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嘘日記

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全部嘘で日記を書いています。 日記をまともに書いてこなかったので、体裁として日記になっていない部分が弱点です。 1000文字程度の短いストーリー集としてお楽しみ下さい。
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2023年6月の記事一覧

噓日記 6/20 ギターと暑さとふるさと

噓日記 6/20 ギターと暑さとふるさと

ギターを掻き鳴らしている。
数年前に手慰みに買ったアコースティックのミニギターがこんな蒸し暑い晩にはよく似合う。
高校時代にギターと出会い、それから真面目に練習するわけでもなく20個程度のコードを適当に紡ぎ続けてきた。
ウイスキーの水割りを傍に、適当にジャカジャカと弦を震わせる。
音楽理論もまともに知らないので、このコードの次はこのコードがあったら気持ちがいいなと試行錯誤を重ねながら、時折思い出し

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噓日記 6/30 お供え物の最適解

噓日記 6/30 お供え物の最適解

祖母が亡くなってもう十年は経とうかという年になった。
当時は学生だった私もいつのまにか社会の荒波に揉まれ、眉間には深い三本の皺を湛えている。
ヒアルロン酸でも注射すれば幾らか人相は良くなるだろうが、働く業界故に若さで勝負できるものでもなくどこかにやり手な雰囲気を纏わねばならない。
祖母が亡くなる前に愛想良く、いつも笑顔でと私に口酸っぱく言っていた言葉が、皮肉にも今の私の生き方の反対を示している。

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噓日記 6/29 牛丼屋のうなぎ

噓日記 6/29 牛丼屋のうなぎ

会社帰りに牛丼屋に寄って鰻丼を買った。
私と牛丼屋の鰻、初めての邂逅である。
大盛りを頼んでも千円しないお手頃さに若干引きながらも持ち帰りで一人前、袋に入れて持ち帰る。
家に帰り服を着替え、冷蔵庫で冷やした缶ビールを一本取り出して、グイと飲み干す。
喉を落ちてゆく、冷たい苦味が蒸し暑い今日をなんだかいい一日であったと誤魔化してくれる。
買い置きしていた卯の花を小鉢に添えて、ついでに豆腐を切って冷奴

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噓日記 6/28 舐めんなよ

噓日記 6/28 舐めんなよ

今日は暇で暇で仕方がなかったので、近所の公園まで鉄棒を舐めに行った。
鹿などは線路を舐めて鉄分を補給することがあるという。
実家では馬だ、鹿だと人間扱いされなかったこともあり、基本的にメンタリティがケモノとして醸成されている俺にとっては、そんな動物たちの振る舞いをトレースすることが一種の精神安定剤的な役割を果たす。
また、最近は路肩の無人で売ってるきゅうりくらいしかまともな物を食べていないので、極

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噓日記 6/27 祖父との思い出〜覇道を征く者〜

噓日記 6/27 祖父との思い出〜覇道を征く者〜

祖父とは折り合いが悪かった。
祖父はどちらかというとうだつの上がらないチャラついた男で、そのくせ浮気を繰り返すような救えない男であった。
そんな祖父を反面教師に育った私は真面目すぎるというわけでもないが正義感が強い堅物となった。
そんな二人が顔を合わせれば喧嘩になるのは必然だ。
何故祖母を大事にしないのかと思う私と、何故もっと好き勝手に生きないのかと思う祖父。
立場は違えどそこにはお互いの矜持とい

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噓日記 6/26 真実の探究チンパンジー編

噓日記 6/26 真実の探究チンパンジー編

チンパンジー研究家の西江仁徳氏の言葉に「チンパンジーは死なず、ただ消え去るのみ」というものがある。
また、米英の兵隊歌である『Old Soldiers Never Die』では「Old soldiers never die They simply fade away.」という詩がある。
この詩を和訳すると「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」となる。
えっ!?
そういうこと?
老兵=チンパンジーってこ

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噓日記 6/25 体調不良

噓日記 6/25 体調不良

昨日しこたま酒をかっくらったおかげで一日中布団の上で寝て過ごした。
普段は二日酔いになることなど滅多にないのだが、ちょっと体調が悪い中でそれを無視して馬鹿みたいに飲んだのが祟ったようだ。
こんなに体調が悪いのはパイズリという言葉を作ったのが山田邦子だと聞いたとき以来かもしれない。
世界は残酷だ。
今朝は目が覚めた瞬間から喉がカラカラに乾いていたので作っておいた麦茶を1リットルほど飲み干し、それから

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噓日記 6/24 空を飛ぶ何か

噓日記 6/24 空を飛ぶ何か

もしかしたら俺は今日、UFOを見てしまったのかもしれない。
生憎の雨が空をグレーに染め上げるものだから、憎々しげに天を睨んだその時だった。
鳥でもなければスーパーマンでもない、オレンジ色の、およそ空には似つかわしくない奇妙な光線が糸を引くように遠くの空へと進んでいく姿があるではないか。
人間は未知の何かに出会った時、その本性が表れるというのを今日改めて実感させられた。
俺はその光線の正体について何

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噓日記 6/23 女の思い出と湯船

噓日記 6/23 女の思い出と湯船

湯船に浸かり肩の力が抜けて、そっと浴室の天井を眺め、溜まっていた疲れがため息と一緒に漏れ出る。
入浴剤で乳白色になった湯はトロトロと指の隙間を流れ落ちて、個からまた群れへと戻っていく。
何度となく掬い上げてはそれが元通りに返っていく様をじっと見つめる。
孤独を紛らわせるには狭すぎる浴室の中で繰り返される所作に私はいつも後悔する。
引き裂かれては元の形に戻ろうとする湯に、昔の交際相手の顔を思い浮かべ

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噓日記 6/22 勇敢な老人の怖さ

噓日記 6/22 勇敢な老人の怖さ

勇気を持つことは往々にしていい作用をもたらす。
しかし、それが悪い方向に作用する唯一のものを今日発見した。
それが、老人だ。
勇敢な老人ほどタチの悪いものはないだろう。
アイツらは常々杖を持ち歩いていることからも見て取れるようにまだ闘争本能がバチバチなのだ。
いざ敵とみなされると即座に杖を逆手に持ち替え、アバンストラッシュを見舞われるのはもはや自明の理である。
彼らの肉体が彼らの思う通りに動いたの

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噓日記 6/21 ツッコミとは腐すことではないだろうよ

噓日記 6/21 ツッコミとは腐すことではないだろうよ

今日もいつもの日課をこなす。
仕事を終えて家に帰り、動画配信サイトで海外のバズった動画、特にライフハック系の動画に対してツッコミをアテレコする動画に低評価を押して回るのだ。
投稿者である彼らには何のクリエイティビティも存在しないにもかかわらず、他人の努力を腐すような方法をとるその了見が気に食わない。
バズり元と同じ土俵に上がる術がないにも関わらず、何故か上から目線でアイデア自体に文句をつける醜悪さ

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噓日記 6/19 暑さに弱る

噓日記 6/19 暑さに弱る

暑い。
死ぬほど暑い。
実際に火葬される時に意識があったら恐らくこんなものだろう。
今日はそれほどまでに暑い一日であった。
毎年この時期になると私はよく去年の夏を乗り越えたなと自分の持つポテンシャルが恐ろしくなる。
6月のうちから気温は30度を超えて、もはや往来を行く老人達は生きる気力を失ったのかシルバーカーに力なくもたれかかり転けそうな足が無理やり次の一歩として無意識に繰り出され行く当てもなく彷

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噓日記 6/18 界隈の自浄

噓日記 6/18 界隈の自浄

この世にはあらゆる界隈が存在する。
ファッションやゲームなどがさらに細分化されて、コミュニティが出来上がっている。
SNSなどで繋がり、互いを褒め合う文化の中で彼らにはもはや他者の目線が介在しない。
言わば自分の延長のような他者からの評価しか受け付けない状態へと陥っている。
自分の好きな自分でいられる、そう言葉を変えてみると大層素敵なものであるが、一方でその界隈から外れた所から俯瞰してみるとそのコ

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噓日記 6/17 恋文とテレビと

噓日記 6/17 恋文とテレビと

今日もテレビを流し見していると、誰かの恋文が晒しあげられ、馬鹿にされ、笑いものにされていた。
なんでも不倫相手に宛てた文だとか。
俺は誰かを好きという気持ちをバカにするような男にはなりたくない。
誰が誰を好きになろうと勝手だが、その想いを伝えることさえ憚られるような世の中ならもうこの世にいる意味なんてないと思う。
誰かに届けた言葉、それが恋文なら尚更だ。
言葉にもならないような気持ちを自分の持ち得

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