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エッセイ全般

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#大人の童話

大人の童話 ひい爺さんの自慢

大人の童話 ひい爺さんの自慢

 今から半世紀先……未来の話です。
 時は、2070年。

 私のひ孫が、ヨーロッパのどこぞの国に留学していました。そこで歴史の授業を受けたあと、クラスメイトと雑談になりました。

 するとひ孫の友達が、ひ孫に言いました。

「俺のひいじいさんは、チェルノブイリ に勤めてたんだぜ」。

 ひ孫が、
「そりゃすげえや! でも、実は僕のひいおじいちゃんは、マスク2枚配布の報道を、リアルタイムで聞いて、

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エッセイ 蟻との戦い

エッセイ 蟻との戦い

 事件の発端は、可愛い可愛い、 AKI ちゃんが、大好きな、お饅頭を頬張りながら発した一言。

「せんせい……アリ……」

 目が悪い私が気づかなかったのですが、可愛い可愛い お饅頭が大好きなAKI ちゃんが指差す場所には、大量のアリの行列が……。

 原因は蜂蜜の瓶でした。
 蓋のところに蜂蜜が残っていたようで、それを見つけよったんですね…偵察部隊のアリが。

 報道によると、地道な探索によって

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大人の童話 神さまとの対話

大人の童話 神さまとの対話

 夢で、神さまと会った。

 信じてもらいたい。
この夢の話は、すべて本当の話である。

 私は、病室のベッドの上に、ほんの少しだけ上半身を持ち上げた状態で寝ていた。

 そのかたわら、枕元ではなく、ほぼ真横に、見知らぬ70歳近いであろう老人が立って、私を見下ろしていた。

 老人は、医者とはちょっと異なる、白い服を着ていて、宙に浮くでもなく、ごく普通にしっかりした足も二本生えていた。

 状

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大人の童話 ハンスの笛

大人の童話 ハンスの笛

大人の童話 【ハンスの笛】
                
          久保研二 著


 その商人には三人の息子がおりました。長男と次男は共に利口者で、父親から頼まれた用事を、いつも無難にそつなくこなしました。

 けれども末っ子のハンスだけは、お人好しなのですが、なぜか頭の回転がずいぶんとおそくて、いつも失敗ばかりを繰りかえすのでした。
 
 ハンスはそのたびに父親ががっかりす

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大人の童話 雨とチョウチョウ

大人の童話 雨とチョウチョウ


    
 【雨とチョウチョウ】
             久保研二 著
                 
   
 記録的な猛暑と言われる8月の朝は、寝坊をしたぶんだけすでに相当蒸し暑い。

 仏さんにお酒を供え、チャッカマンで線香に火を点ける。そのあと浴室に入り、カランをひねって水を出し、シャワーヘッドを持ったまま空の浴槽の淵に足をかけてよじ登って小窓を開け、裏庭のネギとプチトマトに向か

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エッセイ ロボット三原則

エッセイ ロボット三原則

【ロボット三原則】 久保研二

 人工知能によって意識や判断能力を持つ、いわゆる自律型ロボットに対して適用される「ロボット三原則」というものがある。
 マイコン機能がついていても、普通の洗濯機や掃除機は対象外だが、ルンバ(自動掃除機)や、アイボ(犬型ロボット)は該当するはずである。

 この「ロボット三原則」、もとは海外のSF作家がとなえた概念だったが、いかんせん時代が少々早すぎた。

 作家の

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大人の童話 黄昏ロボット 星 新一 風 文体なりきり ショート&ショート 第2弾

大人の童話 黄昏ロボット 星 新一 風 文体なりきり ショート&ショート 第2弾

【黄昏ロボット】
        久保研二 著

 相談室にやって来たのは、二十歳すぎの若い女性だった。応対したのは珍しくエス博士である。

 普段はエス博士が直々に客の話しを聞くことはないのだが、たまたまこの時間、いつもは相談室を担当しているワイ助手が隣町まで出掛けていて留守だったのだ。 エス博士が無理に依頼した用事のためだった。

 そんな時にわざわざ客が来なくても……と、エス博士は最初思っ

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大人の童話 夕暮れロボット 星 新一 風 文体なりきり ショート&ショート

大人の童話 夕暮れロボット 星 新一 風 文体なりきり ショート&ショート

 
【夕暮れロボット】
          久保研二 著
           
「一家に一台」と派手に宣伝されるようになり、値段も大幅に下がって、世の中のほとんどの仕事を一般家庭でもロボットが行うようになってから、はや50年の歳月が流れた。

 半世紀に渡る進歩が、常に革新的な能力を新型のロボットに与え続けたために、初期型のロボットの値打ちはどんどん下がって、少し前からは、粗大ゴミとしてお金を払

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大人の童話  森の時計屋

大人の童話  森の時計屋

【森の時計屋】
        久保 研二 著

 眠りの森の入口付近、郵便局と山猫食堂のあいだを脇へちょっとはいった右側に、小さな時計屋があります。

 そこのご主人はとてもやさしい老人で、顔にくっきり「いい人」と書いてあるのでした。

 若い頃は、この森のすべての時間を決めるという、胃袋の内側の壁をすり減らすたいへんな役目を担ったこともありますが、歳をとってからはそんな時代のことはすっかり

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大人の童話 車庫夢譚

大人の童話 車庫夢譚

大人の童話シリーズ

【 車庫夢譚 】  久保研二 著

 ローカル線の列車が終点駅に着いた時、車内にはたった一人しか乗客が残っていませんでした。その客は座席に崩れるようにして熟睡していました。
 
 見回りに来た車掌が、そっと抱き起こして穏やかに声をかけました。

「お客様、終点です。このあとこの列車は車庫にはいりますので……」

 なぜか客の目は涙で赤く腫れていました。きっと悲しい夢でも見

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大人の童話 最終列車

大人の童話 最終列車

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【 最終列車 】  大人の童話シリーズ
             久保研二 著

 新幹線を降りたあといくつかの階段を昇って降りて在来線に乗り換えると、プラットホームに流れるアナウンスが、下りの最終列車だと何度も念を押しました。
 やがてドアがしゃっくりをするように閉まり、わずか3両編成の列車が両側を真っ黒な雑木林にはさまれたままその隙間を縫って走っていきます。
 そのうち、一人降り、二人降

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