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【経営学21】エージェンシー問題(ミクロ経済学分野)

【Co-WARCサイトオープン】

WARCに所属している公認会計士・税理士の皆さんで組織された会計コンサルチームであるCo-WARC(コワーク)のサービスサイトがオープンしました。
是非御覧ください。


はじめに

このnoteの読者の皆様の中で、スポーツ系の部活動出身者の方いらっしゃいますか?

武道を筆頭に、スポーツ系の部活動では先輩後輩関係がかなり厳格で、面倒な自主ルールがたくさんあります🙄
20m先でも先輩を見つけたら大声を出して挨拶をし、90度で頭を下げたまますれ違うまで待機しないといけないとか。
私はそういうのが嫌で途中から帰宅部になったんですけど、10年以上武道を続けてきた同級生たちはそりゃもう礼儀正しく育ちました。

そんなスポーツ系部活動では、私の世代では以下のようなことが日常的に発生しておりました。

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※実在の人物とは一切関係ございませんw

先輩のいうことは絶対なので、買いに行きます。

もちろん、良い先輩と悪い先輩がいますので、良い先輩はここでお金を予め渡してくれます。
今回は良い先輩だったので、1000円渡してくれたとしましょう!

さぁ、上記のゴリラはしっかりとお使いできるのか?

今日はそんな場面で問題となる理論をご紹介しましょう😎

キーワードは「エージェンシー問題」です。

かっこいいでしょう😏


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1.エージェンシー問題とは

エージェンシー問題は、正式名称でいうと「プリンシパル・エージェント問題(理論)」(Principal–Agent Problem)といいます。
ただ、一般的には「エージェンシー問題」と短く呼称されることが多いです。
ミクロ経済学で議論されている論点で、非常に面白い領域です😍

プリンシパルとは、本人・依頼人という意味です。
エージェントは、代理人という意味です。

つまり、エージェンシー問題とは、本人(依頼人)と代理人との関係で発生する利害対立問題のことをいいます😁

どのような問題かというと、代理人が依頼人からの依頼の趣旨どおりに動かずに、信頼関係を破壊するような行為(自己の利益を優先した行為)に出るかも知れない問題です🙄

以下、ちょっと具体例で見てみましょう!


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2.エージェンシー問題の例

先程の焼きそばパン事例を思い出してください。

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このゴリラは、先輩に焼きそばパンを買ってこいと依頼(命令)され、今1,000円を預かっています。

したがって、先輩が依頼人(プリンシパル)で、ゴリラが代理人(エージェント)です。

委任業務は、先輩の1,000円を使って焼きそばパンを買ってくることです。

そして今回はちょっとお高めの高級焼きそばパンを買ってくるお使いだったとします。

超簡単なお使いです。
これでミスるわけがない🙄
そんなのゴリラだってできる!
高級焼きそばパン買ってくればいいだけです!


でも、ちょっとアクシデントがあったのです。

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全く同じ高級焼きそばパンなのに、A店とB店で値段が違ったのです!
B店がたまたま開店セールだったからです。

ここでゴリラは思いました🤔

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日頃先輩からこき使われ、あれやこれやとお使いに行かされ、たまに貸しているお金も返ってこず、買ったばかりのゲームも借りパクされている。
そんな日々の鬱憤で少しだけ魔が差したのです。

その結果、このゴリラは、わずか250円をネコババする気です😑


依頼人(先輩)としては、通常このような場面では、250円の焼きそばパンを買ってきてもらい、かつ、750円のお釣りをもらいたいわけです。
それが依頼人にとっては最大利益となりますから。

一方で、代理人(ゴリラ)にとっては、大きく分けて3つの選択肢があります。

(1)500円の焼きそばパンを買って500円返す
(2)250円の焼きそばパンを買って750円返す
(3)250円の焼きそばパンを買って500円返す(250円はもらう)

この中で、依頼人のためになるのは前述のとおり(2)です。
でも、代理人にとっては(1)と(2)は正直、どっちでもいいです。

一方で(3)に関しては250円の利益が出ます🙄

誠実かつ真面目な代理人としては、(2)を選ぶべきではありますが、日頃からよく思っていない先輩であれば、(1)か(3)が候補に挙がってきますよね!
そして、自己の利益を最大化するのであれば、迷うこと無く(3)ですよね😑

これがエージェンシー問題です。
代理人が依頼人の利益に反して、自己の利益を優先した行動に出てしまうかもしれないのです🙄
これをどう解決する?という論点を検討をしていく学問領域です😁

では、エージェンシー問題がなぜ発生するのかから学んでいきましょう!


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3.エージェンシー問題の発生原因

エージェンシー問題の発生原因は、情報の非対称性にあると考えられています😁

読者の皆様にとってはお馴染みの「情報の非対称性」ですが、初めて聞いたという方は以下の記事をお読みください。

情報の非対称性とは、簡単にいうと、当事者間で情報格差がある状態のことをいいます。

上記の例でいうと、A店とB店の値段格差に関する情報は、ゴリラのみが持っています
そして、依頼人である先輩はまだ何も知りません。
このような状況では、ゴリラがこっそり250円ネコババしてもバレにくいといえます😏

後々たまたまB店のセール情報を先輩が知ったなどの事情がない限り、ゴリラが250円をもらっても気づかれないでしょう。
だからこそ、ゴリラは自分の利益を優先するかどうか悩んだのです😑

このような問題は、日常的に発生します。

代表的なものでいうと、株主と経営者の関係です。
株主は、自分のお金を出資して、経営者に経営を任せます。
したがって、株主は依頼人です。

一方で、株主から委任されて経営を担っている経営者は代理人です。

このとき、株主の意向に完全に沿うように経営者が経営を行ってくれるとは限らないですよね🙄
これもエージェンシー問題です。


その他、上司と部下、親と子ども、友人同士などでもエージェンシー問題はいつでも発生し得る問題です。
かなり身近な経済学と言えます。

では、どうすればエージェンシー問題を防止できるのでしょうか。


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4.エージェンシー問題の防止策

この点については、主に3つのやり方があると考えられています。
それが以下の3つです。

(1)監視(モニタリング)
(2)インセンティブ
(3)ペナルティ

明日使いたくなるような格好良い横文字が並んでいますね😍

一つずつ説明しましょう!
なお、これらの防止策は企業内の組織戦略、ビジネスモデル戦略においても極めて重要な考え方になりますので、気合を入れて読み進めていただければと思います👍


(1)監視(モニタリング)

最も効果的だと思われる方法は、監視(モニタリング)システムを導入することです。
この方法はいたる所で見つけることができます。

例えば、コンビニの監視カメラが挙げられます。
コンビニの監視カメラは、店内を撮影することで万引等を防止するために設置されると思われがちですが、実はそれだけが目的で設置しているのではありません。
実は、被害額としてはアルバイトの万引等の方が多いケースがあるのです😨

とある県の治安の悪い地域では、アルバイトがレジのお金を盗む、商品を盗む、友人を介してレジで精算をしたかのように見せかけて盗ませるなどが横行します。
常に酷い状態で、毎日1万円近い商品が無くなるし、レジの精算も毎回ズレます。

これは、典型的なエージェンシー問題です😨
オーナーの代わりに店番をする代理人たるアルバイトが、依頼主(オーナー)の利益を犠牲にして、自分の利益を確保しているから起こる現象です。

これを防止するためには、情報の非対称性をなくせば良いのです。
オーナー(依頼人)にとっては、アルバイトが日頃どのような働きをしているかわからないという点に情報の非対称性があるので、「レジのアルバイトスタッフを全員監視できるような位置に監視カメラを設置する」のです。
これで情報の非対称性をある程度無くすことができます。
今度コンビニに行ったときに見てみてください😏
カメラが誰を狙っているかよく分かると思います。
それによって、治安の良さや悪さがある程度推測できます。

また、我々が日頃働く株式会社でいうと「監査役」もモニタリング制度の一種です。
株主の代わりに経営陣を監視する役割です。
でも、この監査役を探すのが大変なんですよ🙄
監査役報酬というコストもかかります。

このように、エージェンシー問題を防止するためのコストを「エージェンシーコスト」といいます。
上記の例でいえば、監視カメラのお金、セッティング費用、動画保存コスト、監査役を探すコスト、採用コスト、人件費などが挙げられます。

モニタリングは比較的簡易に導入できる制度で効果は抜群なのですが、如何せんコストが嵩む点に問題があります。

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(2)インセンティブ

そこで最近は、インセンティブ設計で何とかエージェンシー問題を防止できないか?という議論が活発に行われています。

インセンティブは何度も連載で出てきているのですでにご存知の方も多いと思います😁
初めて聞いたぜという人は過去記事をどうぞ!

インセンティブとは、人を行動に駆り立てる刺激・誘因と考えてください😁

依頼主と代理人で同じインセンティブを持てるように、制度を設計しましょうという考え方です。
これが意外と難しいのです🤔

株式会社で実際に行われているインセンティブ設計だと、ストックオプションが挙げられます。
これは、会社(経営者)と従業員との間のエージェンシー問題を防止するための対策です。

代理人たる従業員が、依頼人である会社(経営者)の利益を犠牲にして横領をしたり、サボったりしないように、同じ方向を向いて頑張れるようにしようという制度です。

会社の利益は会社の業績が上がって、会社の価値が上がることです。
そして、会社の価値とは、株式の価値と言い換えることができます。

そうすると、ストックオプションをもらっている従業員にとっては、会社の業績が上がって会社の価値が上がった方が得しますよね😁
だからこそ、従業員も会社の価値を上げるために頑張ってくれるはずだと考えるのです。
会社と従業員の利益が同じなので、同じ方向を向いて、同じ利益のために共に努力できるはずだということです。

まぁそんなに上手く行かないですけどね🙄
なぜなら、経営者が得る利益に比べて、従業員のストックオプションなんてものは微々たるものだからです。
どんなに勢いのある会社でも、従業員がもらえる利益が1,000万円まで行くことは稀です。
一方で経営者(特に創業者)は通常、成功すると数億~数百億の利益を得ます。
そうなるとインセンティブの強さが全然違ってくるので、なかなかこの制度は上手く行きません。

やらないよりは全然良いですが、やっても劇的な効果は期待できないという程度の方法です。

他にもインセンティブ構造を利用して同じ方向を向いて努力できるようにしようという制度はありますが、私が知る限りエージェンシー問題を解決できるほどの方策はまだ見つかっていないと認識しています🤔
たぶん、完全に解決することは不可能です。

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(3)ペナルティ

最後に、ペナルティ(罰)を課すという方法があります。

依頼に反する行為を行ったら、何らかの罰を課す。
それによってエージェンシー問題を抑止するという考え方です。

法学出身の私からすると、この考え方は刑法的だなと思っています😁
刑法では、これ以上超えてはならないという認識を持っていながら、あえて行った「行為」を罰します。
これは行為無価値論の考え方ですが、この理論に踏み込むと刑法の闇が広がっているので、省略します(笑)

窃盗罪でいうと、人のものを盗んではいけないという規範(常識的ルールのようなもの)に直面しながら、それを踏み越えてあえて人のものを盗んだ場合に窃盗罪(刑法235条)が成立します。

これと同じで、依頼主との間のルールを破って依頼主に損害を与えたら、ペナルティを課しますよというやり方です😁
これはビジネスにおいてはよく用いられる方法です。

例えば、多くの契約書には、損害賠償条項違約金条項というものがあります。
これは、業務委託契約・請負契約・顧問契約・その他取引契約でよく見られる条項ですが、一種のペナルティ条項です。

ペナルティを課すことで、相手方がエージェンシー問題を引き起こすことを防止しているのです。
ペナルティを課されるリスクを冒してまで通常は悪いことしませんからね😁

これも比較的効果のある方法だと思います。
ただ、ペナルティ条項は抜け穴もあるので、エージェンシー問題が完全に解決されるというわけではありません。

あくまでもある程度の効果だけです。

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上記のとおり、エージェンシー問題を完全に解決する方法は今の所ありません。

ただ、根底にあるエージェンシー問題の本質がわかっていれば、多少は抑止することができると私は考えます。

そもそも、エージェンシー問題は、情報の非対称性が存在するがゆえに発生する論点です。
ということは、情報の非対称性を解消すれば、エージェンシー問題は起こり得ないわけです🤔
情報の非対称性を完全に解消する方法はこの世に存在しませんから、完全に問題を発生させないことはできません。

ただ、努力で何とかなる部分もあります。
日頃から情報をガンガン開示して、契約内容も明確にし、契約の趣旨をお互いに正確に理解していれば、それに反するような行為を通常はしません。
なぜなら、その違反行為によって得られる利益より大きな損失を生むとわかっているからです。
人間は「ある程度」合理的な動物です。
継続的な取引を前提とする場合、わざわざその長期的利益(信頼関係)を破壊してまで手に入れたいものなんて殆ど無いでしょう。

そして、仮にそれほど手に入れたいものがそこにあったのだとしたら、それはもう人生を賭けた大博打です。
犯罪に手を染めないといけないほどの大博打を打つ相手なら、どんな方策をとっても無駄なことです。
やるやつはどんなペナルティがあってもやる🙄!

それが人間というものだと思います。
かのモミアゲもこういっています。

俺はな、一度盗むって宣言したら殺されたって盗むぜ
(By Lupin the Third )


おわりに

今日はエージェンシー問題について簡単にですが解説させていただきました。

人が2人以上そこに存在すれば、そこにはもう組織が存在します。

そして、組織が存在する以上、いたる所でエージェンシー問題が発生します。
だからこそ、エージェンシー問題の本質や原因をよく理解しておきたいところです。
特にマネジメント層については必須の知識だと思います。

人は自分のインセンティブに流されるものです。
他人のインセンティブの方向を常々よく観察し、ズレている場合は修正するよう心がけましょう。

これは、組織の中のインセンティブにとどまらず、サービス・プロダクトのインセンティブも含まれます。
時々、インセンティブ設計を完全にミスっているなと感じるサービスも存在するので、プロジェクトマネージャーやプランナーはサービス設計をたまに見直して、インセンティブ構造が歪になっていないか確認すると良いかもしれません😁

急に売上が落ちたり、解約率が上がったりした場合は大抵インセンティブ設計に問題があります。
顧客がそのサービス等を「もう使いたくない」と思う何かがあったのです。
競合他社が優れたインセンティブを提供したかもしれませんし、自社のインセンティブに設計ミスがあるのかもしれない。

この辺りをしっかり分析して、ビジネスに活かすと良いかもしれません。
そう考えると、経済学って意外と使えますよね🤔
テキストに数式ばっかり書いてあって全然わからん論点多いですが、じっくりコトコト理解すると、意外と大事なことが書いてあります。
ということでこれからも学ぼうと思っております。
お付き合いいただけると幸いです。


では、また次回書きます🎵



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著者:瀧田 桜司(たきた はるかず)
役職:株式会社WARC 法務兼メディア編集長
専門:法学、経営学、心理学
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