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生い立ちの記

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#小説

【生い立ちの記】17 家業

【生い立ちの記】17 家業

17

母方の家の仕事は
お世辞にも上手くいっていたとは言い難い

時代に逆行したような職種で
仕事が入ると
関係書類をまとめてクリップに挟み
天井から張った紐に吊るしていたが
少しずつ少しずつ数は減っていった

子どもながらにその数が少ないと不安になった

それでも
私は相変わらず私立の小学校に通っていたし
衣食住に困ることは無かった

【生い立ちの記】16 母方の祖父母

【生い立ちの記】16 母方の祖父母

16

母方の祖父は
一応自営業の社長だったが
あんまり仕事をしている所は記憶にない
ほぼ引退していたような形で
小さな居間でずっとテレビを見ていた

母方の祖母は
社交的で地域の活動にも積極的
じっとしているのが嫌いで
仕事をし、家事をし、一日中何かしら動き回っていた
本を読むのが好きな人で
家には必ず図書館で借りた本があった
歳の割に若々しく
兄と私の母親代わりだった

【生い立ちの記】15 父

【生い立ちの記】15 父

15

父は物静かな人だった
声を荒げることも無ければ
はしゃいだりすることも無かった

スープの冷めない距離にある義両親の家に通勤し
、仕事をして
昼の休憩時間には家に戻り、自宅で実母と昼食を取り
また仕事に行き、夕方には仕事を終え戻ってくる
家に帰れば実母の愚痴や悪口の相手

父のストレス発散は煙草とパチンコ

【生い立ちの記】14 祖母

【生い立ちの記】14 祖母

14

小学生ともなると
案外周囲の大人について
鋭く観察するようになる

父方の祖父は
母が亡くなって少しして亡くなった
あまり記憶に残っていない

父方の祖母は
保守的で外面は良いが
家の中では色んな人の悪口を言っていた

「女は家で大人しくしているべき」という考えで
私が友達と外で遊ぶことを良く思っていなかった

祖母自身、
親しく付き合っている友人も居らず
ただ家事をするだけの生活

悪口

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【生い立ちの記】13 フツー

【生い立ちの記】13 フツー

13

形だけの受験はあったものの
順調に系列の小学校へ進学し
フツーの日々を送っていた

特に優秀だった訳でも
落ちこぼれだった訳でもない

一目置かれる人気者でも
我が道をいく問題児でもない

フツーの
その他大勢の生徒

それが私には心地よかった
平々凡々と安寧に時を過ごしたかった

【生い立ちの記】12 戸惑い

【生い立ちの記】12 戸惑い

12

幼稚園生活は楽しかったと思う
たまたま家が近所だったアユという友達も出来た

ただ
母の日に
おかあさんにあげる絵を描くとか
運動会の親子競技で
友達の殆どがおかあさんと出場する中、
自分は父と出場とか

そういう場面で
戸惑いがあったことは
覚えている

【生い立ちの記】11 入園

【生い立ちの記】11 入園

11

しばらくして私は幼稚園に入園した

そこは私立の幼小中高一貫校
母方の親戚が通っていた学校でもあり
母方の家の意向が働いたのだと思う

兄も引っ越し後すぐ
同じ幼稚園に転園していたが
小学校は近くの公立に進学した

一貫校は
中学から女子校ということもあって
小学校も男子が圧倒的に少ない
同性の友達が少ないのは可哀想
という理由だったらしい

【生い立ちの記】10 死

【生い立ちの記】10 死

10

幼過ぎて
人が死ぬということの意味は分からなかった

ただ突然母が居なくなったことと
新しい生活が始まったことは分かった

あの時の私は
寂しいとか、悲しいとか、
感じていたのだろうか
もう覚えていない

ただ、夜が怖くて
寝るまで父に手を繋いでいて貰ったことは
覚えている

【生い立ちの記】9 歪な家族

【生い立ちの記】9 歪な家族

9

細かい話は良く知らない

だけど
金銭的な援助を含めた諸々の援助の名の下に
母を亡くした我が家は
母方の祖父母の家の近くに引っ越した

別の所に住んでいた父方の祖父母も
同じタイミングで引っ越し、父と同居

父方の祖父母と父が住む家
母方の祖父母が住む家
スープの冷めない距離

その二つの家を
兄と私は
行ったり来たりして過ごすことになった

父はそれまでの仕事を辞め
自営業を営む母方の家の

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【生い立ちの記】8 跡継ぎ

【生い立ちの記】8 跡継ぎ

8

母は一人っ子だった

母が亡くなった今
母方の家の血を引き、名を継げる者は
兄と私だけ

父にはきょうだいが居たらしいが
若くして亡くなったらしい
つまり父も一人っ子状態

名家でも
継ぐべき立派な家業があるわけでもない

それでも母方の祖父母は、私に目を付けたらしい

本音を言えば兄が良かったのだろうけど
兄は父方の家を継ぐ長男な訳で…

とにかく
ゆくゆくは私を母方の家の養子にし
婿を取

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【生い立ちの記】7 母のお葬式

【生い立ちの記】7 母のお葬式

7

母のお葬式の記憶は少しだけ残っている

私は兄と葬儀場でたくさん遊んだ

色んな大人が集まっていて
なんだかお祭りみたいで楽しかった

沢山の人が
優しく、時に泣きながら声をかけてくれる

ただ
「おかあさんの分まで頑張って」
という言葉は
子どもながらに
不思議で
重たくて
苦しかった

【生い立ちの記】6 母の死

【生い立ちの記】6 母の死

6

そこから先の記憶は残っていない

聞いた話によると
結局
兄が祖父母に電話をかけて助けを呼んだらしい

母は病院に運ばれた

そして

亡くなった

脳梗塞だった

【生い立ちの記】5 電話

【生い立ちの記】5 電話

5

子ども心に
これは只事ではないと感じていた

兄が
「電話をかけて助けを呼ぼう」と言った

私は…

それを止めた

いつも
電話は子どもだけで勝手に使ってはいけない
と言われていたから

この行動が
色んな人の運命を変えた

そして
私は今でもこの行動を悔やんでいる

きっと死ぬまで悔やみ続ける

【生い立ちの記】4 音

【生い立ちの記】4 音

4

聞こえていた大きな音の正体
それは母が壁にぶつかる音だった

フラフラと
色んなところに勢いよくぶつかりながら
兄と私には目もくれず
トイレへと向かう母

いつもと違う母の様子に
私は怖くなって寝転がった
ひたすら天井を見ていた

やがて音が止み
母の苦しそうな声が聞こえてきた