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噓日記 6/19 暑さに弱る

暑い。
死ぬほど暑い。
実際に火葬される時に意識があったら恐らくこんなものだろう。
今日はそれほどまでに暑い一日であった。
毎年この時期になると私はよく去年の夏を乗り越えたなと自分の持つポテンシャルが恐ろしくなる。
6月のうちから気温は30度を超えて、もはや往来を行く老人達は生きる気力を失ったのかシルバーカーに力なくもたれかかり転けそうな足が無理やり次の一歩として無意識に繰り出され行く当てもなく彷徨っている。
恐らく彼らは今日、自宅に帰ることなく力尽き、文字通り帰らぬ人となるのだろう。
日も沈み始め夕暮れが街を染め、幾らか気温も落ち着くだろうかと期待してみたがそれも淡い期待の通り、泡沫となって消え失せた。
義務感となって無限の円環に誘われた近所の子どもが散歩に連れ出す犬も案の定、溶け出している。
普段はダックスフントを連れ回していた子どもの犬が今日はフレンチブルドッグになっていた。
正しくはダックスフントが溶け出して、ダルダルの肉塊へと変容していただけなのだが。
子どもの方も無論、溶けている。
普段被っているベースボールキャップはチューリップハットのように広がり、さながらたぬきの陰嚢のように子どもを包んでいる。
側から見れば大きな肉塊が小さな肉塊を連れ歩いているのと変わらない。
猛暑で我々の生活は著しく、大きな変化を遂げる。
カビ臭く、どこか埃っぽいエアコンを無理矢理にでも叩き起こし、部屋の気温をどうにか下げて我々は日常を取り戻す。
帰るべき4月くらいの気温まで室温が下がるまで、それはもう心頭滅却。
詳しく知りもしない経を出鱈目に唱え、パンツとランニングだけを着て座禅を組む。
汗ばんだ太ももがネチネチと気持ち悪いが、無理矢理にでも座禅を組むのだ。
止まれ、引け。
自らの汗にそう念じながら、がむしゃらに瞼をギュッと閉じ、祈るように経をあげる。
5分、10分、15分。
いつまで経っても部屋は涼しくならない。
多少部屋が広いことも災いしてか、この部屋はエアコンの効きが悪い。
しかしあまりにも遅いので、溺れかけた人間がどうにか水面にたどり着いたかのように私は深く息を吸い込んで目を開けた。
突然切れた緊張の糸にパチパチと視界の隅が薄暗くなっていくような気がする。
エアコンのリモコンを確認する。
25度、暖房。
ニィー!!!!
大の大人も奇声を発することはできる。
最後にエアコンをつけたのは冬、それはまだ雪が降る季節であった。
ぶつける当てのない怒りをただ声にして私は叫んだ。
ニィー!!!!
男達よ、牙を剥け。
ちゃんと熱中症になった。

どりゃあ!