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人間はそもそもクリエイティブな生き物(山崎繭加)

山崎繭加の「華道家のアトリエから」第1回
Big Magic: Creative Living Beyond Fear ” 
by Elizabeth Gilbert 2015年10月出版
BIG MAGIC 「夢中になる」ことからはじめよう。
著:エリザベス・ギルバート 訳:神奈川夏子
ディスカヴァー・トゥエンティワン 2017年10月刊行

その時の自分の人生にとって出合うべくして出合った本、というのがある。その本を読んだことで、自分の人生の歩き方がちょっと変わって、そのちょっとの違いが積み上がって、振り返ってみればあの本が人生の分岐点だったかも、という本。

そのうち一冊は、ピーター・センゲなど変容や学びについての研究者や実践者が書いた“Presence”(日本版『出現する未来』)。ちょうど人生が根底からひっくり返ったように感じていた時期でひたすら右往左往していたが、この本を読んで、「地に足がつく」感覚を覚えた。これは今でも思い出せるような非常に身体的な感覚で、この感覚を持てたかどうかで、その後の人生はだいぶ違ってきたように思う。本の内容自体はほとんど忘れてしまったけれど。

そして、最近、もう一冊に出合った。エリザベス・ギルバート著“Big Magic”(日本版:『BIG MAGIC「夢中になる」ことからはじめよう』)だ。

ベストセラー作家が問いかける「創造的な人生とは何か」

ギルバートは、“Eat, Pray, Love”(日本版『食べて、祈って、恋をして』)の作者。10代の頃に生涯書き続けることにコミットし、原稿を何百回と出版社に送っては断られるという20代を送る。それでも書くことが好きだったのでバーテンダー(※)やキャンプのシェフなど様々な仕事をしながら、とにかく書き続けて、少しずつ出版できるようになり、世界を旅して回った時のことを描いた自伝エッセー“Eat, Pray, Love”が爆発的なベストセラーとなる。

※:ちなみに、彼女が勤めていたのは、バーテンダーが激しく踊ったりお酒を振り回したりする「コヨーテ・アグリー・サルーン」。彼女が当時の実体験を書いた短編は映画『コヨーテ・アグリー』の原作となった。

そんな彼女が、クリエイティブ・ライフ(創造的な人生)を生きるということ、そしてクリエイティビティ(創造性)とは何か、について書いた作品が“Big Magic”だ。

ギルバートの言うクリエイティブ・ライフとは、とてもシンプルだ。それは、創りたい、表現したい、という誰もが持っている創造の欲求に基づき、何かを創ったり表現したりし続ける人生のこと。それが仕事になっているかどうかは関係ない。
自分にとって唯一の財産である牛の角をピンクと青に染めてベルをつけて、「村でいちばん面白い外見を持つ牛」にしている、インドの小さな村に住む男性。
40歳になって子供の頃にやっていたフィギュアスケートを再開し、週に数回、夜明け前に起きてリンクで滑ってから会社に向かう女性ーー。
彼らこそ、クリエイティブ・ライフの実例だ。

そして、ギルバートは大前提として、人間とはそもそもクリエイティブであり、創造する生き物である、と説明する。

Are you considering becoming a creative person? Too late, you already are one... Creativity is the hallmark of our species. (p.769)

クリエイティブな人になろうと考えているの? 残念でした、もうあなたはすでにクリエイティブな人なんです...…創造性こそが人類の証しだから。

この「人間はそもそもクリエイティブな存在である」という前提は、一見相反するような二つの意味合いへとつながる。まず、人間にとって何かを創ることは、生きることと同値であり、とても大切なこと、ということだ。
少し先祖をさかのぼれば、誰もが自ら何かを生み出す作り手だったのに、資本主義経済が進んだ今や、何も作らず消費するだけの人が多くなっており、それはきっと人間にとっては本来あるべき状態ではないのではないか、と。

もう一つの意味合いは、そもそも人はクリエイティブなものなのだから、クリエイティビティやアートを大げさに扱う必要はない、ということだ。大げさに扱うから、創造というものに苦悩して、結局何も創らなくなってしまったり、最悪の場合は自殺してしまったりする。リラックスしよう、とギルバートは言う。

In conclusion, then, art is absolutely meaningless. It is, however, also deeply meaningful. (p.1246)

つまり、アートとは全くもって意味がないものであり、でも同時にアートは深い意味があるものでもあります。

さらに、ギルバートはクリエイティビティ(インスピレーションとも述べている)とは、個人の中にある資質ではなく、神聖な力、エネルギー体のようなものだと言う。
政治、経済、ビジネス、アート、ソーシャルなどあらゆる種類のアイデアそのものが、「実体を持ちたい」という欲求を持っていて、そのためには人間とコラボレーションするしかない。それらは実現してくれそうな人を探して、ふわふわと浮遊している。そして、「この人かな」と思ったらそのアイデアをことあるごとに伝え続け、伝わらないと思えば、他の人のところに行く。実現可能性を上げるため、同時に複数の人に伝えることだってある。

だから、人ができることは、アイデアやクリエイティビティがやってきたときに、それをちゃんと受け止められる準備をしておくことだけだ。
ギルバートの場合、どんなに生活がぐちゃぐちゃな時期でも、必ず一日30分は時間をとって、何かしら書くということを続けていたそう。
そして、限られた時間やリソースの中で自分ができることをやったのなら、その結果がどうなろうと気にしないこと。いっそのこと「クリエイティビテ側が怠惰だったから」と考えたってよい。
もし、クリエイティビティが自分から離れてしまったら、執着せずに手放し、次が来るのを待つこと。何より、クリエイティビティとのコラボレーションを楽しむことだ。

Creativity is a wild and unexpected bonus from the universe. (p.1189)

クリエイティビティは、宇宙からのワイルドで予想外のボーナス。

「いけばなを現代に伝える」アイデアも、ある日突然降ってきた

なぜ、Big Magicがすとんと今の自分の人生にはまったのか。
まずは、「クリエイティビティはエネルギー体のようなもので、実現してくれそうな人を探してそのアイデアをささやき続けている」という本に描かれていることが、自分の経験からも腹落ちするものであったからだ。
私自身、2年半前に20年間続けてきたいけばなを人生の主軸に置くことを決め、華道家として独立したが、その決断の裏には、ある日のふとした「あ、こうしたらいけばなを現代にあった形で伝えられる!」という思いつきがあった。思いついてしまうと、むしろなぜそれまで思いつかなかったのかが不思議なくらいで、そのアイデアを実現する以外の選択肢が消えたような感覚になった。
まさにそのアイデアはずっと私にささやき続けていて、ある時に急に……おそらく私の側の状況がいろいろと揃ったことではじめて、その声が聞こえた、ということだったのだと思う。

そして、“Big Magic”に書かれていることは、それを読んで納得したり感動したりするだけに留まらず、自分の人生にもリアルに影響を与えつつある。これは、本書をただ読むだけでなく、ギルバート本人によるオーディオブックを使い、彼女の声を少し後から追いかけて行く「シャドーイング」をこの数カ月やっているせいかもしれない。
Big Magic”に書かれている言葉が身体に染み込み、結果的に自然と自分の行動が変わっているーーそんなイメージだ。

クリエイティビティやインスピレーションがやってきた時、ちゃんとそれらを受け止められるように、日々意識して生活を整えるようになった。
そして、これまでだったら「時間がない」などの理由でやっていなかった「創る」行為が、少しずつだが日常の一部になりつつある。
その一つが、自分がいけばなを通じて学んできたこと・感じてきたことを、英語でブログに書く、ということだ。なんだかよくわからないけど、今、この行為がものすごく楽しい。

単に、ギルバートの美しくリズム感に溢れた等身大の文章の真似をしたいだけかもしれない。でも理由は何だっていい。今、私は英語でいけばなのことをブログに書きたい、それだけ。
ほとんど誰も読んでないだろうけれど、それも気にしない。誰のためでもなく、ただ自分が書きたいから書いている。創りたいから創っている。

ようやく取り戻した「創りたいから創る」感覚

そして、この感覚ーー「誰にも頼まれず、期待もされず、成果を気にせず、ただ創りたいから創る」を最後に味わったのは、ずいぶんと昔、小学生の頃だったことに気づいて愕然とした。
その頃は、受験勉強をやっているふりをして朝早くに起きて、物語を書いたり、その物語のキャラクターグッズを作ったり、詩を書いたりしていた。その後は、すでに定められた目的や場のためにしか、何かを創ろうとすることはなかった。創っていたとしても、何らかの成果を出さないといけないから、創っていただけだったのだ。

また、いけばなの活動についても、それまでは「社会のためにやっている」という気持ちがどこかにあった。
でも、そもそも自分がやりたいからやっているのであり、それがいかに社会のためになるかというのは副次的な話。そう考えた瞬間に、ふわーっと軽い気持ちになって、今では活動の時間そのものが楽しくなってきた。。まさにギルバートの言う「クリエイティブ・ライフ」を(以前よりは)送れるようになってきたのだ。

このタイミングで、3年前以上に出版されたこの本に巡り合うことができたのは幸運だったとしか言いようがない。これも何か、クリエイティビティの「ささやき」のおかげかもしれない。

The universe buries strange jewels deep within us all, and then stands back to see if we can find them. The hunt to uncover those jewels - that’s creative living...The often surprising results of that hunt - that’s what I call Big Magic. (p.74)

宇宙は不思議な宝石を私たち一人ひとりの奥底に埋め込み、そして身を引いて私たちがそれを探せるかを見守っている。この宝石を発見する捜索の旅、それがクリエイティブに生きる、ということ...そして、その旅はかなりの割合で驚くべき結果 - これがBig Magic - につながる。

*日本語訳はすべて著者が原書から訳したもの。日本版は参照していない。

執筆者プロフィール:山崎繭加 Mayuka Yamazaki
マッキンゼー・アンド・カンパニー、東京大学助手を経て、2006年より2016年まで、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)日本リサーチセンター勤務。また2010年から2017年まで、東京大学医学部特任助教として、グローバル人材育成にも関与。著書に「ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか」(ダイヤモンド社)。現在、華道家として活動を行いながら、ハーバード・ビジネス・レビュー特任編集委員、宮城県女川町研修アドバイザー、慶應義塾大学公衆衛生大学院非常勤講師なども務める。東京大学経済学部、ジョージタウン大学国際関係大学院卒業。


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山崎繭加の「華道家のアトリエから」
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