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小説「水龍の竪琴」第7話

8.謁見
人払いを終えた後、国王は落ち着いた声でたずねた。
「さて、旅の吟遊詩人よ。楽にせよ。私に知らせたいこととは何だ?」
イノスは頭を上げ、答えた。
「はい…。実を言うとドラゴナイト王国の水不足がここまで深刻だとは思っても見ず、私の携えた情報をどう扱えばよいか戸惑っておりました。そこにサウラ様とディオナ様が現れたのです。」
「うむ。言いにくい話であるか?構わぬ。申してみよ。」
「はい。実は私の祖国サウスイルドはもうありません。海を挟んだ隣国の軍勢に滅ぼされてしまったのです。」
「なんと!」
「夜半の奇襲でした。国王、王妃、第一王子は黒い傭兵の軍団に殺され、第二王子である私だけが逃げのびることができました。黒い傭兵の軍団とは、訓練された黒い甲冑の傭兵部隊で、金さえ積めばどこの国にでも雇われて奇襲を仕掛けます。」
イノスは悪夢のような一夜を思い出し、唇を噛んだ。
「うむ。聞いたことがあるぞ。それでは次の標的がドラゴナイトということか!」
「はい。旅の途中でドラゴナイトの隣国ソフィーロに立ち寄った際、サウスイルドで見た傭兵の指揮官の顔を見ました。こっそりと後をつけ、ソフィーロの森に軍団が集結しているのを目にしたのです。」
「そうか…。それではもう余裕はないな。対処を急がねば。大儀であった、イノス。ゆっくりと寛がれよ。」
サウスイルドはドラゴナイトからははるか南の島国である。戦争が起こっているという知らせは風の噂に聞いていたものの、詳しい戦況などはドラゴナイトまで届いていなかった。イノスが言いかけていたように、水不足という内政に気を取られていたからでもあろう。ソフィーロはドラゴナイトの豊富な水資源を虎視眈々と狙っていて、これまでも河を挟んでの小競合いが絶えなかった国である。一気に傭兵部隊の奇襲でケリをつけようとしてもおかしくはなかった。

「サウラの参拝が明日というのは、神の思し召しだろう。だが女性だけの道行では心配だ。後ろに親衛隊をつけよう。サウラが納得すればの話だが。」
国王は一人つぶやき、大臣たちを呼んだ。

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