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小説「水龍の竪琴」第14話

16.小さな家
「サウラ、サウラ!」
イノスの声でサウラは目覚めた。起き上がってみると明るくなりかけた河辺りだった。小さな家と納屋があり、あちこちに黒い鎧を着た兵士が倒れている。鎧は水でびしょびしょで、溺れ死んだかのようである。
「光の後を水が追いかけてきたそうだ。丁度いいから生き残りの2、3人を舟にのせてソフィーロに送り返しといたよ。洪水の生き証人だからな。しばらくはドラゴナイトに手を出す気にはならないだろう。」
イノスはサウスイルドを出たときのことを思い出し、少し胸が痛かったが、サウラに対しては明るく振る舞った。二人で過ごす時間が長くなるにつれ、サウラもそういうイノスのことがわかるようになっていたが、どうやって慰めたらいいかわからなかった。黙ってイノスの肩にもたれた。
「サウラ様」
後ろから声がした。家の主人と奥方であった。奥方が小さめのローブを持っている。
「これを、、、。」
そう言われてサウラは自分が薄い下着一枚であることに気がついた。慌ててローブを受取り、羽織る。この格好でイノスにしがみついていたかと思うと恥ずかしくて顔から火が出そうであった。イノスが今度は屈託なく笑いながら言った。
「こういうの、役得っていうのかな?」
「もう!」
小さな家の主人と奥方が微笑みながら二人を見ていた。

17.最後の敵襲
王宮に集まった市民は朝の光の中、順次街に戻っていくところだった。皆ホッとした表情で、談笑しながら帰り支度をするものもいた。和やかな空気であったが、オーロには気になる5人くらいの一団があった。
「目つきが鋭すぎる、、、。」
自警団の面々に尋ねてみたが、誰も彼らを知らなかった。オーロは念の為持ってきた大剣の柄を握り、彼らに近づいた。
その時帰っていく市民たちを労うため国王とディオナがバルコニーに姿を見せた。刹那、オーロの目の前で敵は荷物から弓を取り出し、矢をつがえてバルコニーに向かって打ち込んだ。次の瞬間オーロの大剣が敵を捉え、なぎ倒した。歳をとったとはいえ、歴戦の勇者である。ひるんだ敵を国王の親衛隊が取り囲み、捕らえた。

「大事なくてよかった。市民を見送ろうか。」
父王が言った。ディオナが言う。
「はい、陛下。ところでお姉様とイノスは大丈夫かしら。」
「うむ。サウラの親衛隊の言うには、神殿にもいなかったらしくてな。あの光の洪水に巻き込まれていたら、どこまで流されたかわからぬが、今捜索隊を出しているから連絡を待とう。」
「無事なような気がするわ。」
「そうだな、私もだ。」
短いやり取りのあと、二人はバルコニーに出た。ドナンが後に続く。その一瞬後、ドナンがディオナの前に立ちはだかった。ゆっくりとくずおれる。国王の護衛がすぐに王とディオナを取り囲み、部屋へと誘導する。ディオナは何が起こったかわからなかったが、ドナンの肩に矢が突き刺さっているのを見て青ざめた。毒矢であるらしく、顔が黒ずんでいる。
「ドナン!ドナンーーッ!!」
ディオナは悲鳴を上げた。



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