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小説「水龍の竪琴」第15話

18.帰還
ドナンは夢の中にいた。暗闇に包まれ、自分はもう死ぬんだと思った。
「ディオナ様を守れたんだから、本望だ…」
その時温かい手がドナンの手を包んだ。かすかに自分を呼ぶ声がする。
「ディオナ様…?」
暗闇が晴れていく。ドナンは薄く目を開いた。泣きじゃくった後のディオナの顔がそこにあった。
「先生!目を開けたわ!」
「もう大丈夫でしょう。精のつくものを食べさせてあげてください。」
御典医は立ち上がった。泣きはらした目でディオナが言う。
「ありがとうございます、先生、、、。」
「なんの。彼の並外れた体力のおかげですよ。」
御典医が部屋を出た後、ドナンは不思議そうにディオナを見つめ、言った。
「私は、、、助かったのですか?」
「そうよ、私を一人にして置いていったら、許さないんだから!」
ディオナの目からまた涙が溢れた。ドナンはなんと言っていいか分からず、繋いだままのディオナの手を強く握り返すのだった。

サウラとイノスは小さな家の夫婦に別れを告げ、黒い傭兵部隊の馬の装具を外して乗り、王宮に向かった。市街地の外れまで来たとき、捜索隊が駆け寄ってきた。
「サウラ様、イノス殿!お探ししました!こちらに来ていただけますか?」
サウラとイノスが案内されたのは、オーロの酒場であった。オーロが気を利かせて捜索隊の休憩所に開放したのだ。中に入ると服をびしょびしょに濡らした男が座っている。イノスとサウラが同時に叫んだ。
「マルゴ公爵!」
いつもの居丈高な振舞いは影を潜め、ぼんやりした視線を二人に向けた。サウラとイノスだと確認すると、堰を切ったように話し始めた。
「おお、龍神よ!このお二人は凄い!私はもう諦めていたのです。あの地下通路で死ぬつもりでした。お二人の声が光の洪水を起こし、私はそれに巻き込まれ、流されました。光の後を水が追いかけてきて、私はもう死んだと思いました。その時死んだ妻が現れたのです。水の方向を変え、私に向かって微笑みながらこう言ったのです。『あなたには、まだやることがあるんですよ』と…。気がつくと市街地まで流されていて、あなた方の捜索隊に発見されたのです…。」
サウラとイノスは顔を見合わせた。イノスが言う。
「パイプラインは行き過ぎで水不足を招いたけどな、必要があって輸出する分には龍神は許してくれると思うぜ、、、おっと、聞きたいことがあった。上水道の工事費を未だに国民が払い続けてるってのは、どうしてなんだ?」
「メンテナンスに出費がかさむのです。しかし疑問を持たれるのが当然ですな。余った代金は国庫にプールされていますが、見直しが必要ですな。輸出に関しては国王陛下もご存知なのですが、なぜそれがわかったのですか?」
「サウラの補佐で俺が受け取ったお告げだよ。」
マルゴの顔がパッと明るくなった。
「そうなのですね?ではこうしちゃいられない。樽の被害を確認せねば!失礼ッ!」
マルゴは体を揺すりながら店を出て行った。サウラが言う。
「ドラゴナイトになくてはならない方なのです。陛下も私も実務は少し苦手ですから。」
「なるほどね。」
二人は顔を見合わせ笑った。

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