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小説「水龍の竪琴」第6話

6.マルゴ公爵
ドラゴナイト王宮の渡り廊下を歩いている者がいる。怒りのあまり、足取りが強くなり、恰幅の良い身体をゆすりながらドスドスと歩いている。国王の右腕、マルゴ公爵である。
「どういうつもりだ、あの脳天気な姉妹は!あの死にぞこないの元将校は!」
サウラの予測通り、イノスを王宮に入れることに公爵は断固反対した。けれどもオーロの巧みな言葉の戦法に最後は同意せずにいられず、それが悔しくてたまらないのであった。

「マルゴ様。」
人は見えないのに話しかける声があった。ドラゴナイトの諜報員、影である。
「どうした。」
「明日のサウラ様の泉への参拝は避けられません。これまで通りの対応でよろしいのでしょうか。」
「今更慌てても仕方がない。知ってのとおりサウラは直感が鋭いからよく見張っておくように。」
「かしこまりました。」
影の気配が消えた。マルゴ公爵はひとりつぶやいた。
「この国の首脳陣は水龍のお告げとやらに頼りすぎだ。私がその悪癖を断ってみせる。」
何かを思い出したようにマルゴは空を仰いだ。先ほどまでの怒った表情ではなく、どこか憂いを含んだ顔であった。

7.水龍の巫女
サウラは侍女たちに囲まれて湯浴みをし、真っ白い下着とひらひらしたドレスに身を包んだ。花嫁衣装のように見えるのは、神の花嫁という巫女の地位を示すからであった。
サウラは儀式の必要があったためイノスとは別行動である。酒場でイノスを呼び止めたのは精巧な造りの竪琴に、使者であることを直感したからだ。しかしイノスの携えた情報がどのようなものかはわからず、とても気になっていた。と同時にイノス本人に対する興味が湧いて止まらないことにとても困惑していた。

「お姉様。」突然ディオナが浴室の柱の影から顔を出した。
「どうしたのディオナ。イノスと一緒ではなかったの?」
「それがお父様に人払いされちゃったのよ。よっぽど大切な情報なのだわ。イノスも真剣な顔をしてたもの。」
「あの人真剣な顔することあるの?」
ディオナは笑いだしたが、思い直したように真顔で言った。
「あの人の剽軽さは仮面だと思うわ。お姉様は近くに殿方がほとんどいないからわからないのよ。それに…」
「それに?」
「お姉様ったらイノスのこととなるとツンデレになるんですもの。ツンデレって、立派な恋わずらいの一種だわ。」
「恋、、、なんてこと言うの、ディオナ!私は神の花嫁なのよ!」
そう叫んだときにはディオナは扉を開けて走り去っていた。

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