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【読書ノート】12「同調圧力」望月衣塑子、前川喜平、マーティン・ファクラー

現在の日本の政治・ジャーナリズムに対して高い見識を持つと思われる望月衣塑子(新聞記者)、前川喜平(元官僚)、マーティン・ファクラー(米国人新聞記者)による著書。どれも現在の日本の状況を理解するのに大変役立つが、主にニューヨークタイムズ紙の東京支局のジャーナリストのマーティン・ファクラー氏の意見をいくつか抜粋。

(1)日本のジャーナリズムについて

「長く日本のメディアを見てきて強く感じることは、調査報道の対極に位置するアクセス・ジャーナリズム、つまり権力者からいかに情報を得るかの方に、あまりにも重きが置かれ過ぎている点だ。アクセス・ジャーナリズムの危うさに気づかず、取材対象者との円滑なコミュニケーションをキープしておくのが当然、いったい何が悪いのかと、問題意識さえ抱いていないように思えてならない。1800」「もしも私が日本の新聞社のトップに就いたとすれば真っ先に「脱記者クラブ」を宣言する。アクセス・ジャーナリズムよりも調査報道の比重を大きくした方が、読者のニーズに答える記事を届ける意味で理にかなっているからだ。p1882」

「アメリカやヨーロッパとは異なり、日本では企業をはじめとするさまざまな組織のなかに、家族の絆にも似たウエットな関係が持ち込まれる手法が定着している。強い仲間意識のもとで、お互いを支え合う構造の居心地よさを覚えるほど、自分なりの倫理観を貫きながら行動することが難しくなる。和を乱す、信頼できない人間というレッテルを貼られてしまうからだ。p2162」

「誤解を恐れずに言えば、権力側からジャーナリストたちにかけられるプレッシャーを比べれば、アメリカの方が日本の10倍、いや100倍は強いのではないだろうか。中国やロシアは推して知るべしだろう。1752」「警察や裁判によるプレッシャーのない甘い環境のなかで、大手と呼ばれるメディアの間で 暗黙の了解や習慣といったものができあがっていることが、逆に問題だと思います。真価が問われる時代において、権力と戦う体制が十分に整っていないと感じています。p2260」


(2)内閣情報調査室(内調)について

「公安調査庁は破壊活動防止法を執行する ために作られた行政機関ですが、過激派がいなくなったため、その使命はほとんどなくなっていました。そこで浮いてくる情報部門の人員を 内調 が欲しいというあるいは 外務省も欲しいという。そこの調整をしました。そのときに知ったのは、内調というのは、実は公安警察 と一体だということでした。内調の幹部というのは、みんな警察庁出身者で、いってみれば警察の出先なのです。警察と一体に なって仕事をしているんですね。内調の組織自体がすべての情報機能を持っているわけではなくて、警察と連携することで、その機能を維持しているというのがわかりましたよね。2414」「翻って内調は首相直結の組織であり、トップである内閣情報官である北村滋氏は毎日のように総理執務室に入っている。2468」「内調に関するここまでのお話をうかがっていると、アメリカのCIAというよりも、スターリン時代のソ連の諜報機関を想起させますよね。後にKGB(ソ連国家保安委員会)となるGPU(国家政治局)やNKVD(内部人民委員部)と呼ばれる秘密組織が、政敵らを弾圧していた戦前に近い感覚を覚えてしまいます。p2474」

望月衣塑子

「日本のメディアは、いわゆる同調圧力に弱いと言われていることや、横並びだという批判ももちろんわかっています。それでも一人ひとりの記者が勇気を振り絞って、自分にできることをやろう、おかしいものははっきりとおかしいと言おうと立ち上がれば、萎縮する空気が漂うなかでもメディアは変わる、記者の思いは必ず連鎖していくと思っています。記者が勇気をもって、声を上げ、報道を続ける限り、希望は抱けるし、社会はそうやって少しずつ少しずつ、変わっていくんだということを、前川さん含め、さまざまな立場の記者たちの取材や報道、市民の方々の奮闘を日々、見ながら学ばせてもらっています。p2551」

前川喜平

「ただ、権力が政権に一極集中している現状を考えると、いまこそ国民の一人ひとりが批判的な精神をもたなければいけない。憲法が定める三権分立が崩れ、チェック・アンド・バランスが利かなくなっているばかりか、本来は国家権力から離れて、自由でなければならない2つの領域にまで政権の支配が及んでいる。ひとつは教育に対してであり、もうひとつがメディアに対して。極めて危険な状況にあると言わざるをえません。p2570」

(2020年5月10日)


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