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詩画集「胡蝶の夢」

割引あり

胡蝶の夢

夢か現実か、はっきり分からないさま
人の世の儚い事
人生の儚い例え


胡蝶の夢・黄昏


夢のように儚い闇
漂い震え 迷い怒り
此処ではない何処かを夢に見て
夢を夢見て色はなく
この孤独を綴る日々よ

この胸の痛みは過去の思慕
乞い続けた思いの欠片
黒蝶の瞬き
逝く人と共に彼岸へ飛び立つ

何もない思考の荒野
立ち尽くし見渡せば
煙る慕情、あふれる涙
自身の黄昏を先に見る
「愛しい日々よ」
笑える明日を乞い願う


「胡蝶の夢・黄昏」2024年
水彩画/238×168㎜


啓示


黒蝶の来訪
別れの言葉
それはヒラヒラ、ヒトヒラと
頬に触れ、告げる真実
別れの予感を意識しながら
知っている今に目を閉じる
終わりの場面も悪夢のように
「嘘」を何度も繰り返す

知っている、形あるものは何時か終わる
知っている、永遠などありはしない

それでも人は夢を見る

「明日」を知る人は真実を胸に
旅立つ心は、もう此処にない
虚ろな眼を空に向け
彼岸と此岸の境で船を待つ
残して逝く思いを言の葉に

定められた命の終わりと
黒い一羽を映し身に
永遠の終わり
何時しか再会の約束を
心に触れて
去りて飛ぶ


「啓示」2024年
ペン画/150×100㎜


戯れ


消えて逝く
羽を無くした蝶が一羽
夕闇迎える石の上
何も知らぬ強者の遊戯
大空を飛ぶわけを
その理由を問う為に

失う痛みを知りもせず
弱者の心を知らぬとは、なんとも残酷な強者だろう
世界は自分の為にある
信じて、傷つけ、見失い
手にした夢も砂塵に消えて

自身の日暮れに思うのは
無知であった強者の後悔
無垢である彼らへ恐怖の思い
命は一つである事を
あの人の痛みと共に知る
終わる命の雫と懺悔

そして、私がいなくなる


「戯れ」2024年
ペン画/150×100㎜


夢幻

何度目かの悪夢を見る

それは、眠れぬほどの恐怖と儚い瞬き
黒い羽根に包まれて
夜のトバリと午睡の錯覚
暗闇から伸びる白い手は
ぬるい感触、悶える覚醒
地獄に続くその指に
意識を乗せて
幻の姿を追い求め、糸を手繰り地の底へ

その闇は誰がいる

胸に残る鉛の様な
感情の名前を見つけるように
蝶の揺らめき、儚い思考
懐かしい残り香に
何度目かの幻視を辿ろ
その背を追っては、かき消えて
陽炎の中で立ち尽くす

後悔という名の愛情は
在りし日の、記憶にない笑顔を作る
悪夢の原始〈枯渇した愛情〉
夢と幻、思慕の箱庭
愛された幻を夢に見て、後悔を重ね積む
今は一時、苦痛と共に
無限の彼方
酔いの闇


「夢幻」2024年
水彩画/238×168㎜


(短編)彼岸

もう、いないあの人を思う。

「もっと話しておけばよかった」
別れの式が終わり外に出る。
むせ返るような真夏の空気が半袖の腕にまとわりついた。
今日初めて、空を仰ぐ。
入道雲に日が隠れ、そろそろ夕日に姿を変える頃。
もういない。
もう、会う事がないと思えば振り返る事が多くなる。

最後まで分かり合えなかった後悔が残る。
あれだけ一緒にいたのに、あの人の事は何も分からないままだった。
〈以心伝心〉そんなものは存在しない。
私の言葉は最後まで、あの人に伝わらなかった。
別々の身体だから分かり合えないのか?
価値観が違うから分かり合えないのか?

どう接すればいいのか分からなかった。

近づこうと距離を詰めれば、詰めた距離と同じく離れていく。自分の事を分かってもらおうとすれば話すだけ距離が遠のいた。
あの人の口癖は「あなたが分からない」
笑うでも怒るでもない、眉間にしわを寄せて口にする。
悪い冗談だと思っていた。口喧嘩の一つだと思いたかった。

しかし、こうなってしまえば確かめる事は出来ない。
私の何が分からなかったのか?
私の何が不安だったのか?

思えば言葉が返ってこない虚しい日々の中、本心で話すのを辞めた。
そうすれば話ができた。
笑う事が出来た。
しかし、嘘は何時までも続かない。自身が耐えられなくなった。
いつしか、分かり合えないもどかしさに距離を置いた。
近づきたいと願ったのに離れる事しかできない。

「何をすれば良かったのか」
何時か話そうと思っていた矢先の知らせに言葉がない。
嫌っているわけではなかった、ただ何を話せばいいか分からなくなっていた。
「お互い落ち着いたら会って話そう・・」そんな思いを分かっていたのだろうか。あの人は遥か彼方、手の届かない遠くへ行ってしまった。

夏の夕日は暮れるのが遅い。
夢の様な黄昏に、淀む様な煙を眺めていると、不意に黒い蝶が目に留まる。

「今年は、またよく見るな」
身近な人が逝く年は必ず黒い蝶を見る。
季節の蝶か?たまたまか?
そういえば、今年は夏前から良く蝶を見た。
蝶は〈魂〉のイメージがある。
ひらひらと舞う様は人魂に似ているからだろうか。
捉えどころない、あの人に似ている。

黒い蝶は赤い彼岸の花に止まり、羽を動かし佇んでいる。
黒い下地に青い鱗粉が夕日に良く映えていた。
あの人の髪も青に近い黒だった。
光に反射すると、艶やかに青く光る髪をしていた。
年齢は私よりも上のはずなのに、とても若く見えた気がした。

よく考えると、あの人の事を良く知らない。
明るい性格に見えた。しかし、頑固なところがあった。
口喧嘩は私が強くて、あの人は口をきかなくなってしまう。
無言が窮屈でいつも先に折れるのは私。
もしかしたら自分を否定されるのが嫌いなひとだったかもしれない。

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