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エッセイ ロボット三原則

【ロボット三原則】 久保研二
 
 人工知能によって意識や判断能力を持つ、いわゆる自律型ロボットに対して適用される「ロボット三原則」というものがある。
 マイコン機能がついていても、普通の洗濯機や掃除機は対象外だが、ルンバ(自動掃除機)や、アイボ(犬型ロボット)は該当するはずである。

 この「ロボット三原則」、もとは海外のSF作家がとなえた概念だったが、いかんせん時代が少々早すぎた。

 作家の名は、アイザック・アシモフ。彼はSF作家であると同時に科学者でもあった。そして次のような言葉を残した。

「将来、ロボット工学が発達すれば、三原則をとなえた自分がSF作家としてではなく科学者の端くれとして真の名声を得られるかも知れないが、それはおそらく自分の死後にちがいない」。

 現実のロボット工学はアシモフが予想した何倍もの速さで進歩したのだが、彼は1992年に惜しくも72歳で亡くなり、その結果歴史は彼の言葉どおりになってしまった。もう少し長生きしていればと、他人事ながら悔やまれる。名声は私のように……? 死後に受け継がれたのである。
 私は、政治はこの先、さらにロボット工学が進化したのちに、信頼できる人工知能に任せるべきだと考えている。あらゆるデータを収集、分析し、未来を的確に想定、予測して、最も効果的で合理的な方針を導き出すことは、人工知能(AI)が一番得意とすることであるからだ。

 この問題でどうしても恐れられるのは、人工知能(AI)の機械的ミスと暴走と人類に対する反逆である。けれども人間だって、というか人間の方が過ちを犯す確立が圧倒的に高いうえに、そこに存分に悪意が混入するケースが多過ぎるではないか。
 知的側面に限らず、発想力のレベルまでもが低い政治家や役人が、国をまるで私物であるがごとく動かし、ヘマばかりしている国家などに私はまったく興味がない。
 私は、遅かれ早かれ人類がやがて滅びる運命であるなら、腐った政治家の暴走よりも、どうせなら目一杯SF的に、映画を見ている気分のまま滅びたいのである。

「ロボット三原則」とは、言うなれば、すべてのロボットが遵守すべき憲法であり、当然、日本国憲法よりも明晰である。
 
第一条  ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
 
第二条  ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
 
第三条  ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
 
 この「ロボット三原則」があるので、古い時代のテレビアニメ「鉄腕アトム」のテーマソングの歌詞はこうなった。
 谷川俊太郎がまだ老化する以前の名作である。
 
  ♪
  町角に ラララ   海のそこに  今日も アトム  人間まもって……

 ちなみに、本田技研工業の二足歩行ロボット、ASIMO アシモは、表向きは、Advanced Step in Innovative Mobility = 新しい時代へ進化した革新的な機能性、の頭文字を取ったことになってはいるが、「足元」と、「アシモフ」を、かぶらせた魂胆が見え見えだ。
 けれどもこれを、笑って許せるセンスがよく且つマニアックなネーミングだと、私は高く評価している。
 
 

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