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プロジェクト譜を活用した地域活性化プロジェクトの上手いマネジメント方法について考える|地域視考

昨今、地方では数多くの地域活性化を目的としたプロジェクトが行われている。しかしながら、その成果は芳しいと言えない。前回テーマにした小規模集落ならば、それも致し方ない面がある。

そもそもリソースがあまりにも足りておらず、リソース確保それ自体が一大プロジェクトになり、地域活性化プロジェクトに至れるかどうかの問題があるためだ。ゼロをイチにするのは難しくないが、ゼロをいきなりジュウにするのは不可能に近い。

そもそもリソース確保が叶うならば、その時点で地域活性化プロジェクトが実質的に成功しているとも言える。一方で、消滅可能性自治体と呼ばれながらもまだまだ数万人規模の人口を擁する自治体の場合、少なくとも現時点でリソース不足の問題はない。

『人手不足であり、人材不足でもあるのだからリソースは不足している』といった声もあろうが、数万人もの人間が存在している状況でそうした声を出すのは、些か贅沢が過ぎる。不足しているのは能力だろうといった話にしかならない。

人手不足や人材不足と考えなしに言い、それが口癖になった結果として生じているのは、ただの金蔓としての自治体であり、だからこそ多くの地域活性化プロジェクトが失敗しているとも言える。リンクは広告であるが、そうした現実が強く指摘されている。

もっともだからといって自治体の事業を地元企業に任せれば良いかというと、そういうわけではない。地元企業に任せるのであれば、都心や外国資本の企業に任せた方が高い効果を望める可能性は高い。それは単純に、能力に大きな差があるためである。

企業としての能力差もさることながら、個々人の能力差が著しく乖離している。地方と都心、地方と外国では、競争に対して意識レベルで大きな乖離があるため、人の育ち方が大きく異なる。その結果として生じている人材のクオリティ差は、比べものにならない。

地元企業の幹部が都心企業の新卒2年目よりもビジネススキルで劣っているという事実は明白に存在しており、だからこそ地方および地方の企業の成長が乏しい。だからこそ自治体が地域活性化を意識して委託する事業を外に任せるのは合理性がある。

問題は、そうしたプロジェクトをイチからジュウまで丸投げにし、管理を放棄してしまう点、そもそもプロジェクト立ち上げにおいて計画性がない点にある。というわけで、今回の「地域視考」では、プロジェクトマネジメントについて考えたいと思う。


地方自治体の地域活性化プロジェクトを成功させるのに役立つプロジェクト譜

今回、テーマとして取り上げる書籍は、「予定通り進まないプロジェクトの進め方」である。以下リンクは広告だが、Kindle Unlimited 加入者なら無料で読める。

本書は、プロジェクト工学に基づき、プロジェクトマネジメントをより良い形で行うための手法を実例とともにレクチャーする一冊である。それだけ聞くと『プロジェクトを失敗させないようにする方法とは違うのでないか』と思われるかもしれない。

しかしながら、そもそもプロジェクトの失敗を生じさせているのは多くの場合が計画であり、マネジメントに原因がある。つまり具体性のない絵に描いた餅を計画したり、理想や目的を明確にして開始したものの進行の乱れなどにより実現性に瑕疵が生まれ、妥協に妥協を重ねて空虚な完了だけしてしまうために失敗する。

本書では、プロジェクト譜というものを用いて、予め外部環境及び内部環境を整理した上で、明確なゴールと中間目的の設定により施策を想定し、俯瞰的に実現可能性の高い計画を創れるようにしている。また、実際にプロジェクトが進んだ後に都度都度修正を加えながら、現状を俯瞰して適切な打ち手を講じられるようになる。

それだけではない。プロジェクト完了後にプロジェクトがどのように進められたかを後から検証できるようになる。結果的に失敗したプロジェクトはなぜ失敗し、どうすれば失敗を回避できたのか。成功したプロジェクトの要因は何だったのか。そうした点を後から俯瞰的に検証することで、プロジェクトマネジメントスキルの向上に結びつけられる。

昨今、様々な未知のプロジェクトに臨む必要性に迫られる自治体の職員はもちろん、ノンスキルでプロジェクトに身を投じる機会が増えている地域住民にとって、道標となり、参考書にもなるものと言える。実際にどういったものか、更に紹介しようと思う。

プロジェクト譜の使い方と使う流れのイメージ

プロジェクト譜(プ譜)

プロジェクト譜の全体図は上記の通りである。左側に廟算八要素としてプロジェクトの概要が記載される。各要素は、それぞれのプロジェクトに合わせて分類した内容を記載する。「予定通り進まないプロジェクトの進め方」で記載されている内容を要約したものを一例として記載する。

  1. メンバー

    1. プロジェクトメンバーに関する情報を記載する(役割や得意領域、関係性など)

  2. 予算規模

    1. 予算に関する情報を記載する

  3. 納期/リードタイム

    1. 期限やその期限に関する情報(余裕の有無など)を記載する

  4. クオリティ

    1. 現状提供可能な品質や機能的な特徴、競合と比べたときの優位性などを記載する

  5. ビジネスモデル

    1. どのようにお金を得るか、何らかの評価を得るかを記載する

  6. 環境

    1. プロジェクトを取り巻く内外の環境やプロジェクトへの期待値などを記載する

  7. 競合

    1. 把握している競合の他、競合になり得る相手の情報も記載する

  8. 外敵

    1. プロジェクトを行う上で障害となる存在を記載する

これらはあくまで一例であるため、実際に記載する内容は、自身が当てはまると思った情報をざっくばらんに記載すれば良い。記載した内容は、右側を設計する上で参考にする。

右側には、勝利条件(プロジェクトによって達成するもの、目的など)、勝利条件を達成するための中間目的(主要な成功要因)、中間目的を実現するための施策を記載する。右側下部は、なぜ本プロジェクトを実施するかなどの背景や現在の状況などを自由に記載するが、記載がなくても問題はない。作る手順を大まかに伝えると以下の通りとなると思われる。

  1. 廟算八要素を記載する(すべて埋める必要はない)

  2. 勝利条件を設定する

  3. 中間目的を設定する

  4. 施策を設定する

なお、プロジェクション譜を実際に創ってみると分かるが、1枚のスライドに記載できる量はとても少ない。そのため、プロジェクト全体を1枚に収めようとすると入りきらない。よって使い方としては、プロジェクト全体について大まかなプロジェクト譜を創った後、各中間目的、各施策それぞれについて新たにプロジェクト譜を創るといった、細分化を用いる形が現実的となる。

プロジェクト進行中のプロジェクト譜

プロジェクト譜の使い方の詳細は本書に譲るが、使っているときのイメージは伝えようと思う。プロジェクト譜を創った後、プロジェクトが始まる。恐らく各施策を実行していくと思われる。各施策を実行すると、予定や想定と異なる結果が出始め、当初の計画はあっけなく崩れていくと思われる。

プロジェクト譜では、記載した施策を実行した後、コメントの形で施策に対する評価を行う。その評価に基づき、施策を増やしたり、中間目的の手前に新たな中間目的や施策を設定したりと、プロジェクト譜それ自体の修正を行っていく。

そうした修正は記録できるだけ記録し、後から確認できるようにする。それがプロジェクトマネジメントのナレッジとなる。上の図では、施策の2番目はそもそも失敗だったためバツをつけている。また、施策の1番目(A)を実施したところ、施策の3番目(C)に繋げた方が効果が高いことが分かったため、AからCへと矢印を伸ばしている。

このように流動的に状況が変化していくプロジェクトの様子を、可能な限りプロジェクト譜にも記載していく。その結果、プロジェクト譜の内容が変わってくるはずである。そうなったら、最終稿として新たにプロジェクト譜を創り、プロジェクト完遂までの道筋を見やすく表す。

するとプロジェクトの完遂と併せて、最終的にどのような過程を踏んだことでプロジェクトが完遂したのか確認できるプロジェクト譜も完成する。これはプロジェクトに参加していないメンバーも後から確認して、失敗や軌道修正、最終的にどんな道筋で完遂まで至れたのかを知る材料となる。

プロジェクト譜が溜まっていけば、それだけプロジェクトマネジメントのナレッジが積み重なるとともに、プロジェクトマネジメントに不慣れなメンバーにとっての良い教科書が出来上がる。自然と組織全体のプロジェクトマネジメントスキルが高まっていく。

それは地方自治体において言われる人材不足をカバーする材料になるだろうし、新たに失敗するプロジェクトを生み出すのを防ぐ防具となる。最後に、実際にプロジェクト譜を使ってちょっとしたプロジェクトを進めるデモンストレーションを記したいと思う。

読書会プロジェクトを例にプロジェクト譜の使い方を知る

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