描きたい。
鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。






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