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【読書ノート】48「私が陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット:中国の富・権力・腐敗・報復の内幕」デズモンド・シャム

1921年出版。政府の有力者である温家宝元首相の妻に食い込み、「関係」(政府の大物たちとのコネ)を駆使し中国で巨万の冨を築いた筆者とその妻の回顧録。有名な政府高官が実名で登場し、彼らとその親族がどのように蓄財したのかがインサイダーの視点で語られる。中国の超上流階級である「赤い貴族」の都合や利権ですべてが運営され、法治主義がなく高官であっても簡単に粛清されてしまう有様が描かれている。以前読んだ「国際指名手配 私はプーチンに追われている」の中国インサイダー版のような感じで、独裁主義国家の恐ろしさが痛感できる一冊。

もし令計画と孫政才が粛清されなかったら、今頃は2人とも中央政治局常務委員になっていただろう。 そして、中国共産党は 、80年代に鄧小平が生み出した集団指導という考え方を維持していただろう。集団指導体制は完璧なシステムがなかったが、1人の人間が、この場合は毛沢東が全てを支配する時代に、中国が逆戻りするのを防いでいた。競争相手や後継者候補が出世コースから外されたり投獄され たりした今、習近平はさらに大きな権力を掌握する方向に向かっている。2018年3月、彼は、国家主席の人気を廃止する 憲法改正案を強行通過させて、自分が終身皇帝になる道を開いた。

p293

情け容赦しないという姿勢は、共産主義体制が生んだものだ。 私たち中国人は、幼い頃から 熾烈な生存競争の中で戦わされ、強いものだけが生き残るのだと言われて育つ。 協力することや、チームプレーヤーであることは教えられない。私たちが学ぶのはどうやって世界を敵と味方に分けるかであり、味方との同盟関係も一時的なもので、仲間は消耗品だということである。党に命じられれば、両親や教師、友人でさえ密告する覚悟ができている。そして良心の呵責に苦しむのはバカだけだと教えられる。これが、1949年以来、共産党が権力を維持するのを可能にした 指導原理なのだ。マキャベリ が中国にいたら、きっと居心地が良かったに違いない。私達は、生まれた時から「目的は手段を正当化する」と教えられるからである。共産党が支配する中国は非常な世界なのだ。

p298

中国の指導者たちの息子や娘は、 自分たちだけで一つの種を構成している。彼らは、一般人とは異なる法則に従って生き、次元が違うと思えるところるに暮らし、他の中国人から隔離されている。彼らが住む場所は高い塀の向こう側にあるのだ。大衆とは買い物する場所が違うし、食べ物は 独自のサプライチェーンを通じて入手する。運転手付きのリムジンで移動し、一般人が入学できない学校に通い、特別な病院で治療を受け、政治的な縁故を通じて 資産を作り、それを売却したり貸したりするのだ。

p299

中国共産党が個人の自己中心的な利益よりも集団の利益を優先にしてるというのは、彼らが作った嘘である。個人の権利という強迫観念に辟易している多くの欧米人が、中国共産党は公益を重視しているという幻想を信じている。現実には、党の主な目的は、革命家たちの息子や娘の利益に奉仕することだ。最大の受益者は彼らにあり、彼らこそ、経済的、政治的権力の中心にいるのである。 

p310

今、様々な資源を手に入れた中国共産党は、逆戻りして本来の性質を露呈し始めた。時を同じくして、私は、人間に得られる最も貴重なものは、 富や仕事の成功ではなくて、人としての基本的な尊厳や人権だということに気がついた。その理想を共有できる社会で生きるために、中国ではなく、西洋世界を選んだ。 それは私だけのためではなく、息子のためでもある。

p311

(2023年11月20日)


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