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【読書ノート】 24 「骨を引き上げろ」 ジェスミン・ウォード

この小説はアメリカ南部の架空の町を舞台としたハリケーンカトリーナに被災する貧困層黒人一家の物語である。著者ジェスミン・ウォードは1977年生まれのアフリカ系アメリカ人女性で、スタンフォード大学で学士号と修士号取得した才媛である。本書は2011年に出版され全米図書館賞を受賞したので読んでみたが、著者もインタビューで述べているようにフォークナーの影響を強く受けており、そのほかトニモリスンやカポーティ―などのアメリカ小説を彷彿とする内容の正統派のアメリカ小説であり、この本を執筆した当時著者は弱冠34歳であることが信じられないくらい質の高い充実した内容である。

 南部の架空の町が舞台であるように著者はフォークナーの一連の作品を意識して小説を描いたと思われるが、この作品の主人公は15歳の黒人少女とその家族であり、白人であったフォークナーが描くことが出来なかった白人から分断された黒人貧困層の視点から南部の架空の町を舞台に生きる人々の姿に加えて、2005年にミシシッピ州を襲ったカトリーナという災害の様子を細やかな筆致で描いた非常に優れた文学作品と言える。

 例えば2011年の東北大震災を舞台にした小説でこれほど伝統的な文学(漱石や鴎外や荷風など)を踏襲した高質な文学作品が現在の日本にはあるだろうか。現代アメリカ文学の懐の深さと豊穣さを改めて認識することになった1冊である。今のところジェスミン・ウォードの作品は2冊のみ翻訳出版されているが、著者の他のいくつもの未邦訳の作品もぜひ順次翻訳されて日本に紹介されて欲しいと思う。

(2021年12月7日)


 

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