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小説「水龍の竪琴」第5話


5.イノス
青年はくるくる変わる眼の表情を、不思議な高貴さに変えて言った。
「俺の名はイノス。そちらの美人さん二人は王室関係者と見た。俺は南の島の王室から遣わされた使者だ。国王に秘密裏に謁見できるようはからってもらいたい。」
さすがにオーロも驚いた。ディオナ、ドナンも然りである。しかしサウラだけはその言葉に動揺しなかった。サウラが動揺したのはさっきのイノスとの至近距離のダンスの方だ。

「そうだと思いました。その竪琴です。それはこのドラゴナイト王国が国交を結ぶ際に相手国に贈られる、平和の証なのです。」
サウラの言葉にイノスは嬉しそうに言った。
「そのとおり!案内してもらえるね?」
「私の一存では決められませんわ。」
「なんでだよぅ!これでもサウスイルド王国の第ニ王子なんだよぉ!」
大げさな口振りとジェスチャーに、ディオナが笑いだした。サウラも笑いたいのをこらえて言った。
「その言葉遣いでは宮中のうるさがたを説得するのは難しいかと思います。」
イノスは絶望的に叫んだ。「おお、神よ!仕方ないじゃん、こちらの言葉習ったのは威勢のいい船乗り連中からなんだし!」
ディオナがオーロを振り返って言った。
「私は個人的にこのひとが好きです。私の歌の教師として王宮に招いたということにしてはどうでしょう。どう思われますか、オーロ。」
ドナンが焦って遮った。
「いけません、姫様!こんな得体のしれない輩を王宮に入れては!」
「大丈夫。お姉さまも好意を持ってるし、それはつまり私達には危害を加えないってことだわ。平和の使者として。」
オーロも、思案しながら頷いた。
「そうですな。サウラ様の直感は子供の頃から国を助けてきましたからな。けれどもそれだけではリスクが大きい。そちらの青年将校と私で見張ることにしましょう。それでよろしいでしょうか、サウラ様。」
「そうね…。」サウラは少しはにかみながら答えた。「この人には悪いオーラは見えないから、王宮に入ることはできそうだわ。マルゴ公爵がいい顔をしないとは思うけど。」
「よっしゃぁ!決まりだ!よろしく頼むぜ、みんな。」イノスが嬉しそうに言った。


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