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噓日記 6/22 勇敢な老人の怖さ

勇気を持つことは往々にしていい作用をもたらす。
しかし、それが悪い方向に作用する唯一のものを今日発見した。
それが、老人だ。
勇敢な老人ほどタチの悪いものはないだろう。
アイツらは常々杖を持ち歩いていることからも見て取れるようにまだ闘争本能がバチバチなのだ。
いざ敵とみなされると即座に杖を逆手に持ち替え、アバンストラッシュを見舞われるのはもはや自明の理である。
彼らの肉体が彼らの思う通りに動いたのならば普段目の敵にされている我々若者などもはや絶滅危惧種である。
そんな彼らの闘争本能と滅びゆく肉体の均衡が昨今の安寧をもたらしている。
だが、一度。
彼らの中の誰かが、肉体が朽ちてもいい、この杖に命をかける、アバンストラッシュ! といった具合に一人でも勇気を振り絞った瞬間にこの均衡は崩れ去る。
基本的に若者は老人の敵かつ、逆もまた然りなのでそれはもう全面戦争だ。
老人の体が砕け散ろうとも一人一殺を辞さない果敢なアバンストラッシュ攻勢で若者を追い詰める。
そして勇気を振り絞った老人の中には真なる勇気、つまり勇者の存在が現れるのだ。
そのまだ見ぬ彼が放つ技といえば、そうメガンテである。
肉体がバラバラに弾け飛ぶほどの全生命力を注ぎ込む呪文。
元々、生命力など微塵も残っていないが辺りの数名を巻き込んで自爆できるとなると老人のテンションも爆上がり。
メンタル的に二十は若返ることが予測できるため、若者の三、四人を無惨にも肉塊へと変容させるだろう。
老人達は勇者の生き様を讃え、そしてその秘術メガンテさえも戦争の道具へと落とし込む。
彼らの闘争本能は発情期のパグにも勝るという。
元々格闘技をやっていたタイプのバトル老人なんかを相手した時にはもはや目も当てられない。
肩口に貼り付けたエレキバンをチャクラムのように振り翳し、あっという間に若者の首を刎ねるだろう。
ついでに戻ってきたエレキバンで自分の首も刎ねるだろう。
ここまで来ると分かるだろうが、基本的に老人の命は若者の命と等価で交換できない。
老人達はもはや死が隣にありすぎることで、死を操る存在となっている。
若者達の支える年金というシステムにも必ず噛み付く。
自らの老後を支えてくれているという認識すらなく全てに噛みつき、吠え、そしてその喉元を食い散らかす。
入れ歯には二本の鋭い犬歯。
彼らはもはや老人ではない。
リトルマッドギボンだ。
直訳するとちぃちぇ狂いテナガザル。
その両の腕が伸ばす目標は、我々若人達の首だけだ。
メメントモリ。
俺のばあちゃんが死ぬ直前に言った言葉が今、現実となっている。

どりゃあ!