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小説「水龍の竪琴」第1話


あらすじ
ここは水の都ドラゴナイト。水龍神の恵みを受ける国である。龍神の巫女サウラは父王の要請を受け、神託を受け取るため枯れかけた泉の神殿に向かう。しかしその時、隣国ソフィーロはドラゴナイトに奇襲を仕掛ける準備をしていた。エキゾチックな魅力の旅の吟遊詩人イノスの力を借り、サウラは龍神の本当の意志をお告げとして降ろすことはできるのか?そして戦いの行方は?

1、サウラとディオナ

その日は晴れ渡っていたーーー。
サウラは高台にある王宮の窓から海を見ていた。青い青い海が水平線の向こうまで広がっている。水平線に帆船のマストの先が見えてくる。誰かが近づいてくる気がした。胸が高鳴る。その時妹のディオナの声がした。
「お姉さま、陛下がお呼びです。」
トランスしかけた心を現実に呼び戻されて、一瞬ガクッと体が動いた。 
「すぐ行くわ。」
サウラは椅子から立ち上がった。

サウラはここドラゴナイト国の王の娘であり、巫女でもある。生まれたときから非凡なスピリチュアル能力を持ち、この国の主祭神、ウォータードラゴンの巫女として育てられた。一方妹のディオナはスピリチュアル能力はわずかで、背が高く、幼い頃から運動神経バツグンだったため、サウラの親衛隊に属している。ディオナも王の娘であり、それゆえ警護にドナンという若い兵士を従えている。ドナンは生真面目で話し方も動作もゆっくりだ。だが、いざとなると頭と体のスピードが爆上がりする。日頃のゆったりさからは想像もつかないその瞬発力を買われての、ディオナ個人からの大抜擢であったから、彼はディオナに絶対の忠誠を誓っている。しかし…。
「姫様、サウラ様と一緒に大広間に入られるおつもりですか?陛下はサウラ様と話したいと仰っていたのですから、遠慮すべきでは?」
「ああもう!ヒメサマはやめて!なんでお前はそうカタブツなのよ。私もお話に加わりたいの!ね、いいでしょ、お姉さま。」
サウラはため息混じりに苦笑した。ディオナのこういうところが姉妹として羨ましくもあり、姉として諫めるべきなのか迷ってしまうのだ。この国でも決してワガママは美徳ではないが、そのワガママゆえにディオナがとても魅力的なのもまた真実なのだ。サウラはサッと手招きでディオナを自分の後ろに誘導した。大広間の扉前に立っていた衛兵が、ゆっくりと扉を開けた。


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