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【ファジサポ日誌】113.細部に神は宿る~第19節 ファジアーノ岡山 vs 鹿児島ユナイテッドFC マッチレビュー ~

試合途中からの荒天、ミスからの失点、追いつくのが精いっぱいの試合内容と前節千葉戦に続き、非常にストレスが溜まる一戦でした。
この第19節でJ2は折り返し、岡山はプレーオフ圏内の6位でターンします。第1クールの貯金は当に使い切った感もある第2クールでしたが、その感覚の割にはまだ上位にいることを踏まえると、岡山にもまだ幸運は残っているとも思えます。この幸運を後半戦に活かすための上積み要素は何なのか?今回の鹿児島戦から見えたものは明確であったと思います。

振り返ります。

1.試合結果&メンバー

周知のとおり、勝利すれば4位に上昇できる一戦でした。
サッカーの内容はともかく降格圏18位の鹿児島とホームでの戦いであったことを踏まえても勝たなくてはならないゲームでした。勝点2を失ったというべきでしょう。

J2題19節 岡山-鹿児島 メンバー

メンバーです。
岡山にLCB(43)鈴木喜丈が帰ってきました。3月24日第6節群馬戦以来の復帰となりました。その状態が気になるところでしたが、ベンチにDF(55)藤井葉大が控えていたことからも時間制限出場になる気配が感じられました。前節千葉戦で退場したCB(18)田上大地に代わり(5)柳育崇が久々に中央に入ります。

鹿児島は浅野哲也監督に交代し2戦目です。
前節秋田戦では2人メンバーを代えていましたが、この試合でも2人メンバーを代えてきました。CFには(92)ンドカ・チャールズ、そしてRSHに左利きの(21)田中渉を入れてきます。
前節のメンバー変更も含めて、よりフィジカル面で戦える選手をスタメン起用している傾向もみてとれ、徐々に「浅野色」が強まっている印象が残りましたが、そればかりではなく鹿児島の岡山対策をも感じさせる選手起用であったと思います。

2.レビュー

J2第19節 岡山-鹿児島 時間帯別攻勢・守勢分布図

岡山は前半から度々アタッキングゾーンに有効に進入、流れの中から数多くのシュートを試みますが決め切ることが出来ず、CKも合わせられることが出来ない展開が続く中、後半GK(49)スペンド・ブローダーセンのキックミスから鹿児島に先制を許します。

ギリギリの被カウンター管理の下、岡山は躍起になって攻撃を仕掛けます。それでも決め切れない焦燥が続く中、交代出場のRST(10)田中雄大が鹿児島ゴール前中央でシュートタイミングを図りながら鹿児島CB(23)岡本將成を誘い出し、そのスペースに走り込んだLST(19)岩渕弘人へとパス、(19)岩渕が鹿児島GK(1)泉森涼太との1対1を制し、岡山が同点に追いつきます。

ここから逆転をねらった岡山でしたが、鹿児島が(おそらく)勝点1ねらいという面もあり無理せずにボールを保持。岡山は逆転までのエネルギーを十分に出せずタイムアップを迎えました。

(1)お互いのねらいが出ていた好ゲーム

岡山は、決定力不足が続く中で相手に先制を許し、木山監督と(19)岩渕が試合後に述べていたとおり「自分たちで試合を難しく」してしまいました。しかし、全体的には岡山も鹿児島もしっかりしたゲーム設計の下で戦えていたと思います。

鹿児島は、前節秋田戦でリトリートした守備からボールを奪うと、5レーンを有効に使いながらCHやCBも前方スペースへと飛び出していく攻撃を展開。決定力不足に泣きましたが、多くのチャンスをつくっていました。

J2第19節 鹿児島の攻撃に対する岡山の守備

そんな攻撃をみせていた鹿児島に対して、基本の守備陣形が5-4-1のリトリートまたはミドルブロックの岡山は、最終ラインのプレーヤーを各レーンに配置できる点で、5レーンを使いたい鹿児島とは相性がよかったといえます。
そして最終ライン間のスペースを普段以上に両CH、両SHが細かく消していた点も効果的で、鹿児島に秋田戦のような前進を許していませんでした。

そこで鹿児島は、岡山の保持に対抗してハイプレスを敢行、少々予想外の動きに見えましたが、おそらくこの戦法には岡山の攻撃に対してのリスペクトがあったと推測します。

比較的、ボール運びのパターンが固定化されている秋田とは異なり、前方でカオスをつくろうとする岡山の攻撃とを比較した時に、仮にリトリートしても失点のリスクは効果的に低減はしないと鹿児島はみたのかもしれません。

それよりは、休まず前プレを続けることで岡山の自陣でのファールやミスを誘発し、セットプレーやショートカウンターに繋げようという意図を感じました。

お互いに最近の試合をしっかりスカウティングしていた跡がみえました。

筆者が個人的に注目したのは、鹿児島(21)田中渉のRSHでの起用でした。(21)田中がサイドに開いた際、対峙するのはLCB(43)鈴木になりそうなのですが、お互い左利きのため、(43)鈴木が対応した場合、どうしても(21)田中の前線へのクロスやパスを防ぎにくくなります。
そこで岡山はこの(21)田中の対応をLWB(17)末吉塁や(19)岩渕に任せることになるのですが、この守備対応により(43)鈴木の立ち位置を後方に下げさせていたようにみえました。つまり、鹿児島にその意図があったのかはわかりませんが、(43)鈴木の攻撃的特長「喜丈ロール」を出しにくい状況が生まれていたようにみえました。

最も、この試合での(43)鈴木の試合勘はまだ戻っているようには見えず、何度か発動した「喜丈ロール」も味方との呼吸はさほど合ってはいませんでした。そういう意味では、この(21)田中の起用法は試合全体の大きな論点にはならないのかもしれませんが、個人的には非常に面白い配置でした。寧ろ、彼が中に絞ることによる味方ボランチへのサポートは鹿児島の前プレを剥がしてCH(24)藤田息吹らに前進した岡山に対するプレッシャーとしても有効であったと思います。

(2)ブローダーセンのミスから考える

先に失点に触れたいと思います。
55分、鹿児島先制のシーンです。

ボールを持つ(49)ブローダーセンに対して、CH(7)竹内涼らは右サイドにボールを出すよう指示を出します。
右のタッチライン際RCB(4)阿部海大へのパスコースもありましたし、そこを鹿児島に狙われそうな予感があったとしても近くには(5)柳育崇もいました。鹿児島のOMF(34)鈴木翔太や(9)ンドカの立ち位置をみても、あえてボールを最も奪われそうなリスクがある(7)竹内へパスをつけようとする必要は全くなかったといえます。

それを敢えてつけようとしてしまったのは、あまりにも繋ぐ意識が高すぎたことによるものと推察します。
おそらくFW(9)グレイソンがいたなら(9)グレイソンに蹴っていたと思います。つまり彼の戦線離脱によって、岡山がボールを繋ぐ方向へのサッカーにシフトしているからこそ起こってしまったミスともいえるのです。
それでも不可解なプレーではあったのですが、この試合前半から岡山は何度も決定機を迎えながら得点を奪えていませんでした。そんな焦りがよりゴールに近い縦方向ながら、最もリスクが高い方向へのキックになってしまったのだと推測します。この前後の時間帯は、岡山も鹿児島も運動量が落ち、変な間が出来ていました。このような集中力が途切れそうなタイミングであったことも影響していたと思います。

しかしながら、(49)ブローダーセンには派手なビッグセーブのみではなく、細かい動き直しによる正確なポジションニングや、その安心感が味方に及ぼす影響、そしてその威圧感から相手のショットミスを誘発させるなど、目に見えない部分も含めて岡山の失点減に大きく貢献してくれています。
今シーズンの大きなミスはこれが最後という気持ちで、また頑張ってもらいたいです。

今の岡山の状況は昨シーズン、前線で全くボールが収まらず、3バックに変更、繋ぎのサッカーを導入した頃と少々似ています。
あの時は(5)柳(育)が不慣れなビルドアップに苦戦していましたが、今は(49)ブローダーセンがその立場にあるのかもしれません。

しかし、昨シーズンと比べますとメンバーは多少変わりましたが、苦労して繋ぎに取り組んできた上積みは随所で感じますし、この試合の(49)ブローダーセンは失点シーン以外でのビルドアップに関しては比較的安定していたと思います。

今の岡山が大きくやり方を変える必要まではないと筆者は感じます。

(3)スペースへのこだわりとミドルシュート

前述したとおり岡山は「自ら試合を難しくして」しまった訳ですが、その原因は前半の決定機逸、つまりシュートの質の問題もさることながら、ラストパスが繋がらないことにもあったと思います。

一方で(19)岩渕の同点ゴールは(10)田中からのショートパスによるもので、鹿児島最終ライン裏のスペースを突く完璧なラストパスでした。

今シーズンの(10)田中のゴールはボックス手前からの豪快なミドルシュートの印象も強く、自身で持ち運んでシュートを撃ってもおかしくない場面でしたが、そんな場面で味方へのパスが選択できるというのは、まさに日々のチーム練習の賜物と思うのです。

つまり、岡山はチームとして相手ボックス内を最後まで崩し切るサッカーにこだわっていると考えてよいと思います。
元々、木山監督就任時に出されたコンセプトの一つに「ニアゾーンの攻略」がありました。最近はあまり言われなくなりましたが、(9)グレイソン離脱後の数試合を観ますと、再びここにこだわり始めたような印象も持っています。
もちろんハマれば仙台戦のような大量得点も期待できる訳ですが、ボックス内を最後まで崩すというのは、それだけパスを繋ぐということであり、当たり前ですが、パスを繋ぐ回数は増えれば増えるほど、ボールロストの可能性も高くなります。

そこでパスサッカーを指向するチームは足元の技術に定評がある選手を集めてパス成功の可能性を高める訳ですが、果たして今の岡山はそのようなメンバーで構成されているのでしょうか。

巧い選手もいますが、他ライバルクラブと比べると足元の技術よりは、強さやスピードに秀でた選手が多いといえます。
つまり、(現在)取り組んでいるサッカーとメンバーに若干のミスマッチが生じているように思うのです。

その分、パスミスが多くなり、決定機を逃す場面も多くなる、そして試合が苦しくなるという関係性があるのかもしれません。

筆者はチームが一生懸命に取り組んでいるサッカーを否定はしません。ひとつのサッカー哲学でもあると思いますし、いわゆる「個の成長」にも繋がる取り組みです。(19)岩渕の同点ゴールのような崩しが増えることを全力で願いたいと思います。

しかし、最後まで崩し切ることにこだわるのは良いのですが、数人の選手からは自身で撃てそうな状況でも無理に前方のスペースへパスを出そうとしてロストしていた場面もあり、もう少々融通が効かないものかと思いました。

そういう意味では、前半の(19)岩渕や(39)早川のミドルシュートには、ある意味これまでの「岡山らしくない」良さが詰まっており、当分攻撃面は彼らのクオリティ、アイデアに頼ることになりそうです。
(4)阿部の積極的な持ち上がりも良かったと思います。目はゴールを視ていました。彼のプレーからもゴールへの主体性が感じられました。

10.田中から19岩渕へのパス

3.まとめ

という訳で簡単でしたが、鹿児島戦を振り返りました。
元を辿ると(9)グレイソン不在の影響が実は攻守とも色濃く出た一戦であったとまとめられます。(9)グレイソン不在後の代わりの形は、この鹿児島戦に限らず第2クール後半戦で見えてはきました。
しかし、その精度をアップするのは簡単でもない、しかし悲観するべきでもないという感想が残りました。

この第2クール、岡山は勝敗に関わらず先制を許した試合が圧倒的に多く、全くもって盤石には戦えていなかったのですが、これは負傷者だけの問題ではなく、今回のレビューで述べましたチームの構造上の問題に起因すると考えます。決定力アップに向けて、まず前半で得点を奪えるかがシーズン後半戦の大きな課題になると考えます。先制点を奪うには、パスの出し手と受け手の呼吸やボール1個分の精度にもっとこだわる必要があります。
勝負の神は細部に宿るのです。

最後に論点の追加です。
同点に追いついてからの岡山に勝ち越しのエネルギーが残っていなかったように見えた点も気になりました。
前述しましたように鹿児島が無理をしなかった、湿度90%の環境下で体力を消耗したといった面もありましたが、(99)ルカオを途中起用出来ない点が影響しています。(99)ルカオの頑張りをリスペクトはしていますが、多くのサポーターが述べられているとおり(9)グレイソンに代わるスタメンクラスのCFの補強は必須で、理想としては(99)ルカオを切り札として起用したいものです。

4.雑談~今の立ち位置~

雑談にしては重たい内容かもしれませんが、あえて雑談として整理します。
現在の岡山の立ち位置の確認です。
今節の鹿児島戦が終わり、シーズン前半戦の1試合平均勝点は1.63。
自動昇格の目安とされる平均勝点2.00にもまだ到達できる状況にはありますが、現在の1・2位清水、長崎の平均勝点が既に2.00を突破しており、3位横浜FCも2.00に近い1.94をマーク。この3チームがこれからの後半戦で相当な失速でもしない限りは自動昇格圏のボーダーは2.00よりも大きく上がると思われます。
2.00では足りないのです。

4位仙台~8位いわきまでは平均勝点が1.73~1.42、他の年であれば後半の頑張り次第では自動昇格も狙えているペースの5チームまでがプレーオフ圏内とみます。

これは偶然ではなく、今シーズンはJ1から降格してきたのが横浜FCのみであったことから昇格のチャンスと捉えている、そして岡山同様に資本に限りがあるクラブについてはこの1~2年が当面の昇格のラストチャンスと踏まえていることから、意欲的な強化を行ったクラブが増加し(岡山もそのうちの一つ)、競争が激化したからと考えられます。

岡山としては、現状プレーオフも視野に入れた戦いぶりが必要になってきますが、その際に必要なのが終盤戦での勢い、つまり連勝や負けなし記録です。岡山の終盤の勢いで記憶に残るのが2021シーズン、ミッチェル・デュークや石毛秀樹らの補強が大当たりした年でした。
予算上、複数人というのは難しいかもしれませんが、この夏のマーケットは大きな勝負になると思います。そして人件費を少しでも補填するためにも、入場料収入のアップ、「晴れの日」の開催は必須なのです。

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

※敬称略

【自己紹介】雉球応援人(きじたまおうえんびと)

地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。

JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。

レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。

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