バイアスマネジメントが、イノベーションの鍵になる。激変の時代に生き残る企業とは|株式会社うるる
「フェアな労働市場をつくる」をミッションに掲げるXTalentは、DEI向上を目指す企業を対象としたアンコンシャス・バイアストレーニング(以下、UBT)を提供しています。
様々な企業のDEIの在り方にフォーカスし、広く社会に発信することを目的にした「#DEIのカタチ」シリーズとして、UBTを受講した株式会社うるる 執行役員CHRO 兼 人事部長 秋元 優喜氏と人事部 野里 彩氏に、受講の決め手やその効果、うるる様が目指すDEIについて、お話を伺いました。
うるる社は2001年の創業。当時は働きたくても待機児童問題などが理由で、外に働きに出られない女性も多かったのですが、その頃普及しはじめたインターネットを活用すれば家でも仕事ができるという観点から、在宅ワークのスタンダード化を目指し事業を立ち上げました。
そして、在宅ワーカーに仕事を依頼したい企業と、在宅ワークを求める方をマッチングする仕組みである「シュフティ」は現在、登録者数約45万人(2022年9月末時点)を抱える大規模ネットワークに成長。働く機会のなかった方々が活躍することで、ワーカーさんの人のチカラを活用し、IT × 人のチカラで、今までにない新たな価値をもった事業を複数生み出しており、事業自体がダイバーシティを体現していると言えるでしょう。
イノベーションの源泉。
それこそが経験や認知、価値観のダイバーシティ
ーー約20年前から、性別に関わらず、その人に合った働き方で活躍できる新しいサービスを提供されてきています。うるる様にとってDEIとは、どのような位置づけでしょうか。
秋元:「労働力不足を解決したい」という想いでうるるを創業し、以来、「IT」と「人のチカラ」を組み合わせた事業で、新たな価値を生み出してきました。「在宅ワークのスタンダード化」を最初に掲げたのも、在宅なら働ける方々が活躍できる仕組みを作れば、日本の一番大きな課題である「労働力不足解決」に繋がると考えたからです。
ですが、社会環境の変化を受け、労働力不足の解決に向けた他の事業として、IT技術だけを活用したDX事業等の新規事業にも取り組もうと、2022年4月にビジョンを刷新し、それに伴い経営戦略もアップデートしました。
従来と異なる観点で新規事業を成長拡大させるには、イノベーションが必要不可欠です。その源泉となるのがダイバーシティだと考えています。同質性の高い人材しかいない集団は、どうしても似た発想になりがちで、大きな変革は起こせないように思うんです。経験や認知、価値観の異なる人の集まりだからこそ、よい意味で科学反応が起きてイノベーションが生まれる。だからこそ、多種多様な人が自然に存在する組織にしたいと考えており、DEIは経営における最優先事項だと考えています。
ーー多彩な個性をもつ人材を取り入れたり、イノベーションを起こすという視点では、M&Aについても積極的に取り組んでおられるとお聞きしました。M&Aについてどのようなお考えをお持ちか教えてください。
秋元:新たな経営戦略ではM&Aも推進しています。異なるバックグラウンドをもつ方々がグループへ入ることで、お互いのカルチャーを融合させ新たな強みへと進化していくことを期待しています。組織を行き来できる人材交流も実施していますし、これからも違いを尊重し、ないものを学び合って成長していきたいですね。
M&Aを行ったのはまだ2社のみですが、AI系スタートアップ企業にも少額出資しています。私たちはAIに取り組み始めたばかりなので、その企業でAIを学ぶ学生の方々をインターンとして受け入れ、反対に私たちからはマネジメントや事業拡大のノウハウを提供する。お互いの強みを活かして成長し合える関係を築いています。M&Aではシナジーも大切ですが、私たちにない強みを持っているかどうかも重視しています。
ナレッジだけでなく
体験と実践があるから身に付いていく
ーー過去にアンコンシャスバイアスに関する研修をされたとお聞きしました。今回UBTの受講を決められたのは、特に、どのような理由でしょうか。
秋元:2021年11月に初めて、私が講師になりアンコンシャスバイアス研修を実施しました。やはりゼロからつくるのは大変で、2回目は他社に依頼しました。今回は3回目ですね。
野里:今回UBTの受講を決めたのは、「ナレッジ」の要素と「体験・実践」の要素がセットであることが魅力的だったためです。加えて、自分自身のバイアスチェックやアンケートなどで、個人や組織の状態認識を先にできる点もよかったです。
うるるは「会社はホーム、社員はファミリー」という、「うるるスピリット」に表現されているとおり、社員同士の思いやりや気づかい、コミュニケーションの活発さが組織の特徴の一つだと思います。この特徴を「誰もが多様性を活かして、イキイキ働けている状態」と結びつけてしまう傾向は少なからずあると思うんです。
だからこそ、ファクトベースで組織状態をあらためて確認した上で受講した方が実りのある時間になると考えました。
さらに自分の中で咀嚼して終わりではなく、他者との対話やワークショップを通じてアウトプットでき、お互いにすり合せる実践を通して、「あぁ、これがダイバーシティマネジメントの難しさだ。そして、これが自分のバイアスだったんだ」と体感できるのではないかと思い、実施を決めました。
今回は役員・管理職層が対象でした。人的資本の開示もあり、HR領域を経営戦略に盛り込むことが求められていくなか、うるるにおいては「人事業務」の域を出ていないと感じていて、経営戦略に練り込んでいくのが難しいという危機感があったんです。だから経営戦略を編む側の経営層と、現場とのハブになっている上位職者たちのナレッジ向上、理解浸透が急務と思ったこともUBT受講の決め手になりました。講義の中身も、自社に合うように相談できるのがとても魅力的でしたね。会社に寄り添った研修スタイルだなと。
ーー研修後、受講された方々の反応は、どのようなものでしたか?
野里:他者に対するバイアスだけでなく、自分に対する認知のバイアスも棚卸しできたという方々が多かったと捉えています。「他者を思いやる」「もともと人が好き」という方がうるるには多いので、他者のためになるならと、吸収度合いは高かったのではないでしょうか。
実際にアンケートでは想像以上によいコメントが集まって、概ね好評で安心しました。例えば「アンコンシャスバイアスは取り除けないものだから、向き合い、認識するものだ」と書いてくれた方がいて。研修を繰り返し実施し、バイアスとの向き合い方について少しずつ理解を浸透させていきたいです。
個人的にも思考の癖と向き合えたのは、すごくいい経験でした。相手になりきって考えながら対話するというワークショップがあったのですが、やはり普段思考し慣れていない考えを深めるのは難しいなと。対話とは何かを改めて考え直し、社会人になりたての頃に「対話とは自分が話すことではなくて相手の話を聴くことだ」と叱られた経験を思い出しました。私は人事という仕事柄、従業員への説明の機会が多いので、「説明が説得になっていないか?」と振り返ることができました。まず相手の話をしっかり聴く。そして違いを恐れないことが重要だと実感しましたね。
バイアスに自覚的になることが、
心理的安全性の高いリーダーシップの発揮に
つながる
ーー研修後に、皆さんの普段の様子で変化を感じられたことはありますか。
秋元:普段の会話の中で「それアンコンシャスバイアスだよ」というのをよく聞くようになりました。役員も従業員も。言葉にでるというのは、意識していたり興味があるからであって、とても嬉しい変化だと思います。アンコンシャスバイアスとは別の話にはなりますが、これまで様々な人事制度を導入してきた経験から私の個人的な浸透の目安は、新たにつくった定義や言葉を自然に皆が使うかどうかなんです。そういう意味では、浸透のよい兆しですね。
野里:風土醸成に時間はかかると思いますが、経営層、管理職者に「共感」ベースで浸透していくと、水滴から波紋が広がるように大きく動き出すのではと感じています。
以前、調査をした際に「仕事において、自分の強みを活かしたいという欲求は強いけれど、満たされていない」というような、本人の意思と会社の間にある、関係値の大きなギャップに気づいたんです。
また、別の調査や今回のアンケートからは「心理的安全性」が低いという課題を発見しました。
本人が自身の強みを活かして活躍したいという意思を伝えるとしたら、「自分の意思を否定せず聴いてもらえる」という心理的安全性は非常に重要だと私は思っているんですね。
そういう意味では経営層が自身のバイアスマネジメントを行うことは重要だと思いますし、ボトムアップの視点でも、社員が希望や意見を素直に言える状態が望ましいです。
心理的安全性は対話の中で形成されるので、まずは経営層や管理職を対象に、繰り返し研修やトレーニングをしていくことが重要だと思っています。
形だけの多様性が存在する組織の域を出るには、
バイアスマネジメントがキーになる
ーー最後にDEIを推進されているお立場から、その重要性や今後の展望についてお聞かせください。
秋元:私自身、経営環境が今とてつもないスピードで大きく変化している実感があります。その中で、企業が生き残るすべとしては新規事業やイノベーションを起こしていくことが経営戦略上の重要な課題だと考えています。繰り返しになりますが、イノベーションを起こすのに必要なのは、多様性が重要であることの理解とインクルーシブな行動です。ただ一足飛びにイノベーションだ、新しい人を受け入れよう、と言っても難しい。まずは違いを受け入れて、自分にも無意識の先入観や思い込みがあることを理解しないと、形だけ多様性が存在する組織の域を出ず、実際に多様性がポジティブに作用し、多様な人が活躍できる組織からは程遠くなってしまうと思います。
そういった意味で、バイアスマネジメントは、イノベーションを起こす土壌として必ずインストールした方がいいと考えています。この数年ダイバーシティが先行気味ですが、一歩手前にバイアスマネジメントがあるのではないかと。やはりUBTのような研修を通して、その点を企業が認識していないと、せっかくのダイバーシティが存在しうるだけで、有効に機能しなくなってしまう気がしますね。
ーー今後はどのような取り組みを予定されていますか。
秋元:まずはバイアスというものを、深く「知る」ことが先決だと考えます。知った先に「気づき」があり、どう「行動を変える」か。今回のUBTで、自分の行動を変えるところまで行き着くことができましたので、次は管理職以外のメンバーにも実施したいですね。そして地道に「知る」「気づく」「行動を変える」を繰り返す。本当に浸透するには一定期間(数年)かかると思いますが、いずれバイアスマネジメントが浸透して、男性の育休取得や女性の管理職就任などが加速する組織にしていきたいですね。
野里:繰り返し研修を実施することは経営や人事が、どんな人も一人ひとりが最大限に活躍できる環境づくりを重視しているという意思表示にもなります。私自身は担当者として、より有用な研修方法を専門家に相談しながら、多様な個人の活躍のために取り組んでいきたいと思っています。
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ーSTAFFー
企画:筒井 八恵(XTalent株式会社)
取材・執筆:新川 五月
撮影:森田 純典