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噓日記 6/27 祖父との思い出〜覇道を征く者〜

祖父とは折り合いが悪かった。
祖父はどちらかというとうだつの上がらないチャラついた男で、そのくせ浮気を繰り返すような救えない男であった。
そんな祖父を反面教師に育った私は真面目すぎるというわけでもないが正義感が強い堅物となった。
そんな二人が顔を合わせれば喧嘩になるのは必然だ。
何故祖母を大事にしないのかと思う私と、何故もっと好き勝手に生きないのかと思う祖父。
立場は違えどそこにはお互いの矜持というか、生きる上で柱にしているものがあって、それがどうしても相入れないことから何度となくぶつかった。
私は自分の周囲を幸せにすることを究極の目標としており、祖父はいつまでも自分が幸せになることを目標に生きていた。
私の矜持を捨てることはできないため、あえて祖父を切り捨てるならば彼は本当に救えない小さい男であった。
家族ともほとんど縁を切られながら、それでいてついてきてくれた祖母を幾度となく裏切り、そして最後には実家の墓に入りたいなどと宣うのだ。
厚顔無恥、というよりもなにか大切な感性が足りていないのではないかと疑ってしまう。
これは、そんな祖父を私が見限った物語だ。
祖母が亡くなる直前、終末期医療で実家に帰っていた時のことだった。
親戚一同、温かく優しく、そして誰よりも誰かの為に生きた祖母が逝くのを涙を流し見送った。
痩せ細った手を握り、一人一人最後の言葉をかけていく。
ありがとう、ごめんね、またね。
私たちは言えなかった言葉を祖母に必死に届けた。
そして最後に祖父の番だ。
祖父は彼女の手を握り、震えながら、そして何も言えなかった。
何も伝えられないままに祖母は亡くなった。
私はその姿を見て無性に腹が立った。
ありがとうも、ごめんねも、またねもお前が一番に伝えなければならないことだろう、と。
ありがとうも、ごめんねも、またねも一番お前の口から聞きたかった言葉だろう、と。
その瞬間、私から祖父に対する情というものが消え失せた。
普段からうだつの上がらぬ奴だとは思っていたが、大切な、最後の時間に何も伝えられないほど口が回らぬならばいっそ生きていなくていいとさえ思ったのだ。
だが、この言葉は堪えて生きていく。
私の魂に刻んで生きていく。
私にも流れているのだ。
祖父の、許しがたい祖父の血とその根性が。
安心しろ、私が末代だ。
この血で苦しむ奴を私はもう生む気はないし、生ませない。
お前が言えなかった言葉を、私は言わなかった言葉にして生きていく。
祖母への土産話にするまで。

どりゃあ!